虚構の展覧会に、選ばれしものたち#1 動き出すアトリエ◆3

画家を志す少女エンジェ。何のコネもなく、才能があるわけでもない。そんな彼女に美味しい話が舞い込む。絵の展示イベントがあるという! ただし高額の出品費がかかるようで…… 全80ツイート予定 続きを読む
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_虚構の展覧会に、選ばれしものたち#1 動き出すアトリエ

2016-03-21 15:01:15
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_アトリエに用意したテーブルに、エンジェとミェルヒ、そして担当の男が座って手続きを進めていた。  ミェルヒはあくまで黙って話を聞いている。しかし、担当の話は一見筋が通っているようで、何か引っかかる点があった。それが具体的になんなのか指摘するのができずにいる。 21

2016-03-21 15:09:48
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_思い切って指摘してみるミェルヒ。 「あのう、出品費が高すぎるのではありませんか? この値段だと2日はフルで働いたと同じくらいの値段ですし、ほぼ素人の作品がそれほど売れるとは……」 「フフ、それは先行投資ですよ」 22

2016-03-21 15:18:35
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_担当は自分の組織のパンフレットを差し出す。 「我々の団体はルエンツァール芸術互助会……ご存知ですね? 人類帝国の巨大ギルドです。ギルドと取引を行っており、ギルドとのコネを作る橋渡しの役目も担っております。そのため、参加費が高いのですがリターンは大きいですよ」 23

2016-03-21 15:24:53
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_担当は諭すように続ける。 「貴方はまだ若いですから経験が無いでしょうが、この社会の中で、お金を使わずに自分の好きなように生きるのは難しいのです。ちゃんとお金を支払うことで、利益を得る。そういう風にできているのです」  そう言われると、ミェルヒも黙るしかない。 24

2016-03-21 15:31:49
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_エンジェはと言うと、ノリノリで話を進めていく。ミェルヒは黙ってテーブルの隅で小さくなってしまった。 (まぁ、ひと財産投資するわけでもないし、実際二日は働けば取り返せる額だし、いいのかな……いいんだろうな……その気になってきた) 25

2016-03-21 15:38:58
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「ギルドに登録さえすれば、仕事は向こうからどんどん舞い込みます。そうすれば、お金よりも時間が足りなくて困ることになりますよ。心配ご無用です」  担当は資料を広げ、夢のある言葉を並べる。エンジェはすっかりその気になって書類を書き進める。 26

2016-03-21 15:43:25
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_気づけば、話が完全に纏まっていた。 「すみません、いま手持ちがないので、出品費は作品ができてからで構いませんか?」 「マジでそんなに苦しいの!?」  ミェルヒのツッコミに照れるエンジェ。担当は「構いませんよ」と言い、その日は帰っていった。 27

2016-03-21 15:49:51
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_まだ日は沈んだばかり。寝るには時間がある。そして、エンジェは膨らんだ夢をみすみすしぼませるような人間ではない。 「作業……開始!」  描きかけのキャンバスをナイフで削って新しい絵の素体にする。 「お前は……生まれ変われるんだ」 28

2016-03-21 15:54:27
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_かつて、諦めていた絵が、自分の手で新しく生まれ変わる。何度でもやり直せる。そして、いつか……自分の最も描きたかった絵に出会える。そう信じていた。 「いま、私の一歩が始まる!」 29

2016-03-21 15:58:30
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_エンジェは真っすぐ前を見ていた。絵に向かって歩いていた。それがたまらなく眩しくて……ミェルヒは目を細める。応援したいと思った。いつまでも……傍で応援しようと思った。 30

2016-03-21 16:03:00
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_虚構の展覧会に、選ばれしものたち#1 動き出すアトリエ(了) #2 詐欺師は踊る へつづく

2016-03-21 16:03:56
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【用語解説】 【ギルド】 特定の仕事にかかわる者たちが、それを特権化し、市場を支配するために作った団体。いくつかのギルドは権力を得て、都市国家の政治すら動かすことができる。地方の自治体が、土地の有力企業に対し頭が上がらないのと同じ状況である

2016-03-21 16:17:08