民族解放にとっての躓きとしての「例外的ユダヤ人」の称揚――レッシング作『賢者ナータン Nathan der Weise』とドイツ啓蒙思想の限界

直立演人 @royterek

伊丹アイホールでやっている『賢者ナータン Nathan der Weise』 の千秋楽に今から行く。ユダヤ啓蒙主義ハスカラの父モーゼス・メンデルスゾーンをモデルにした歴史的に重要な作品。21世紀の日本での上演はどんなものになるのか。seiryu-theater.jp/archives/2913

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レッシングの『賢者ナータン Nathan der Weise』、近代ヨーロッパの啓蒙主義思想の権化のようなこの戯曲を今舞台にかけてどれほどのリアリティを持ち得るのだろうかと観劇前は半信半疑だったが、見事な演出で十分に楽しめた。

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この戯曲に代表される啓蒙の精神から人類がいかに遠ざかったかを思うと戦慄する他ない。アーレントも指摘するように、この作品に凝縮されたドイツ啓蒙思想の限界も見えてくるが、同時に、少なくとも理念としての啓蒙思想が不滅だということも伝わってくる。だからこそ今上演しても古さを感じさせない。

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「友人レッシングの新作戯曲『賢者ナータン』で、彼（メンデルスゾーン）の名声はさらに上がった。戯曲の主人公”賢く高貴なナータン”は、メンデルスゾーンをモデルにしている。ドイツでの初演は1783年。場所はベルリンであった。ハンブルクとフランクフルトでは禁止された」

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「レッシングのナータンは、シェイクスピアのシャイロックとは対極にある。この作品は、一切の宗教的民族的偏見を大胆に非難、攻撃している。そして、この概念の伝播増殖が”信心ぶった怒り”のもとになる。」

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「この戯曲はきわめて多くの人々を困惑させ、侮辱した。彼らは”ドイツ人”として”キリスト教徒”として感情を害されたのである。ヴォルテールの「カンディード」は、レッシングの『賢者ナータン』のような激しい敵意を引き起こさなかった。」

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「19世紀の初めから終わりまで、ドイツのユダヤ人は、レッシングの戯曲を、権利と自由を保障する自分たちのマグナカルタ（大憲章）である、と勘違いしていた。それが詩的な想像力の産物であり、国民投票の結果ではないことを考えなかったのである」

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「聖職者の息子であるレッシングは、平等の立場での異教徒間結婚を許容するに至らず、多数派の宗教に改宗しなければ結婚できないとしていた。ユダヤ人はレッシングのこの態度も見逃した」（アモス・エロン『ドイツに生きたユダヤ人の歴史――フリードリヒ大王の時代からナチズム勃興まで』）

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「ドイツのソクラテスとまで謳われたこの著名人がドレスデンに旅した時、門番すらこの人物が何者かを知っていたが、いつものように関税を課した（註：ユダヤ人は”商品税”の対象で、ポーランドからの輸入牛と同じ税率を課せられた）。市当局は、この事実を知ると、直ちに謝罪し金も返した」

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「しかし、この事件は傷跡を残した。メンデルスゾーンの妻フロメットは、夫の名声のおかげで尊敬されていた。しかし、ほかのユダヤ人たちが侮辱に耐えているのを見て、いつも「私の前に広がるのは何と惨めな世界でしょう」と嘆いていた」

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「ある夜、メンデルスゾーン夫妻がベルリンのコンサートホールに入ると、会場の聴衆が全員立ち上がり、拍手して迎えた。メンデルスゾーンは、ユダヤ人を受け入れるがゆえに、あるいは寛容なるがゆえに、聴衆がこのような態度をとるのではないことを知っていた」

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「彼らは、彼を例外者、つまり高貴な”非ユダヤ的”ユダヤ人と認識し、裏を返せば偏見のあることを示し、皮肉な言い方をすれば、自分の偏見に拍手していたのである」

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「それからまもなくして、一人のユダヤ人青年がベルリン合唱協会に入門志願書を提出したところ、『ユダヤ人が作曲できるのは数学的に不可能である』との理由で、門前払いをくらわされた」

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『このいわゆる寛容の地で、どこに行っても私は咳払いを感じる。私の生活は、四面を正真正銘の非寛容の壁に囲まれ窒息しそうである』（モーゼス・メンデルスゾーンのベネディクト修道士マウルス・ウィンコップ宛ての書簡）

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「ナータンは、一人のきちんとした人間として扱われることだけが望みである。スルタンのサラディンが素性を問うと、ナータンは『私は一人の人間です』(Ich bin ein Mensch)と答える。今日に至るまで、大向こうを唸らせる文句であり、この答えで拍手喝采がわき起こる」

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「レッシングは、メンデルスゾーンをモデルとしてナータン像をこしらえる際に、この友人を誤解していた可能性がある。…ナータンの有名な返答は――実際にメンデルスゾーンの考え方を反映しているとしても――ハンナ・アーレントが言うように『グロテスクで危ない現実回避以外の何物でもない』」

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「神話的世界と違って、現実の世界では、何をおいても第一に人はMenschであるとする主張は、その人の人権を尊重する保証にはならない。Menschであることは政治ではなく、個人の資質の問題である」

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「現実の世界では、マイノリティが要求し、幸運なら多様性のひとつとしての受容を勝ち取り、やがては平等を手にすることができるのは、政治的動物（ポリティカル・アニマル）としてでなければ成立しない」

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「政治的観点に立てば、マイノリティが自分たちはMensch以外の何者でもないと主張した時、アーレントの言葉を借りれば、彼らはすでに敗者となっていた」

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ハンナ・アーレントは「歴史のモラル」（『ユダヤ論集』所収）で、「わたしがほんとうに愛したのはユダヤ人全体であり、個々のユダヤ人ははっきりと避けた」というフンボルトが残した言葉を「おどろくべき、逆説的な言明」（「彼には多くの個人的なユダヤ人の友人がいた」）と位置づけこう述べている。

直立演人 @royterek

「プロイセンにおけるレッシングやドーム、フランスにおけるミラボーやグレゴワール神父以来、ユダヤ人を擁護する者は、つねに、自分の議論を「個々のユダヤ人」、ユダヤ民族のなかの顕著な例外に基礎づけてきた。」

直立演人 @royterek

「フンボルトのヒューマニズムは、フランスにおけるユダヤ人解放の伝統にしたがって、個々人を特別視することなく民族全体を解放することをめざすものである。そのため、彼の視点は同時代の人びとによってほとんど評価されず、また後代の解放ユダヤ人の歴史にもほとんど影響をおよぼすことはなかった」

@EasternJewel_ @EasternJewel_

俺の知ってる在日はみんな良いやつだよって言った人がいて、そりゃ良い人に越したことはないんだろうけどそれがすごく引っかかった。在日なのに良い人、みたいな言い方してカウンターしてるのちょっと違和感。犯罪者も聖人も国籍関係なく何処にだっているでしょ。性悪の在日の何が問題なわけ。

JIKSOO @bidask_nao

これちゃんと理解できてない人カウンターでもたまにみるよね。気づいたら指摘はするけど。 twitter.com/easternjewel_/…