ゴリラ爆発#2 追撃のゴリラ◆2
_次の日の朝。遮るものの無い荒野に、朝日の強烈な光がじりじりと照り付ける。バルメルは馬車の中から景色を見ていた。大型獣の白骨死体が見える。一気に気分が消耗する。バカンスまでは遠い。 灰色の幾分か薄くなった道を、馬車が大量に隊列を組んで進む。 41
2016-03-07 17:22:07_朝の会議で聞いたところによると今日の夕方前には火焔水鏡の街に着けるらしい。いつものように、外壁の外にキャンプして物資だけを調達する。 通常なら硬い荒野に寝るところだが、火焔水鏡の外周には森が存在している。それもまた、楽しみなことだった。 42
2016-03-07 17:27:16_そのとき、後方から砂埃を巻き上げてやってくる巨大な影。ザリガニ騎士団の見張りが叫ぶ。 「パネぇ、奴ら戦車を持ってきやがった!」 戦車。古代エシエドール帝国が開発した蒸気式装甲戦闘車である。強大な砲と分厚い装甲、馬車よりも早い機動力! 43
2016-03-07 17:33:28「散開! 魔術展開、照準撹乱用意!」 「応! 照準撹乱、展開!」 馬車が道から外れて散らばり、各自狙われないように魔法で防御を開始する。どれほど強力な大砲でも、当たらなければ花火と同じだ。しかし、魔法はいつまでも持たない。 「祈れ、当たったら一等賞だ!」 44
2016-03-07 17:38:32_もちろんなすすべなくやられるようでは中原最強は自称できない。金髭のエリート騎士がアーティファクトのクロスボウを掲げる。ボルトは装填されていないが、これで正解である。 発射音! すると魔力のボルトが迸り、戦車の履帯を破損させる! たまらず急停車する戦車。 45
2016-03-07 17:42:52_騎馬で隊列に並走していた長身の女騎士が、後方に向かっていく。彼女一人で戦車を壊すわけではない。彼女は大砲の照準を引き付けるために囮として向かったのだ。 隊列を遠くに運ぶ間、数人の騎士が殿に展開し戦車の相手をする。整備する暇を与えてはいけない。戦車は馬車よりも早い。 46
2016-03-07 17:48:53_戦車はと言うと、完全に孤立していた。ペンネ騎士団は扱い方も知らなかったのだろう、随伴歩兵は遠くに取り残され、包囲された戦車に近づけなくなっていた。 「やっぱ、ザリガニ騎士団中原最強!」 大砲に当たらないよう散開して、戦車に敵を近づけないようにするザリガニ騎士団。 47
2016-03-07 17:55:00_こちらに魔法がある限り、戦車の大砲はある程度無力化できる。重要なのは、破壊した履帯を交換させないことだ。戦車の質量、戦車の速度、戦車の装甲で突撃されたら対処できる魔法などほぼないのだ。 戦車の蓋を開けて外に出ようとする戦車兵。ボルトが近くに当たる。慌てて戻る戦車兵。 48
2016-03-07 18:00:05_すでに馬車の隊列は戦場から離脱していた。後に残ったのは、長身の女騎士と、三人の猛士と、数人の騎士。彼らは騎馬のまま戦車の周囲を包囲している。 居残り組は短距離テレパスで意思疎通可能だが、馬車の隊列とは距離が離れて通信が困難になる。それでも、彼らには信頼感があった。 49
2016-03-07 18:05:16_一方、馬車に残った金髭、不健康な技師、そしてバルメルは火焔水鏡の街へ急ぐ。一刻も早く、ゴリラの謎を解かなければならない。 ペンネ騎士団も馬鹿ではない。別動隊を迂回させて馬車を追撃する者たちがいるはずなのだ。 50
2016-03-07 18:09:47【用語解説】 【クロスボウ】 ボルト(クロスボウの矢)を射出する機械弓。世界中で広く普及している飛び道具。地方によっては連弩が採用されていたりする。シリンダーが内蔵されており、魔法巻きという手法で手軽にボルトを装填できるため、騎兵でも扱える便利な武器。飛来物の防護の魔法が天敵
2016-03-07 18:16:03