風車よ回れ、春をもたらす風を受け!#1 風車の街ガイメルク◆3

新婚旅行で訪れた街は、風車の街だった。街の中心にそびえる巨大な風車塔。 サンダーシルフの伝説が残るこの街で、新婚のレジルとミレウェは観光を楽しみます。しかし、嵐の予感が……! 全90ツイート予定 続きを読む
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減衰世界 @decay_world

_風車よ回れ、春をもたらす風を受け!#1 風車の街ガイメルク

2016-03-29 17:24:27
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_少年の家は風車塔の周囲、建物が風車塔にいくつもへばりつき、積みあがった集合住宅の一角にあった。少年に案内されて部屋に入るレジルとミレウェ。部屋の中は、大量の本や資料で埋め尽くされていた。 「ここが僕の家だよ。狭いけど……兄さんと二人で暮らしてた」 21

2016-03-29 17:31:48
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_少年は二人に堅麦茶を出して、話を始めた。 「兄さんはサンダーシルフの失われた伝説を研究していたんだ。その研究の果てに、風車塔に避雷針を付けることを思いついたんだ。雷をコントロールしているシルフに失礼だから、付けられていなかった避雷針……」 22

2016-03-29 17:37:07
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_大人たちは少年の兄の案に反対した。避雷針はシルフを侮辱するものであり、必ず怒りをかってしまうと。少年の兄は理由を説明した。だが、神の怒りへの恐れからか、賛同はほとんど集まらなかった。少年の兄は避雷針取り付け工事を強行し、雷に打たれて亡くなってしまったという。 23

2016-03-29 17:43:17
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「理由ってなんですの?」 「分からない……理由は町長と兄さんしか知らない。兄さんは秘密にしておかなければならないこともあるって言っていた。多分……サンダーシルフへの信頼を損なうもののはず。じゃなきゃ、秘密にする理由なんてない」  少年は比較的新しいノートを取り出す。 24

2016-03-29 17:51:26
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「僕も分からないままお手上げで終わるわけにはいかない。兄さんの遺品を整理して、兄さんが何を研究していたのか。それを探しているんだ」  そのノートは、膨大な資料から見ればあまりにも薄く見えた。始めて間もないのだろう。 「兄さんは言っていた。街を守りたいって……」 25

2016-03-29 17:57:22
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_息をのんで、拳を固める少年。 「兄さんは知ったんだ。風車塔の理由や、街ができた理由。サンダーシルフと街の関係。みんな忘れちゃっているけど、そこには忘れてはいけないものがあったんだ。それが消えてなくなるなんて嫌だ」 26

2016-03-29 18:03:36
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「この街の歴史。兄さんの後追いだけど…だいぶ分かってきた」  少年は街の歴史を語りだす。元々この土地はひとが住める場所ではなかった。やせた土地はもちろん、凶悪なサンダーシルフ……神にも等しい魔精がこの土地を支配していた。ある騎士が、自分の名を上げるため、魔精を討伐した。 27

2016-03-29 18:07:49
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_魔精の死と共に、土地に魔力がばら撒かれ、それを回収するために開拓村が作られた。それが街の成り立ちだった。しかし、開拓村では不幸な事故が相次ぎ、それは死んだ魔精の呪いではないかと噂される。そこで魔精……シルフを弔うことにした。風車はシルフの喜ぶ捧げものである。 28

2016-03-29 18:11:54
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_風車が完成してから、街では幸運が続いたという。堅麦の利用もその一つだった。風車の動力で挽くことを思いつき、試しに栽培してみたところ、土地の条件と見事にマッチしてすくすくと育ったのだ。堅麦の生産増加に伴い、風車の増築が加速し風車塔となった。これが街の生い立ちだという。 29

2016-03-29 18:16:30
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「兄さんの研究を追いかけて分かったのは、ここまで……核心部分がなかなか見つからない。でも、これが正しいなら……風車の力で強大になったサンダーシルフが、復讐に来たとしか思えない。いまシルフは雲の上にいる。風車の力で復活したシルフが……。僕たちは、何も知らずに生きていたんだ」 30

2016-03-29 18:20:41
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_風車よ回れ、春をもたらす風を受け!#1 風車の街ガイメルク (了) #2 嵐のシルフ へつづく

2016-03-29 18:21:07
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【用語解説】 【魔精】 シルフが魔法の力を帯びて、それを完全にマスターし、魔法の存在となったもの。人間が魔人に、ドラゴンが魔竜になるのと同じである。魔法陣を扱えるレベルであり、人間とは異なる価値観を持つため、しばしば討伐の対象となった。悪戯半分で破壊を楽しむものばかりである

2016-03-29 18:26:48