山本七平botまとめ/【裏切者ヨセフスの役割⑧】過激派のリーダーになってローマとの停戦を目論んだヨセフス/~ローマ帝国との戦いであり、下層階級による革命でもあったユダヤ戦争~

山本七平『禁忌の聖書学』/裏切者ヨセフスの役割/31頁以降より抜粋引用。
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山本七平bot @yamamoto7hei

①【26歳になって間もなく…私はローマに行くこととなった。当時ユダヤの総督はフェリクスであったが、私が懇意にしていた立派で善良な祭司たちが、とるにたらぬ微罪で鎖につながれてローマに送られ、カイサル(ネロ)の前で釈明せねばならぬことになった】<『禁忌の聖書学』

2016-03-27 08:09:09
山本七平bot @yamamoto7hei

②【私は何とかしてこの人たちを救い出す方法を見つけ出そうとした…】 …彼はこの祭司の釈放を陳情するために海路ローマに向い…無事にローマに到着した。 …当時のローマにはすでに5万人のユダヤ人が居留していたといわれる。

2016-03-27 08:38:50
山本七平bot @yamamoto7hei

③そこで彼はネロのお気に入りであった…ユダヤ人の俳優と親しくなり、彼の手引でネロの寵妃、タキトゥスが「高貴な魂を除けば女性として何一つ欠ける所がない」と評したポッパイア・サビーナに会う。

2016-03-27 09:09:15
山本七平bot @yamamoto7hei

④【私は…ポッパイアの知遇を得たので、祭司たちの釈放に助力してくれるようすぐさま懇願し、話はうまくすすんだ。そのうえポッパイアから莫大な贈物までもらって、祖国への帰途についた】

2016-03-27 09:38:50
山本七平bot @yamamoto7hei

⑤…そして帰国してみると 【そこでは既に革命への動きが進展しており、多くの人達がローマからの離反に気負いたっていた】 …彼はローマの強大さをその目で見、同時に親ローマ的であった支配階級の神殿貴族の一員であるから、次に記すように行動したと主張しても恐らく弁明でも嘘でもあるまい。

2016-03-27 10:09:11
山本七平bot @yamamoto7hei

⑥【もちろん私は煽動家たちを鎮めようとつとめ、彼らの攻撃しようとしている敵がどのようなものかを説明し、意見を変えさせようと骨を折った。 私たちは戦争の経験においても、戦争に勝てるチャンスにおいても、ローマ人には到底及ばない。】

2016-03-27 10:38:51
山本七平bot @yamamoto7hei

⑦【だからここで、危険を冒して猪突猛進し、結局は醜態を演じて、自分たちの祖国や家族、また生命を最悪の状態に晒すような事はすべきでない。 私の論旨はそのようなものであり、彼らを思い止まらせようと、争いを抜きにして真剣に語りあった】

2016-03-27 11:09:06
山本七平bot @yamamoto7hei

⑧【とにかく私には惨憺たる戦争の結末が、眼に見えていたからである。 しかし私は説得に失敗した。 彼ら愚物どもの狂気が勝った】 このあたりのことは、太平洋戦争の開戦直前に帰国した知米派を思わせる。 両者の実力の余りにも大きな懸隔を彼は知っていた。

2016-03-27 11:38:51
山本七平bot @yamamoto7hei

⑨だが 【このような説得をあまりにも執拗に繰り返したため、彼らは私を憎悪しはじめ、そのうえ敵との通謀を疑って、私を捕えて死刑にしかねない懸念さえ生れた。 そこで私は、神殿の奥深くに身を引いた…】 これも事実であろう。

2016-03-27 12:09:10
山本七平bot @yamamoto7hei

⑩だが決起した過激派の内訌(ないこう)に乗じて巧みに彼は神殿を脱出し 【大祭司やパリサイ派の指導者たちと再び顔を合わすことができた】 ユダヤ戦争は、一面ではローマとの戦いだが、もう一面ではローマと手を結ぶ上層階級と下層階級の戦いでもあった。

2016-03-27 12:38:51
山本七平bot @yamamoto7hei

⑪この点ヨセフスがこれを「革命」と呼んでいるのは正しい。 彼はローマ人とともに打倒さるべき階級に属していた。 【ところで私たち(大祭司やパリサイ派の指導者)の置かれた状態は、危険きわまりないものであった。】

2016-03-27 13:09:05
山本七平bot @yamamoto7hei

⑫【武器を手にした民衆を見ながら、私たちには革命家たちを制止する力はなく、いかに対処すべきか戸惑うばかりだった】 方法は二つしかない。 脱走貴族となって国外に亡命するか、逆に叛徒の中へ入って行って主導権を奪取するかである。

2016-03-27 13:38:52
山本七平bot @yamamoto7hei

⑬フランス革命の場合も同じような現象があるが、過激派が完全に主導権を握るまでの過渡期に革命的な貴族を名目的なリーダーに推戴する例は決して少なくない。 ヨセフスは多くの上層階級が国外に逃亡するのを見ながら、あえて後者を選んだ。この事は後々まで彼の行動を実に矛盾に満ちたものにする。

2016-03-27 14:09:15
山本七平bot @yamamoto7hei

⑭表面では彼はユダヤ戦争のリーダーの一人だが、内心ではあくまでも、親ローマ派であって、過激派を嫌悪している。 彼は叛徒の中へとび込んで何とかローマとの間の停戦に持ち込もうとした。

2016-03-27 14:38:52
山本七平bot @yamamoto7hei

⑮【しかし、危険が余りにも明瞭であり、かつ切迫していたので、ついに私達も彼らの見解に同調する事を表明した。 しかし私達は彼らに…敵が攻めて来るまでは、そのままでいる事を提案した。 武器をとったのは正当防衛のためだったと、後で主張できるようにするためである。】

2016-03-27 15:09:05
山本七平bot @yamamoto7hei

⑯【そうしておいて私達はケスティオス(シリア総督)が革命を鎮定する為、大軍を率いてエルサレムに上ってくる事を期待した】 彼はローマ軍が革命を鎮圧したら両者の調停に乗り出すつもりだったのであろう。確かにケスティオスは来た。 だが意外な事に叛徒に敗れた。…ベテ・ホロンの敗戦である。

2016-03-27 15:38:52
山本七平bot @yamamoto7hei

⑰この緒戦におけるユダヤ側の″真珠湾的″勝利は事態を決定的にしてしまった。 【…どうしたことか、彼は革命家たちと交戦して惨敗し、部下の多数を殺されてしまった。 そしてこのケスティオスの予期せぬ敗北こそは私たち民族全体の不運となった】

2016-03-27 16:09:10
山本七平bot @yamamoto7hei

⑱【なぜなら戦争を望んでいた連中は、それによってますます士気が高められ、一度ローマ人を破った以上は、最後までその勝運が続くものと考えたからである】 意外な事態は悪循環を起こす。

2016-03-27 16:38:52
山本七平bot @yamamoto7hei

⑲この敗戦で動揺したシリアの住民が、在留のユダヤ人を襲撃して妻子もろとも虐殺した事件が起り、類似の事件が連鎖反応的に起る。 これが勝利に高揚した民衆の激昂の火に油をそそぐ結果となった。 事態はもう押しとどめることができない。

2016-03-27 17:09:07