津金昌一郎の福島県「県民健康調査」についての見解を検討する

津金昌一郎の福島県「県民健康調査」についての見解を伝えた記事についてと、2016年3月11日の「報道ステーション」甲状腺がん特集での津金、鈴木眞一、清水一雄の見解について、個人の考察を記した。 なお、まとめ人のmorecleanenergyは医学の素人である。
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【導入】

津金昌一郎の見解を報じた2015年12月のblog記事がある。→
http://bylines.news.yahoo.co.jp/masanoatsuko/20151210-00052304/
(記事内で触れられている2014年11月11日の津金氏見解はこちら。記事ではこれをもとに質問をしている。→https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/91000.pdf

これを受けて、過剰診断についての問題を自分なりに整理するために、このようなツイートをした。

Tw1:福島の甲状腺がんは過剰診断とする説は、おおざっぱにわけると二つかな。


 ・過剰診断なので、福島医大での甲状腺がん手術は不必要だった


・大人の甲状腺がんから推測して過剰診断だと言えるが、医大での手術はもちろん必要だった。それでも過剰診断(死亡率低下に寄与しない)

Tw:2前者は津金氏。手術しなくても大丈夫だったという主張については、こちらの記事http://bylines.news.yahoo.co.jp/masanoatsuko/20151210-00052304/の注目点5を参照のこと

このツイートについて以下の質問が来た。
「津金氏は、どこかで「過剰診断なので、福島医大での甲状腺がん手術は不必要だった」と明言しているのか?」「『リンパ節移転が認められる子どものがんを放置した場合も、20歳以降に診断され、40歳前に死亡するのは「稀」である』という主張から、クリエネが推測したのか?」

その質問についての返答を、その後放送された「報道ステーション」甲状腺がん特集の内容も含めて記す。

【津金氏主張の検討】

津金:福島の検診は数例をのぞいて過剰診断である

たしかに、津金はこの記事の注目点4で、「個々の症例は、ガイドラインに準拠して治療されたと理解していますので、全ての治療は現状では妥当なものかと考えます。」と述べている。
福島での検診の結果による福島医大での手術を肯定しているように見える。

しかし、続いて津金は「ただ、集団として見た場合、数例は過剰診断ではない症例も存在しますが、現在の統計からは、多くは今回の甲状腺検査で診断されなくとも臨床症状の出現や死には至らなかったのでないかと推定される」と述べている。

津金は医大での症例について、過剰診断ではない、つまり津金いうところの「将来的にも、臨床症状をもたらしたり、その人の寿命を短くしたりすることにならないがん」ではないものが数例あることを認めつつ、集団として統計上過剰診断にあたると述べている。

(ウェルチの過剰診断について)

この「将来的にも、臨床症状をもたらしたり、その人の寿命を短くしたりすることにならないがん」をウェルチは”偽病のがん”と呼ぶ。H・ギルバート・ウェルチは「過剰診断」の概念を世間に広く広めた医師である。”偽病のがん”という表現は、ウェルチの著書『過剰診断 健康診断があなたを病気にする』P97参照のこと。

ウェルチは甲状腺がんの「過剰診断」についてこのように述べている。「甲状腺がんのスクリーニングにあるのはデメリットだけだ。過剰診断が多く、死亡率は変わらない。より多くの人が治療に回され、手術で甲状腺を取り除かれている。手術は害をもたらすこともある。首の反回神経を傷つけたり、副甲状腺を傷つけたりするかもしれない。さらに、甲状腺を除去すると甲状腺ホルモンを作れなくなるため、それを補うための薬を生涯にわたって飲み続けなければならなくなる。要するに、何のメリットもないのだ」(『過剰診断ー』p112-p113)
つまり統計上、過剰診断であると考えられる場合は、手術自体がデメリットであるとしている。

津金:リンパ節転移が認められる子供のがんを放置した場合も、統計と同じく推移する

津金は医大での症例について「将来的にも、臨床症状をもたらしたり、その人の寿命を短くしたりすることにならないがん」としている。さらに、注目点5において、「リンパ節移転が認められる子どものがんを放置した場合も、20歳以降に診断され、40歳前に死亡するのは「稀」であると考察した根拠」を尋ねられたことの回答として以下のように述べている。

「2014年11月11日の部会提出資料に記したように、2011年の人口動態統計のデータ(死亡統計)に基づくと、40歳迄に甲状腺がんで死亡するという現象に遭遇する日本人は30万人あたり1人と推定されることに基づきます。」(津金)

(参考:2014年11月11日資料)
https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/91000.pdf

つまり、福島の検診でリンパ節転移が認められた患者ですら福島の検診で発見する必要はなかった、検診ではなく臨床症状が表れてから診察を受け、手術を受けることで十分だとしていることになる。

津金は医大での手術について関心が薄い

津金が医大での症例で「リンパ節転移が認められる子どものがんを放置した場合」(よりがんが進行していると考えられるもの)についても、統計を持ち出して放置(=症状が出るまで放っておき、症状が出てから診断、手術する)で構わない、と述べているのに等しい。医大の現時点での手術についてもメリットを認めていないようにも取れるくらい、個々の症例について関心が薄い。

(冒頭に挙げたTwでは、「過剰診断なので、福島医大での甲状腺がん手術は不必要だったと津金が主張している」としたが、「津金は医大での手術についてメリットを認めてないと取れるくらい関心が薄い」と訂正する。)

このブログ記事だけでなく、2016年3月11日の「報道ステーション」において、津金は福島での甲状腺検診は将来にわたって臨床症状のでない、死に至らないものを発見しているだけであり、普通のがん(リンパ転移して、遠隔転移して、死に至る)というシナリオで考えるとこの状況は難しいと述べている。

【鈴木眞一の主張の検討】

鈴木:医大での手術は必要だった、まもなく臨床症状が見られると考えられる

同じ番組で、鈴木眞一は、116人の甲状腺手術について、手術しなければならないものだったと主張した。がんが甲状腺の外に出ている、リンパ節転移が75%見られ、過剰診断ではない。すぐにでも見つかったものもある、と述べた。「すぐにでも~」は臨床症状がまもなく見られた、という意味であろう。

鈴木:リンパ節転移までは速いが他の臓器への転移はゆっくり

鈴木は「手術が必要ながんが潜在的に存在していたのか?」という質問に対して「そうだと思います」と肯定した。ただ、一方では「(リンパ節)転移まで速いが他の臓器に転移するなどはゆっくりの大人しいがんだ」と述べた。

この鈴木の主張は、一般的な甲状腺がんの像に強引に当てはめるためと思われる。

津金の主張を図にすると、図1のようになる。
反論としては、がんが甲状腺の外に出ていたりリンパ節転移が75%という状態で、検診がなかったとしても20歳から40歳までに発症したのちに手術すればよいとは言えないのでは、という点が考えられる。

鈴木の主張を図にすると、図2のようになる。
反論としては、10代後半までに臨床症状ギリギリ一歩手前まで来ているのだとしたら、そのあとゆっくりしか成長しないという都合のいいことがありうるのだろうか、という点が考えられる。

図1

図2

【清水一雄の懸念】

清水:2年で30mmまで成長するのは速い

同番組で清水一雄は2巡目でのがん発見が多いこと、しかも1巡目でA1だった人に多いこと、さらにがんが30mmまで成長したことに懸念を述べている。2年間で30mmは速いと。

【まとめ】

・津金は医大の症例についてほとんど関心を払っておらず、統計から結論を導き出している。

・鈴木は医大で手術を行った当事者として、臨床症状を呈する寸前だったと証言し手術を肯定しているが、今までより真の罹患率が増えたのではという疑問については否定的だ。
その根拠として、甲状腺がんが臨床寸前の状態から他臓器に転移するまでがすごくゆっくりだという推測を挙げている。

・清水は2年間で30mmにまで成長したがんについて、「成長が速い」と懸念を述べた。これは、津金や鈴木の主張とぶつかり得る。

最後に私の意見を述べさせてもらうと、津金、鈴木の主張はどちらも現在の甲状腺がん多発について、スクリーニング効果(症状の出ないものまで悉皆調査によって掘り起こすことによる効果)による見かけ上の多発であり、真に罹患が増えているわけではないという結論ありきで、そこから逆算してそれぞれの論を構築しているように思える。だからそれぞれの論にふさわしい時期にがんが消えたり成長が止まったりする、というレトリックを持ち出している。しかし、その根拠は今までの統計しかなく、実際の症例から導き出されたものではない。それに対し、清水の成長速度の速さに関する指摘は重要だと思う。

(文責 @morecleanenergy 筆者は医学の素人です)