昔々、あるところにおじいさんとおばあさんがいました。 おじいさんは山に芝刈りに、おばあさんは川に洗濯に行きました。 すると川上の方から大きな桃がどんぶらこどんぶらこと流れてきました。 ――――それから数年、桃から生まれた少年は激動の時代を生きることとなる。
2016-03-08 20:13:23「おじいさん、僕は町の人から妙な噂を聞きました」 少年は目を薄く開きおじいさんを試すかのように言った。 「なんじゃ……もうバレてしもうたか」 おじいさんが溜息をつく。 「今悪行の限りを尽くし恐れられている『鬼』という者は、1年前おばあさんを殺した仮面の男と同一人物ですね?」
2016-03-08 20:15:05「……うむ」 「……ならばもう迷うこともない。私は、旅に出ます」 「ま、待て!知らないほうがいいこともある!桃太郎!思いとどまるのじゃ!」 「黙れ!! 僕は……そもそもその『桃太郎』などという安直な名前が気に入らないんだ!」 桃太郎は旅立った。
2016-03-08 20:15:28旅の途中、桃太郎は一人の男と出会った。 「桃太郎さん桃太郎さんお腰に付けたきびだんご、一つ私にくださいな!」 桃太郎は腰に携えた覚醒剤【KILL BE DIE GO】を男に与えた。男はそれから桃太郎の犬になった。
2016-03-08 20:18:31ある日のこと、桃太郎と犬の元に猿が現れた。 「桃太郎さん桃太郎さんお腰に付けたきびだんご、一つ私にくださいな!」 桃太郎は喋る猿をすぐに捕獲し、高値で売った。桃太郎は潤沢な資金を得た。
2016-03-08 20:18:53鬼は鬼ヶ島という島で暮らしているという。桃太郎にはその安直な島の名前が気に入らず、どうにかして島を手に入れ、島のあらゆるものを支配したかった。そんな荒んだ野望が渦巻く桃太郎の心はいつしか善の心と悪の心に分かれた。 そんなある日、鬼ヶ島を目前にして、キジが現れた。
2016-03-08 20:19:16「桃太郎さん桃太郎さんお腰に付けたきびだんご、一つ私にくださいな!」 キジは元気いっぱいに言った。 「キジ……か、ごめん僕は君を仲間にできない」
2016-03-08 20:19:59「な、なんで……!」 キジは泣きそうな声で言う。 「キジは県知事の許可を取らないと飼えないんだ……」 桃太郎は絶望に涙するキジを横目に、鬼ヶ島に上陸した。
2016-03-08 20:20:05「よく来たな……桃太郎」 仮面の男――『鬼』は微笑した。 「お前は必ず倒す」 桃太郎もまた冷ややかに笑う。 二人の視線が交差したその刹那、爆弾を体中に巻きつけた犬が鬼の懐に飛び込む。桃太郎は爆弾のスイッチを押した。
2016-03-08 20:21:31「まさか……仲間を武器にするとははな……」 鬼は息絶え絶えに言う。 「僕の勝ちだ」 桃太郎は勝利の笑いを抑えられない様子だった。 「桃太郎よ、最期に真実を教えてやる」 「なに?」
2016-03-08 20:21:50「仲間を薬漬けにし、売り飛ばし、そして爆弾として利用してついには鬼をも卑怯な手で殺す……本当の『鬼』は私ではない、桃太郎よ、『鬼』は貴様だ」 鬼は桃太郎を指差し冷酷に笑った。
2016-03-08 20:22:26「黙れ!」 桃太郎は鬼の頭を思い切り蹴り上げた。 鬼の仮面が吹き飛ぶ。 仮面の下に隠されていた鬼の顔は、桃太郎の顔に瓜二つであった。
2016-03-08 20:22:31「だ、だれだ!何者なんだ貴様は!」 桃太郎は驚愕の表情で尋ねる。 「言ったはずだ、『鬼』は桃太郎、お前だと。そう、私は未来からやってきたお前自身だ。私は鬼として世界を支配し尽くした。そしてまたこの時代にお前という鬼を生み出すのだ!」
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