ゾンビ中年トラックで爆走#1 俺は風になる◆3
_病院の周辺は、捻じれた木の乱立する林になっている。木々は汚染され、何の役にも立たない。病院と、大きな商業施設だけがあった。 死霊術師の娘は、近くの店でおいしいものを買おうと駐車場を横切る。蒸気式乗用車や長距離トラックが並ぶ。 21
2016-04-07 17:22:52_この地区は、クレーター状のクノーム市を取り囲むように作られた環状道路の出入り口が近くにあり、他の街から来た長距離トラックが何台も休んでいる。 夜のドライブを終え、朝ご飯を食べているのだろう。朝日眩しい駐車場にはいつもよりトラックが多い。 22
2016-04-07 17:28:27_今もまた、一台のトラックが死霊術娘の隣を轟音を立てて過ぎていった。3連蒸気発動機が納められた、細長い車体が目を引く。 死霊術娘は違和感を覚えた。トラックの……運転手がゾンビだった。しかも、自分が蘇生させたゾンビでは? 23
2016-04-07 17:33:50_ゾンビは確かに労働力として重宝される。ただ、それは単純作業や簡単な肉体労働に限定されていた。ゾンビは痛みや苦しみや疲れを感じない反面、精密な作業や高い思考能力を要求される仕事に向いていない。自動車の運転など、もってのほかだ。法律で制限されているはずである。 24
2016-04-07 17:43:25_トラックは街の中心に向かって走っていった。慌てて、商業施設の公衆電信を探し、取引先に連絡する。脳に埋め込んだシリンダーに不備があったか、不正があったか……しかし、いくらコールしても電信は無反応だった。 「しまった、違法業者か、犯罪だ……」 25
2016-04-07 17:49:08_ゾンビによる犯罪は、よくある話である。シリンダーに命令を封入し渡せば、あとは勝手にゾンビがやってくれる。証拠を残すのも、捕まるのも、末端のゾンビだ。脳のシリンダーから首謀者を辿るのは難しい。 死霊術娘があたふたしていると、労働者風のおっさんが公衆電信に走ってきた。 26
2016-04-07 17:53:47「頼む、通報させてくれ! 俺のトラックが奪われたんだ……キーを偽造されて……電信代わってくれ!」 「あ、はい……」 悪い予感がする。おっさんは蒼白の顔面で電信を操作する。どうやら、ゾンビにトラックを奪わさせたらしい。 27
2016-04-07 17:58:53_ゾンビに運転させる……つまりは、事故によって積み荷を破壊するのが目的なのだ。シリンダーにはいくつかの非攻撃的魔法を封入できる。犯罪で多用される解錠の呪文も。解錠の呪文は指定魔法なので、行使すると街の魔法回路が時間をかけて精査し、悪性と判断した場合使用者を即殺できる。 28
2016-04-07 18:04:35_ゾンビならば、殺されても痛くもかゆくもない。その時点でトラックが十分に加速していれば、手間が省けるというもの。完璧な犯罪だった。トラックの鍵パターンの情報がハックされたり、運行ルートから休憩ポイントを推測されたなどの落ち度もあるが、許されない犯罪である。 29
2016-04-07 18:11:34「今日はいい日だなんて、最悪の日じゃない……」 奇跡的な成功が、まさか犯罪の片棒を担ぐことになるとは……死霊術娘は建物の影に移動すると、頭を抱えて唸り声を上げた。 30
2016-04-07 18:15:38【用語解説】 【解錠の呪文】 鍵の魔法と解錠の魔法の進化は、互いに刺激し合い、高度に発達してきた。絶対に解かれない鍵と、絶対に開けられる魔法。車のキーは魔法装置となっており、まず通常の方法では不正解錠できない。それを可能にするのが、盗賊ギルドが扱う裏社会の魔法である
2016-04-07 18:21:39