風車よ回れ、春をもたらす風を受け!#3 生まれ変わる風◆3(終)
_嵐が止んだ。突然、風も、雨も、止まったのだ。びしょぬれの屋上に立っているのは、ずぶぬれの少年。小さな雷球になり、ぱちぱちと火花を散らすサンダーシルフ。そして、レジルとミレウェ。 時折、雷球から放電が迸る。 81
2016-04-04 17:15:39_放たれた電撃は、避雷針に吸収されていく。かつてのシルフなら……街のできる前、この地を支配し、騎士に討伐されたシルフならば、急ごしらえの避雷針などバラバラに破壊してしまっただろう。 その電撃はまばゆく、優しげだった。 82
2016-04-04 17:22:13「誤解……」 「誤解していた」 シルフと少年がほぼ同時に言葉を発し、気まずく赤面した。少年は慌てて続ける。 「誤解していたんだ。シルフが恐ろしい存在だって。でも最初からあなたは街の守り神だったんだ」 「わたくしも、街の人の力を誤解していた。人間は嵐よりも強い……」 83
2016-04-04 17:28:57_レジルとミレウェはにこりと笑い、スーツのつゆを払った。すると、まるで少しも濡れていないスーツに戻っていた。ミレウェの純白のドレスも同様だ。 「さて、一件落着だな。我々は、旅の続きに戻るとしよう」 そう言って、空中に踏み出す。 84
2016-04-04 17:35:21_不思議なことに、落下することなく、二人は空中を歩いた。最後に、レジルとミレウェは振り返る。屋上には少年、そしてサンダーシルフ。風車塔のあちこちから街の男たちが顔を出し、手を振っていた。手を振り返すミレウェ。 「素晴らしい観光でしたわ」 85
2016-04-04 17:40:05_街の男たちは歓声を上げ、全員で別れの挨拶をした。しぐさはもちろん、赤子をあやす両腕の動きだ。この街の伝説……入ったら赤子で、出るときも赤子で終わるだろう。何度でも、生まれ変わる伝説。 この街は何度嵐に会おうとも、生まれ変わるだろう。 86
2016-04-04 17:45:06「待って!」 旅立とうとする二人に向かって、少年が屋上の縁から身を乗り出して叫ぶ。 「レジルさん、サンダーシルフに祝福をください。シルフは、これからも街を守る。きっと、辛いこと、苦しいこともあるはずなんだ。それに負けないように……」 87
2016-04-04 17:50:31_レジルは喜んで了承した。 「そう、春であるな……」 レジルは口ひげを揺らして微笑む。サンダーシルフは風車塔の屋上で輝き続ける。 「この街は春の街だ。春の東風を真っ先に受け、灰土地域に春の便りをもたらす。そう、生命が生まれ変わる季節でもあるな……」 88
2016-04-04 17:56:04「嵐に備えなければならない。嵐に耐える、避雷針と風車塔を築かなければならない。でも、大丈夫なのだ……なぜなら、春に嵐はつきものであるからな!」 そう言ってサンダーシルフに祝福を与え、二人は空の向こうへ駆け抜けていった。 89
2016-04-04 18:00:17_灰土地域、東の果て。砂漠の向こうにそびえる乾燥した山脈、北境界高地。ここは灰土地域に春を告げる場所。そして、生命を復活させる、生まれ変わる風をもたらす場所――。 90
2016-04-04 18:06:23【用語解説】 【風車の街ガイメルク】 北境界高地の北部に位置する都市国家。市民構成はエシエドール人70%、インペリアル人15%、ハーピィ10%、その他5%。農作物はほとんどを堅麦に依存。畜産は牛の遊牧が盛ん。建築は石と金属、タールを用いる。宗教は虚無教が国教とされる
2016-04-04 18:15:38【次回予告】 「ベイベー俺は風になる……」 イカしたフレーズを呟きながら、ノリノリでトラックを暴走させるゾンビのおっさん。爆走するトラックを、誰か止めてくれ! そして、おっさんは風になる…… 次回「ゾンビ中年トラックで爆走」 全80ツイート予定 #減衰世界
2016-04-04 18:25:18