山本七平botまとめ/【裏切者ヨセフスの役割⑥】ユダヤ人とギリシア人の抗争に手を焼いていたローマ帝国

山本七平『禁忌の聖書学』/裏切者ヨセフスの役割/25頁以降より抜粋引用。
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山本七平bot @yamamoto7hei

①『アピオーンへの反論』を読むと、このアレクサンドリア近郊生れのホメロス学者が、どのような罵詈讒謗と中傷をユダヤ人に加えたかがわかる。 彼にとってはモーセの下で出エジプトをしたユダヤ人とは、追い払われたレプラ患者と廃疾者の群れであった。<『禁忌の聖書学』

2016-03-26 11:38:52
山本七平bot @yamamoto7hei

②だがこれに対するヨセフスの反論もまた、文字通りに売り言葉に買い言葉、それを読むとギリシアの哲学者などは、バビロニアやエジプトの思想家の亜流で、みながモーセの剽窃者のように見えてしまう。 さらに彼はアピオーン個人への悪感情を少しも隠しておらず、徹底的に見下し侮蔑している。

2016-03-26 12:09:14
山本七平bot @yamamoto7hei

③【実際のところ、現在世界の支配者であるローマ人達はいかなる市民権もエジプト人だけには与える事を拒否してきた。 ところでわがアピオーン大先生は自分には拒絶されているこの特権を渇望しながら、その特権を正当な理由で獲得した人々を中傷するという、甚だもって高貴な心情の持主らしい】と。

2016-03-26 12:38:52
山本七平bot @yamamoto7hei

④まことに、いやみたっぷりの言葉である。 これを書いたときのヨセフスはフラウィウス朝の廷臣で、もちろんローマの市民権をもっている。 一方アピオーンは、これでみると出生がアレクサンドリア市でなく地方で、従ってアレクサンドリアの市民権も持っていなかったらしい。

2016-03-26 13:09:03
山本七平bot @yamamoto7hei

⑤そしてローマ市民権はアレクサンドリアの市民権を持たない限り、到底入手できない。 アピオーンがいくらローマ市民権を渇望しても入手できない。 ヨセフスの言い方には「ざまあ見ろ」と言った感じがあるが、これは誇り高きホメロス学者には耐えられない。

2016-03-26 13:38:51
山本七平bot @yamamoto7hei

⑥以上のやりとりに象徴されるような両者の相互の悪感情はしばしば騒動に発展し、ローマ政府の頭痛の種であった。

2016-03-26 14:09:10
山本七平bot @yamamoto7hei

⑦ヨセフスの代表作といえば『ユダヤ戦記』。 これの内容が「ユダヤ戦争」で、彼自らも戦ったローマへの抵抗戦争。 紀元66年にはじまり70年のエルサレム陥落、さらに73年のマサダ要塞の陥落と集団自殺までつづくが、余りの凄惨さに読むに耐えなくなる箇所も決して少なくない。

2016-03-26 14:38:52
山本七平bot @yamamoto7hei

⑧そしてこの戦争の発端もまたギリシア人対ユダヤ人、すなわちカイサリアにおけるギリシア人のユダヤ人に対する嫌がらせに端を発する争いに起因している。 これを何とか収拾すればよかったのだが、当時の総督フローロスはギリシア側の肩をもった。 これはごく自然な感情であろう。

2016-03-26 15:09:05
山本七平bot @yamamoto7hei

⑨彼は立派な人間とはいえないが、ギリシア文化に敬意を表しても、非ギリシア人のユダヤ人に共感を持つはずがない普通のローマ人である。 たとえカイサルに与えられ、神なるアウグストス帝がそれを保証したとはいえ、ユダヤ人はあまりにその特権を振りまわしすぎるという気持があったであろう。

2016-03-26 15:38:50
山本七平bot @yamamoto7hei

⑩さらに、ユダヤ人の偶像拒否に基づく諸事件や、ユダヤ人とサマリヤ人の争い、さてはユダヤ教諸派内の争いなどでうんざりしていた。

2016-03-26 16:09:12
山本七平bot @yamamoto7hei

⑪暴動の火は次第に広がったが、事態を決定的にしてしまったのは、ユダヤ人の過激派がエルサレムの少数のローマの駐屯兵を生命の安全を保証して降伏させながら、一人を残して全員を虐殺してしまった事である。

2016-03-26 16:38:50
山本七平bot @yamamoto7hei

⑫ここでギリシア人とユダヤ人との争いは一転してローマ帝国対ユダヤ人の対決となっていく。 だが本稿はユダヤ戦争の顚末を記すのが目的でないから、背景はこれにとどめて、ヨセフスに進もう。

2016-03-26 17:09:05