山本七平botまとめ/【裏切者ヨセフスの役割⑨】ヨセフスの予型論(タイポロジー)/~ガリラヤ軍の総指揮官ヨセフスがヨタパタ陥落で取ったローマへの降伏という選択肢~

山本七平『禁忌の聖書学』/裏切者ヨセフスの役割/35頁以降より抜粋引用。
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山本七平bot @yamamoto7hei

①ネロはウェスパシアノスを総司令官にして本格的な鎮圧作戦を開始しようとしていた。 そして様々な紆余曲折の末、ヨセフスはガリラヤ軍の総指揮官となった。 ガリラヤもまとまっていたわけではなかったが、それをヨセフスが何とか統合した経過は除く。<『禁忌の聖書学』

2016-03-27 17:38:50
山本七平bot @yamamoto7hei

②いずれにせよ彼は、ウェスパシアノスとその子ティトスに率いられたローマの正規軍団の攻撃を、ヨタパタの町で防禦する結果となった。 ローマ軍の包囲攻撃を、彼は47日間、手段をつくして何とか持ちこたえた。

2016-03-27 18:09:13
山本七平bot @yamamoto7hei

③だが所詮、敗滅はまぬかれないと覚悟していたのであろう。 彼はユダヤの滅亡とローマ帝国の未来をつげる不思議な夢を見たと記している。 だがこれは恐らく、ローマでネロについて見聞してその未来を予感し、同時にウェスパシアノスとティトスの実力を身をもって経験した結果であろう。

2016-03-27 18:38:51
山本七平bot @yamamoto7hei

④ついに最期が来た。 援兵なき絶望的な47日間の抗戦に疲れ切った彼らの隙をついて、払暁にローマ軍はヨタパタに突入した。 混戦状態の中で、ヨセフスはある竪穴に飛び込んだ。 『ユダヤ戦記』には次のように記されている。

2016-03-27 19:09:04
山本七平bot @yamamoto7hei

⑤【…ヨセフスはヨタパタの町が完全に占領される寸前、神の摂理により、ともかくも敵の眼を逃れ、深い竪穴に跳び込んで身をひそめた。 その壁面には横に広い洞穴がさらにのびており、上からそれは見えなかった。 彼がそこに入ると、40人ほどの町の有力者たちが隠れていた。】

2016-03-27 19:38:51
山本七平bot @yamamoto7hei

⑥【かなりの日数はもちこたえられる食糧の貯えもあった。日中は敵が町全体を占領しているのでそこに身をひそめ、夜間に穴から出て逃亡する抜け道を探り、歩哨のようすを探った】 ヨタパタはローマ軍に完全に破壊され、今なお、草も生えぬ瓦礫の山である。

2016-03-27 20:09:19
山本七平bot @yamamoto7hei

⑦数年前この地を訪れたとき、ヨセフスがひそんでいたらしい洞穴に入ってみた。 今ではそれは、ローマ軍の破城槌で壊されたのか自然に崩壊したのかわからぬが、横腹がやぶれて内部を露出している。 おそらく彼はここにひそんでいたのである。

2016-03-27 20:38:52
山本七平bot @yamamoto7hei

⑧だが何としてもヨセフスを捕えようとするローマ軍の警戒は厳重で逃亡の隙がない。 3日日、捕えられた女がヨセフスがひそんでいるこの穴を密告した。 ウェスパシアノスは、千人隊長のパウリノスとガルリカノスを派遣し、生命の安全を保証するから投降するようにとヨセフスに勧告させた。

2016-03-27 21:09:18
山本七平bot @yamamoto7hei

⑨だが彼は応じない。 そこでヨセフスの旧知である千人隊長のニカノルを派遣してさらに説得させた。 そのとき――と彼は書いている――霊感に動かされ、先に見た不思議な夢を思い出し、静かに次のように神に祈ったと。

2016-03-27 21:38:51
山本七平bot @yamamoto7hei

⑩【『ユダヤの民を創造したもうたあなたが、今やその民を打ち砕くことを善しとされ、すべての運がローマ人に移ってしまった今、あなたは来たるべき事柄を告げるために、私の魂を選びたまいました。 それゆえ私は、今自ら進んでローマ人に身を委ね、生きながらえる道を選びます』】

2016-03-27 22:09:23
山本七平bot @yamamoto7hei

⑪【『御前に誓って申し上げます。私は裏切者としてでなく、貴方の僕として仕える為に投降するのでございます』 彼はこのように祈り、ニカノルに身を委ねようとした】 これはヨセフスが自らの降伏を正当化しようとした屁理屈のようにも見える。 だがそういう単純な見方をする学者はまずいない。

2016-03-27 22:38:52
山本七平bot @yamamoto7hei

⑫ここで問題になるのはヨセフスの予型論(タイポロジー)である。 人間はだれでも偉大な先人に自らを擬そうとする。 これはどの民族にもあることで、日本人も自らを信長に擬したり、今太閤と呼ばれたがったり、家康を気取ったりする。

2016-03-27 23:09:23
山本七平bot @yamamoto7hei

⑬この点で、歴史は常にその民族に大きな影響を与えるものだが、ここでヨセフスが自らを擬しているのは、祭司階級出身の預言者エレミヤである。 ネブカドネザルによるエルサレム攻略のときエレミヤがとった態度と彼が理解したものが、彼に、自らの降伏を正当化させる理由づけとなった。

2016-03-27 23:38:51
山本七平bot @yamamoto7hei

⑭だが別の見方をすれば、元来は親ローマ派の神殿貴族である彼が、心ならずも過激派に同調せざるを得なくなり、最後の瞬間にその本心が出てきたともいえる。

2016-03-28 08:09:11