虚構の展覧会に、選ばれしものたち#2 詐欺師は踊る◆1

画家を志す少女エンジェ。何のコネもなく、才能があるわけでもない。そんな彼女に美味しい話が舞い込む。絵の展示イベントがあるという! ただし高額の出品費がかかるようで…… 全80ツイート予定 続きを読む
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減衰世界 @decay_world

_虚構の展覧会に、選ばれしものたち#2 詐欺師は踊る

2016-03-22 17:12:00
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_エンジェの担当の男は、上機嫌だった。今回は5人の客を引き当てた。一人一人の金は大したことは無いが、十分な収入だ。それに、今回の話は入り口に過ぎない。  自分の家に向かう。街並みは暗く、月のない夜だった。分厚い雲が夜空を覆い隠している。 31

2016-03-22 17:18:08
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「誕生日おめでとう、スーラ」  担当は部屋に戻ると、待っていた美女に話しかけた。彼女はテーブルに顔を伏せ、上目遣いに担当を見た。泣いていたのか、目が赤い。酒の匂い。机の上には、いくつもの酒瓶。一人で飲んでいたようだ。 32

2016-03-22 17:24:21
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_担当は無理やり笑顔を作って、美女……スーラを慰める。 「どうしたんだよ、こんなに泣いて……せっかくの誕生日じゃないか」 「せっかくの誕生日に……貴方はまた詐欺をしてきたんでしょ。あんなに、やめろって言ったのに」  スーラは担当を睨む。 33

2016-03-22 17:32:30
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「いま大事なところなんだよ。もうすぐ盗賊ギルドに認めてもらえる。分かってくれよ」 「ちっとも私のこと分かってくれないくせに。……さよなら」  スーラは酒瓶を蹴飛ばし、鳥が飛び立つように去っていった。残されたのは、呆然と立ち尽くす担当。 34

2016-03-22 17:40:41
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「手段なんて関係ないじゃないか……こっちはお前のために、金を用意してきたのに……なんでなんだよ」  転がってきた緑色の酒瓶を蹴飛ばす担当。壁に当たって瓶が割れた。部屋の明かりは、電力不安定からかチカチカと明滅している。 35

2016-03-22 17:47:24
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_担当は頭を抱えて、酒で濡れた床に膝をついた。 「馬鹿から金を巻き上げて、何が悪いんだよ……騙される方が悪いんだよ。スーラ、俺はお前に何だって買ってやったじゃないか……なのに、何が不満だったんだよ」  女に逃げられたのはこれが初めてではない。 36

2016-03-22 17:54:02
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_俺には金がある。金さえあれば、女なんていつでも捕まえられる。そう自分を慰めても、何度となく繰り返された裏切りは、担当の心を荒ませる。何度でも、抉るように苦しみの種を植え付けていく。 「なんでこんなに苦しいんだよ……」 37

2016-03-22 18:02:46
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_苦しいのはなぜか。辛いのはなぜか。その理由を探して、担当は呻いた。 「もっと稼がなくちゃいけないのかよ、もっと道を外れなくちゃいけないのかよ……俺は真っすぐ進むしかできないんだよ。俺の生き方は、もう変えられないんだよ……」  その言葉を聞く者は、いない。 38

2016-03-22 18:11:51
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「ううう……」  感情を爆発させて、テーブルの上の酒瓶を床にぶちまける担当。それで、ようやく彼は冷静さを取り戻す。アルコールと色々なものが混ざった匂いで、吐きそうになった。 「苦しい……なんでこんなに、苦しいんだ」 39

2016-03-22 18:18:54
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「俺は苦しいから……その分、幸せになれなきゃおかしいんだよ……」  最後に彼の脳裏に浮かんだのは、未回収の金のことだった。相変わらず部屋の電球は電力不安定からか、チカチカと明滅していた。 40

2016-03-22 18:30:17
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_虚構の展覧会に、選ばれしものたち#2 詐欺師は踊る ◆1終わり ◆2へつづく

2016-03-22 18:31:02
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【用語解説】 【瓶】 科学文明のもとで発展したガラス加工技術は、文明崩壊後は魔法的技術に入れ替わって存続している。魔法で溶かしたガラスを魔法で整形し製品を作る。かつては大量生産が可能であったが、魔法の時代では魔法使いの職人が頑張らなくてはいけないため、生産効率は著しく落ちている

2016-03-22 18:35:44