ローガンダルレンの友達#1 最強防護服、ロールアウト!◆1
_ぎしり、と重たい音がした。関節の全てに重量がかかっている。吐息でガラスが曇る。外界と完全に隔離された、厚さ10センチの防護服。 エルヴィは防護服の中で、ゆっくりと息を整えた。 「歩ける?」 無線がヘルメット内部でガンガン響く。研究室には彼女と博士の二人。 1
2016-04-13 17:14:17_エルヴィは右足を擦るように、一歩進む。彼女はドラゴンであり、人間形態をとっているとはいえ、60キロの装備をものともしなかった。 「オーケー。歩ける」 「きゃーヤッター! これで超魔導魔竜に勝てるわ!」 女博士の声が、ヘルメット内でまた暴れた。 2
2016-04-13 17:19:31「勝てるは言いすぎでしょ……」 超魔導魔竜ローガンダルレン。彼は灰土地域に君臨する六大魔竜(注:七大魔竜と数える説もある)の一人に数えられる、強大な魔竜である。六大魔竜は、一匹一匹が竜の国の全軍事力を超える力を持つ。制御不能の暴力。 3
2016-04-13 17:25:18_ローガンダルレンは、特にずば抜けた破壊魔法を用いる点で危険視されている。あらゆる攻撃を跳ね返し、領域内の敵を滅殺する魔導を超えた魔法陣。しかも、竜の国の目と鼻の先、竜芽山脈に住まう。彼が歩いてきただけで、何の抵抗もできずに竜の国は亡びる。冗談ではなく。 4
2016-04-13 17:32:03_そのため、かなり不平等な条約に誓約させることで、滅ぼさないでくださいとお願いするほかない。もちろん不利なのは竜の国側だ。 「今回1000年ぶりに2回目の契約更新するんだから、冗談でも敵対するようなこと言わないでください」 エルヴィはため息をつく。 5
2016-04-13 17:38:00_契約は900年前に失効していたが、気まぐれからか魔竜が攻めてくることは無く、こちらも魔法陣を突破して侵入できず、現在に至る。 「オッ、仕事熱心だな。では、奴の魔法陣に近い滅殺負荷を局所的に発生させるぞ。どう頑張っても3秒が限界だ。一瞬で終わるから気張らなくていいぞ」 6
2016-04-13 17:43:24「ま、そんな強い負荷じゃないでしょ~」 「3、2、1、負荷開始!」 「うぎゃあああああああ!!」 防護服を超えて、エルヴィの全身に激痛が走る! ゆっくり前かがみになり、床に手を付くエルヴィ。 7
2016-04-13 17:47:15_3秒が永遠に感じるほどの苦しみを味わった後、実験は終わった。 「ンッン~防護レベルが足りなかったかな~」 「冗談言わないでください! マジですか、こんな苦しみの坩堝を歩いて本体の下に行かなくちゃいけないんですか」 「動物実験は成功したんだけどねぇ。気絶してたけど」 8
2016-04-13 17:52:22「ちゃんとシールド張ってください……頼みますから」 「ま、約束の日まであと1ヶ月あるし、頑張りまっすよ」 契約更新の打診を行い、それが受理されたのが最近の話だった。魔法陣の防護を貫通するテレパスを発する予算を確保するだけでも大変だったのだ。 9
2016-04-13 17:58:18_竜の国の公務員の中で、最高ランクの仕事「竜杖吏員」。竜杖吏員エルヴィの仕事は……魔竜との交渉。 彼女は魔竜との契約を果たすため、分厚い防護服を身に纏い、死の魔法陣を突っ切って魔竜の下へと向かわなければならないのだ。 10
2016-04-13 18:03:32【用語解説】 【魔竜】 狭義では、魔法陣を使える竜である。魔法の領域である魔法陣を生み出す能力は種族差が大きく、一般的に竜は苦手とする。それでも魔法大学で博士号を取れば修得できるレベルであり、無数の魔竜が竜の国にいる。魔竜の魂を込めた魔竜兵器の素材となるため、命を狙われることも
2016-04-13 18:12:01