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古代ギリシアの猫について

古代エジプトにおいて猫は非常に愛され、尊重された動物の一つだったようです。それは、猫の女神バステトや猫のミイラなどから想像することができます。それでは、地中海を挟んでその向かい側にあるギリシアではどうだったのでしょうか? このまとめでは、古代ギリシアの古典文学に残っている猫の言及から、古代の人々が猫をどう見ていたかを紹介します。 ・3月6日追記 続きを読む
歴史 古代ギリシア 古代エジプト バステト 猫の盾 ヘロドトス 古典文学
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アザラシ提督 @yskmas_k_66
2/22の「猫の日」にやればよかったのかもしれませんが、【古代ギリシアにおける猫】について古典文献をもとに紹介しようと思います。 pic.twitter.com/bizxt1hOiT
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図版出典: Wikimedia Commons「Cat among the ruins, Ephesus, Turkey (7230542308)」

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(1)さて、古代ギリシア語で猫(主にイエネコ)をさす言葉は「αἴλουρος(アイルーロス)」というものです。モンスターハンターシリーズに「アイルー」という猫の顔をしたキャラクターが出てきますが、元ネタは多分このアイルーロスです。
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(2)アイルーロスという単語を古典文献から探そうと試みると、意外なことにホメロス(紀元前8世紀)やヘシオドス(紀元前7世紀)の書いた古い時代の詩には出てこないことが分かります。実は「猫」はギリシア古典の中にあまり登場しません。
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(3)「岩合光昭の世界ネコ歩き」のDVDを見ると、エーゲ海の島々には猫がいっぱいいるように思われますし、古代の壺絵のいくつかには猫(?)が描かれたものもあります。古代ギリシア文学も猫天国…かと思いきや、そうでもないのです。
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(4)では、初めて使われた例はどれかと古典文献を探っていくと、イソップ(前7世紀末~前6世紀中頃)の名に帰されている「寓話」に猫を見出すことができます。ただし、こうした寓話はイソップの名前が冠されているだけで、果たして本当に紀元前6世紀にイソップが作ったかどうかは分かりません。
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(5)で、そのイソップの名に帰された寓話の中に「猫と鼠」というものがあります。それはこんなお話です。
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「鼠がたくさんいる家を知った猫が、その家の鼠を次々と捕まえて食べていった。怖がった鼠たちは穴にもぐって隠れることにした。こうなっては手を出すことはできない。困った猫は木にぶら下がり、死んだふりをして鼠をおびきだそうとした。
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それを見た鼠が穴から顔を出していうには 『猫の旦那、たとえあんたが革袋になっても、俺たちゃ近づくつもりはないぞ』 われわれ人間も、相手が悪者だと分かったら、"猫かぶり"に騙されないようにしましょう」 …というものです(中務哲郎訳『イソップ寓話集』78頁)
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(6)イソップの寓話に出てくる猫のように、猫は鼠を食べます。当たり前といえば当たり前の話ですが、古代世界の人々にとってはこれは非常にありがたいことでした。 pic.twitter.com/CTpNOd55I2
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図版出典: Wikimedia Commons「Steinhowel cat」

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(7)というのも、鼠は人家や穀物の貯蔵庫に入り込み、保管している食糧を食べてしまいます。そういう鼠はどうにかして退治しなければなりません。そこで登場するのが鼠を食べてくれる猫です。
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(8)もちろん、ギリシアを含めヨーロッパにも古くからネコ科の動物はいました。豹や獅子など、絵やレリーフの中に刻まれたものもいました。ただ、人家で鼠を捕ったりはしなかったでしょうし、人間と行動を共にすることも決して多くなかったでしょう pic.twitter.com/vzkVnJm4VG
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図版出典: Wikimedia Commons「Panther Dionysus」

アザラシ提督 @yskmas_k_66
(9)人間になつきやすく、なおかつ飼育しやすい、所謂「イエネコ」は、いつの頃かは分かりませんが、アフリカ大陸からギリシアにもたらされました。主にエジプトから船に積まれて運ばれてきたのだと考えられています。
アザラシ提督 @yskmas_k_66
(10)こうしたイエネコはギリシアでも少しずつ増えていきました。イソップは、ギリシアに住み着き、身近な動物になった(なりつつあった?)猫を題材にして、寓話を作ったのでしょう。
アザラシ提督 @yskmas_k_66
(11)ちなみに、イソップ寓話に出てくる猫はどれも可愛いというより、ずる賢く、ほかの動物を食べてしまうものとして描かれました。これはローマの時代の寓話作家たち、さらに近代に「童話」としてアレンジが加えられた作品にも踏襲されます(cf. Babrius 17; 121)。
アザラシ提督 @yskmas_k_66
(12)といったところで、寓話はこれくらいにしましょう。αἴλουροςという単語が明確にギリシア語に見られるのは紀元前5世紀のソフォクレスやヘロドトスの時代になってからです。
アザラシ提督 @yskmas_k_66
(13)ヘロドトスはエジプトにおける猫崇拝の様子を記録しています。もし、猫が死んだら家人は眉毛をそって、死んだ猫をミイラにして手厚く葬るというのです。また、火事が起こった場合は猫が火の中に飛び込まないように注意しているとも述べています(Hdt.2.66; Diod.1.83.5)
アザラシ提督 @yskmas_k_66
(14)紀元前1世紀のシチリアの歴史家ディオドロスは、エジプトの人々が猫のためにミルクに浸したパンや魚を用意していたことを伝えます。現代のわれわれが用意するであろう猫向けの食事とそっくりです(Diod. 1.83.3)
アザラシ提督 @yskmas_k_66
(15)ちなみにディオドロスは、エジプトにおいて猫が尊重された理由の一つは、毒蛇を退治するからだと記しています。エジプトならではの害獣対策の役割があったのでしょう(Diod. 1.87.4.)
アザラシ提督 @yskmas_k_66
(15 補足)日本にも、薄雲という遊女の飼っていた猫が、蛇から彼女を守ったという話が伝わっています。忠犬ならぬ忠猫譚ですね。(cf. 南方熊楠『十二支考(下)』岩波文庫 1994, 244-5頁)
アザラシ提督 @yskmas_k_66
(16)ほかのローマ時代の作家も、猫はエジプト全土で崇拝されていると述べます。エジプトで崇拝された動物は様々で、各地域ごとに崇拝対象にバリエーションがあったようです(Strabo 17.1.40; Plut. Mor. 670a; Luc. J Tr 42)。
アザラシ提督 @yskmas_k_66
(17)これらの記述にどこまで信憑性があるかはわかりかねますが、エジプトには猫の女神バステトがいますし、猫のミイラも大量に見つかっています。なので、古代エジプトで猫が尊重されていたのは、まぁ間違いないでしょう。 pic.twitter.com/6fs5U6cQMQ
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図版出典: Wikimedia Commons「Bronze figures of Bastet, Late period」

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コメント

巫俊(ふしゅん) @fushunia 2016年2月28日
近年、考古学で「中国のネコは5000年前から」という説が出ていますが、古代の貓はどうも猛獣のようで、ネズミを追うトラの仲間らしく?
アザラシ提督 @yskmas_k_66 2016年2月28日
fushunia こんにちは。探しましたところ、確かに中国におけるイエネコの話がありました。 http://gigazine.net/news/20131217-first-domestic-cat/ やはり鼠対策というのはどの地域でも必要なことだったのかもしれません(・∀・)
nekosencho @Neko_Sencho 2016年2月28日
たしかにエジプトには、ネコ一世とか二世とかいう王様が(違
ma08s@フォロー外からごめんなさい @bygzam_ma08s 2016年2月28日
ドシロウトの考えだけど、猫は捕ったネズミを「持ってきて」くれるってのも、人間と仲良くなれた一因かもしれないなぁ。蛇みたいに人知れずネズミを狩ってたって、「役に立つ」とは人間側には認識されないもんなぁ。
nekosencho @Neko_Sencho 2016年2月28日
蛇も、神社で祀られたりするくらいだから役に立つと思われてたんじゃないかな
巫俊(ふしゅん) @fushunia 2016年2月28日
yskmas_k_66 漢代以前の古代中国で書かれた『礼記』に、「迎貓,為其食田鼠也,迎虎,為其食田豕也」(貓を迎えるのは、貓が田のネズミを食べるからだ。虎を迎えるのは、虎が田のイノシシを食べるからだ)とあるので、ネコもトラも集落の外から招く(福をもたらす)生き物だという印象がありまして。
巫俊(ふしゅん) @fushunia 2016年2月28日
yskmas_k_66 http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q12135253732  この知恵袋に詳しかったですが、トラと出てくるのはヤマネコらしいです。どちらにせよネコが貴族の愛玩動物として登場するのは、中世中国の南北朝時代くらいからなので、それまでヤマネコとイエネコはどちらも貓(ケモノへんではなくて、ムジナへんのネコ)と呼ばれ、イエネコについても半野生的な存在というイメージが残っていたのかもしれないですね。
タツコマはネコ科猛獣に襲われてしまった @TATukoma1987 2016年2月28日
猫の品種改良においてペット専門として開発され始めたのが今から150年ほど前だそうです。それまでは、ネズミ捕りの為に野生部分を残して無いと困るためにほぼ野生だった種類が多いので、現代でも野生の血が残っている種類が多いようですね。それにしても、獲物捕まえた後にドヤ顔で持ってくるのは何とかならんもんか。アオダイショウ捕まえてきたときは流石に驚いた。
タツコマはネコ科猛獣に襲われてしまった @TATukoma1987 2016年2月28日
猫の原産地は砂漠だって話は聞くんだけど、現存する最古種であるマヌルネコはチベットの生き物なのよね。ちなみに、猫(山猫)の原種から分岐したのが今から1500万年前らしい。ちなみに、世界一ネズミを捕まえた事でギネス記録になったスコットランドのウィスキーキャットであるタウザー君は、ネズミ捕獲の功績を称えられ銅像が建てられて聖猫(ネズミ駆除関係)扱いだそうで。
今日が終わりの始まりの日 @__blind_side 2016年2月28日
エジプトではミルクに浸したパンなどを猫に与えていたという紀元前1世紀のディオドロスの記述は興味深いね。あと、『時慶卿記』の慶長7年(1602年)10月4日条や『毛利家文書』慶長13年(1608年)5月13日の記述からも窺えるように日本では猫が綱によってつながれていた時代があったという話を最近読んだのですが、海外ではそういう時代があったのかどうかが気になりました。
アザラシ提督 @yskmas_k_66 2016年2月28日
Neko_Sencho そのネコ2世ですが、即位後にメギドの戦いでユダ王国の王を戦死させ、その数年後バビロニアのネブカドネザル王子に敗れるも、敗戦後フェニキア人に命令しアフリカ大陸を一周させることに成功した…といった、なんと申しますか、わたくしには中二心をくすぐるワードが満載のファラオというイメージですw
アザラシ提督 @yskmas_k_66 2016年2月28日
bygzam_ma08s コメントありがとうございます( ・ω・)ノ゙ 実は古代ギリシアにおいて蛇は再生や治癒のシンボルでした。蛇が病人を癒した、なんて記録もあります(アリストファネス『福の神』727-734行目; 『ギリシア碑文集成』4巻第2版の1, 122番69-82行目)。また、ニカンドロスという人が書いた『有毒生物誌』には、蛇から作られる薬についての紹介文があります(98-114行目)。
アザラシ提督 @yskmas_k_66 2016年2月28日
fushunia イノシシ対策としての虎ですか!なんと豪快な…! そういえば、ツイート内で使った南方熊楠も『十二支考』で『礼記』のその箇所を引用していました(岩波文庫版 上巻 65-6頁)。『荘子』の人間世篇にも虎飼いの名人が出てきますし、古代の中国にも、虎や山猫といった動物の飼いならし方を心得ていた人がいたのかな、と思った次第です(^ω^)
アザラシ提督 @yskmas_k_66 2016年2月28日
TATukoma1987 ふむふむ、ネズミ捕りの世界記録を保持する猫は存じ上げませんでした。先程調べたのですが、生涯で二万八千匹の鼠を捕まえたというのも凄いですね…! 猫を飼ったことがないのでなんとも言えませんが、猫がアオダイショウをもってくることもあるのですね(^^;
アザラシ提督 @yskmas_k_66 2016年2月28日
__blind_side コメントありがとうございます。猫が綱によってつながれていた事例については、このようなレリーフが残っています。 http://www.allposters.com/-sp/Stele-Depicting-Fight-Between-Dog-and-Cat-Relief-from-Kerameikos-Necropolis-in-Athens-Greece-Posters_i12656297_.htm
今日が終わりの始まりの日 @__blind_side 2016年2月28日
yskmas_k_66 いつもまとめを興味深く拝見させてもらっています。古代ギリシャの時代からネズミと同様に犬も”宿敵”だったのは面白いですね。
ma08s@フォロー外からごめんなさい @bygzam_ma08s 2016年2月28日
yskmas_k_66 リプありがとうございます。そーいえば、ヘルメスの杖とかありましたね(^^;>。しかし、猫は今でも大体人間に愛されているのに、蛇は嫌われてしまって、この差っていったい……(聖書の影響か、それとも「もふもふ、ぷにぷに」故か)
アザラシ提督 @yskmas_k_66 2016年2月28日
__blind_side 恐縮です。暖かいお言葉、励みになりますm(_ _)m そういえば、今回は犬についてはそんなに調べはしませんでした。件のディオドロスは、猫について説明したのと同じ章において、エジプト人は犬もまた大切にしていたと述べています。そのうち、古代の犬についても調べてみようと思います(・∀・)
アザラシ提督 @yskmas_k_66 2016年2月28日
bygzam_ma08s >「蛇は嫌われてしまって」 あ〜…そう言われると、なんででしょうね…? (^^; 多分、蛇の持つ何がしかのご利益はさておき、特定の種類の蛇には猛毒があることや、巻き付かれたり噛みつかれたら痛いことを、人間はまず第一に考えなければならなかったから……といったところでしょうか。些か単純な回答かもですが(汗)
アザラシ提督 @yskmas_k_66 2016年2月28日
bygzam_ma08s もちろん、古代の人々は蛇の怖さをよく知っていたようです。先程言及いたしましたニカンドロスのほか、アリストテレスの『動物誌』(8巻29章)にも毒蛇の言及がありますし、ヘロドトスは蛇やマムシの大量発生を伝えています(『歴史』3巻108章; 4巻105章)。もちろん、蛇に対する言及はこれ以外にもたくさんあります。こうしたことなどを含めて、嫌われちゃったり怖がられる対象になったのかと。
ぢゃいける@厚真町 @jaikel 2016年2月29日
"It's Greek to Me-ow!"はジーン・ダイッチ作品か。これLD持ってないんだよなあ。
アザラシ提督 @yskmas_k_66 2016年3月6日
【3月6日追記】いわゆる「猫の盾」についての補論を追加しました。
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