2016-03-11
ファンタジーブルドーザは25歳にもなって、定職をもたなかった。かれは朝早く起きると、ゆっくりと朝食をたべ、排泄をした。
2016-03-11 11:07:06ファンタジーブルドーザはトイレのドアに貼り付けてある、二年前の求人広告をじっと見ている。なにを考えているのかはファンタジーブルドーザにしかわからない。
2016-03-11 11:09:35ファンタジーブルドーザは大学の出である。地方の公立の大学であるが、根が真面目だということもあり、それなりの成績で卒業した。ファンタジーブルドーザの母は、息子が穏当に就職するものだと思いこんでいた。
2016-03-11 11:10:51ところがそうはならなかった。ファンタジーブルドーザはなぜか工場に勤めることを勝手に決めていた。しかも正社員ではなかった。母は怒った。父はすでに他界していた。
2016-03-11 11:12:08ファンタジーブルドーザはうんこをしながら、そのときのことを考えるのかもしれない。排便が終わると、ファンタジーブルドーザは床に寝転んで、テレビのザッピングをはじめるのである。
2016-03-11 11:14:01「近頃のテレビは良くない。地デジになってからか、チャンネルが変わってしまった。ぼくは5チャンネルや7チャンネルにあわせたときの砂嵐がないと、なんとも気持ち悪いんだ。あの頃はよかった。」とファンタジーブルドーザはぶつぶつつぶやいた。
2016-03-11 11:15:592016-03-12
ファンタジーブルドーザは便座に座って鼻をかむ。(便座カバーがついている、実家のトイレである。)かれは先週から風邪に悩まされているのである。断じて花粉ではない。鼻水が黄色いのがその証拠である。
2016-03-12 17:53:33ファンタジーブルドーザの恋人はかれに言った。「風邪うつされたくないわ。別れましょう」 「どういうこと?風邪はいずれ治るんだよ?」 「そういうことじゃないの」 「よくわからないよ」 ファンタジーブルドーザは途方に暮れた。恋人は他人みたいな顔をしていた。
2016-03-12 17:55:51ファンタジーブルドーザの恋人は風邪薬を部屋に置いて、出て行ってしまった。 「とても楽しかったわ。あなたのこと忘れない。友達でこれからもいましょうね」 ファンタジーブルドーザは鼻水と涙でぐちゃぐちゃの顔で見送った。恋人はうっすら笑っていた。
2016-03-12 17:57:56なんどもなんども鼻をかみ、トイレに捨てる。いくらかんでも黄色いねばっこい鼻水は出続けた。山盛りになったトイレットペーパーを水に流した。 あれから恋人からは連絡はいっさいなかった。ラインもブロックされているようだった。(スタンプがプレゼントできなかったのだ)
2016-03-12 18:00:17トイレが詰まった。大量の紙が配管につかえてしまい、嘔吐のような音をたてた。 ファンタジーブルドーザの実家には、トイレの「かっぽん」がなかった。慌てふためく彼は、焦るあまりなんども水のレバーをひいてしまい、ついにはトイレから水があふれた。
2016-03-12 18:03:48TOTOの陶器から溢れ出す水と粉々になった紙。ファンタジーブルドーザは膝をついた姿勢で、床に垂れた水を手のひらで掬おうとした。が、すべてどうにもならなかった。濡れに濡れ、水はトイレから廊下へ、玄関へと流れていった。
2016-03-12 18:06:102016-03-13
銭湯の風呂に猿の死骸が浮いていた。 ファンタジーブルドーザはぎょっとして、ケロリンの桶でそおっと、ぷかぷか浮いている猿を手繰り寄せて、じっと見る。猿ではないが人間でもなく、その中間のような生き物で、どちらにしろ気味が悪かった。
2016-03-13 00:59:23ファンタジーブルドーザはシャワーで身体を洗い流し、大急ぎで脱衣場へと出た。 午後三時の銭湯にはほとんど誰もいない。そんな時間から銭湯に来るのはまだ死期の近くない老人か、暇な無職だけである。 黒い性器の老人がちょうどファンタジーブルドーザと入れ違いで、脱衣場から出て行った。
2016-03-13 01:00:27ファンタジーブルドーザは番頭に湯船の猿の死骸について文句を言った。 番頭は50歳くらいの男で額からきれいに禿げ上がっていた。かれは「君、新聞とってないの?」といった。 「とっていません。」 「駄目だよォ。若いんだから。時流にとりのこされちゃうよォ」
2016-03-13 01:01:19「あの、どういうことでしょう?」 「お兄さんね、煙突猿人って聞いたことない??」 ファンタジーブルドーザには初耳であった。 「最近社会問題になっててね、都内のわずかに残った銭湯の煙突に籠もってしまう猿人が大発生してるんだネ」 「はあ」とファンタジーブルドーザは生返事をした。
2016-03-13 01:01:50「煙突猿人に煙突に籠もられると、湯も沸かないし、こっちは商売にならないんだよ」と番頭はたいそう腹を立てていた。 「煙突猿人はね、もともと田舎にたくさんいたんだけど、過疎化に伴って都会のほうに来ちまったのさ」
2016-03-13 01:02:17