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書評:『火星の人』(映画『オデッセイ』原作) By たられば氏

まとめました。 映画公式 http://www.foxmovies-jp.com/odyssey/
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たられば @tarareba722

これから映画版『オデッセイ』および原作『火星の人』のレビューを連続ツイートします。見てない人、読んでない人も楽しめるよう書きましたが、基本的にネタバレがバリバリ出ますので、読みたくない方はお手数ですがリムーブ・ミュート・ブロックなどでご対処ください。全14ツイートです。ではいざ。

2016-03-17 18:25:40
たられば @tarareba722

①映画『オデッセイ』が面白くて、原作である『火星の人[新版]』上・下巻(ハヤカワ文庫刊/アンディ・ウィアー著/小野田和子訳)を手に取ったところ、映画を超える面白さで一気に読んでしまいました(読み終えるのが悲しかった)。以下感想ツイートです。最高。ワトニーくん(主人公)マジ最高。

2016-03-17 18:27:26
たられば @tarareba722

②原作ではまず、映画版ではわかりにくい緻密な計算に気付きます。火星を襲う砂嵐が乗組員到着6日目なのはそれ以降だと残る食糧が少なすぎるからだし、他の乗組員が先に脱出したのは主人公の宇宙服生体モニターが壊れて「死んだ」と思ったから。災難に必然性があることがSFのSFたる真骨頂ですね。

2016-03-17 18:28:01
たられば @tarareba722

③またこれも映画版ではわかりづらい演出なのですが(序盤では細かく描写されてますが)、原作は「日記体小説」であることも案外重要な要素です。火星に一人取り残された主人公は、宇宙飛行士だから毎日「ログエントリー」という名の航海日誌をつけるんですね。本作はその日誌が主体の小説なのです。

2016-03-17 18:28:52
たられば @tarareba722

④作中、ワトニーは喜怒哀楽の出力が大変丁寧です。喜ぶ時は大いに喜び、怒る時は怒る。反省はするが後悔はしない。基本的に常に前向きで、ユーモアを交えて生存への工夫を重ねます。これ、孤独に立ち向かう耐性の一つではあるのですが、あまりの前向きさに素の文体で書かれるとやや違和感を覚えます。

2016-03-17 18:29:06
たられば @tarareba722

⑤しかしこれは日誌だとわかると違和感が消えるんですね。書いているうちに自分を客観視できるツールだし、後世の人類に残るものという設定だし、何よりブログとかで「こういう人」いますし。ちなみに同じく「日記文体」を利用した小説に、『アルジャーノンに花束を』があります。こちらも名作ですね。

2016-03-17 18:29:36
たられば @tarareba722

⑥そして作中NASAが窮地に陥った際に中国国家航天局がロケットブースターを提供する場面があり、ツイッターで「中国市場でのヒットを狙ったからじゃないか」「世が世ならこの役割は日本だったのでは」という感想を見かけましたが、原作を読むと「あ、中国でないとダメだったのね」とわかります。

2016-03-17 18:30:13
たられば @tarareba722

⑦というのも、NASAは「あらゆる可能性」を検討する組織だと記述されています。その組織が窮地に立たされた時、「助け」はそのNASAでさえ思わぬところからもたらされる必要があるんですね。つまりNASAに隠れて開発できるような国だというのが、中国が選ばれた理由だと私は読みました。

2016-03-17 18:30:30
たられば @tarareba722

⑧それと本作は映画を観てから読んでよかったと強く感じました。ヒドラジンから水を得るための記述は文章だけではチンプンカンプンだし、地球との交信が回復したシーンではパスファインダーのカメラの、あの人工的でキュートな動きの記憶が感動を強めました。何よりマット・デイモンの演技がいい。

2016-03-17 18:31:49
たられば @tarareba722

⑨Tipsも散りばめられています。もし貴方が火星に一人で取り残されて、ローバーで45日間移動することになったら、手持ちの生ジャガイモはレンジですべて加熱しておきましょう。プロテインが変性して消化されやすくなり、より多くのカロリーが摂取できます。何よりそのほうが美味しい。らしい。

2016-03-17 18:32:06
たられば @tarareba722

⑩難燃性素材に囲まれた宇宙船で効率よく爆弾を作るには、ゼロG下で頑丈なビーカーに砂糖1キロと純酸素を詰めて燃焼させればダイナマイト8本分の威力を持つ。らしい。実に役立ちそうです。個人的にはNASAのサットコン(=実際は写真チェック係)も機械工学の修士持ちだという設定が好きです。

2016-03-17 18:32:38
たられば @tarareba722

⑪映画では「単なる若い女史職員」という扱いでしたが、優秀な彼女だったからこそワトニーが生存していることをいち早く発見できたし、少ない情報から火星上にいる彼の動向を正確に読み取り、NASA上層部がそれを手にし、的確な対策を立てられたんですね。ミンディ・パーク、いいキャラです。

2016-03-17 18:33:21
たられば @tarareba722

⑫このほか「補給品が届かなかった場合に5人の宇宙飛行士が立てたプランが驚愕」とか「私の中の、シカゴは日本でいうところの名古屋ではないか説が補強された」や「デスノートのような知性を武器にした殺し合い、ただし相手は火星」等々、語りたいことは山ほどあるのですが、キリがないので省きます。

2016-03-17 18:34:14
たられば @tarareba722

⑬小説の最後に、映画を見た多くの人が感じただろうある疑問に対する作者なりの回答が書かれています。それは「なぜたった一人の宇宙飛行士を助けるために何億ドルもかけるのか? そのインセンティブは?」というものです。絶品のカタルシスを味わいつつ、ぜひお確かめください。傑作です。(了

2016-03-17 18:35:16
たられば @tarareba722

⑭参考 『火星の人』ハヤカワ文庫 上巻 amazon.co.jp/dp/4150120439 映画版『オデッセイ』オフィシャルサイト foxmovies-jp.com/odyssey/

2016-03-17 18:35:51
大野木寛 @dadasiko

@tarareba722 みんなが見てるぞ、へのワトニーの返しが好きです。

2016-03-17 18:37:57
たられば @tarareba722

@dadasiko 翻訳小説で読みながら実際に何度も吹き出したのは、本当に久しぶりでした。いやー面白かったです!

2016-03-17 18:39:13
たられば @tarareba722

我ながら結構いいレビューだと自負してるんですが、ちょっと悔しいのはみつばさんのがいい感じに面白くて持って行かれた感があるとこです。

2016-03-17 18:56:42

書影

火星の人

アンディ ウィアー