山本七平botまとめ/【報道の深層心理】地球村の「負い目の裏目」に配慮がまったく無い日本のマスコミ
- yamamoto7hei
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①【報道の深層心理】「負い目の裏目」という言葉が、私の両親の故郷にあったらしい。「らしい」というのは時々この言葉を耳にしたからである。<『「常識」の非常識』
2016-04-14 15:39:23②その意味は、 だれかに何らかの負い目を感じている者は、その相手に何か失態があったときに余計に強く言いたてるものだから用心せよ、 といったような意味である。 昔の紀南の狭い漁村での、複雑な人間関係の中で生きて行かねばならなかった者の「生活の知恵」であろう。
2016-04-14 16:08:55③都会生活ではこれは余り感じないが、今のように国際社会が狭くなると、われわれはある程度はこういった祖先の知恵を思い起こすべきかも知れない。 というのは、このことを、次の二つの点で感じたからである。
2016-04-14 16:39:23④一つはベイルートのパレスチナ難民キャンプの虐殺事件である。 もちろんこれについてはイスラエルの新聞自体が、ある意味では最も尖鋭にベギン政府を攻撃しているが、西欧のそれとは趣きを異にしている。
2016-04-14 17:08:53⑤たとえば政府批判の急先鋒はイスラエルの「ハアレツ」紙だが、その前にもこの新聞は南部レバノンにおけるPLOのマロン派その他への弾圧・虐殺も報じており、その内容は今回の事件に劣らずショッキングである。
2016-04-14 17:39:04⑥何しろPLO・シリア介入の内戦で10万人が虐殺されたであろうといわれる12年間だから、その内容が物凄くても不思議ではない。
2016-04-14 18:08:52⑦だが、「ハアレツ」は何もPLO罪悪史を暴露しようというのではなく、そのような状態でPLOが武装解除されれば、マロン派によるどのような「血の報復」があるかわからない。
2016-04-14 18:39:05⑧その場合、占領地である以上、イスラエルは当然にその責任を負わねばならないから細心であれという政府への警告も、含まれている。 そしてベギン政府は、この警告に正しく対処しなかったという点では、この批判は正しい。 だが、西欧の批判は明らかにこれと違う。
2016-04-14 19:08:51⑨また彼らのユダヤ人迫害史がどれほど長く、かつ残酷で、その総仕上げがヒトラーであったことは『ディアスポラ』を読めば明らかである。 この著者のW・ケラーは現在スイス在住だがドイツ人で、ドイツ語でこの本を出している。
2016-04-14 19:39:05⑩自己の罪悪を自ら徹底的に告発することは立派だが、ドイツ人のすべてがそうでないから、今回のような事件が起こると「負い目の裏目」が出てくる。 だが、これはドイツだけでなく西欧全体に共通している。
2016-04-14 20:08:54⑪もう一つは日本の「原爆ゆるすまじ」である。 これをアメリカ人が聞くと 「原爆を落としたアメリカ人を絶対に許さないぞ」 と聞こえるという。
2016-04-14 20:39:14⑫私の友人などもそう受け取り、日本人は皆アメリカ人を恨んでいると信じていたが、日本に来て、アメリカ人を恨んでいる日本人に会った事がないと、非常に驚いていた。
2016-04-14 21:08:52⑬原爆を落として、戦闘員・非戦闘員の別なく大量殺傷をしたことは、確かに彼らにとって「負い目」であり、従って「原爆ゆるすまじ」を以上のような意味にとって不思議ではない。
2016-04-14 21:39:05⑭特に彼らにとって「許す」とか「許さない」とかは、明確に「人間と人間との関係」に関する言葉であって、「人間が原爆という『物』を許すとか許さないとかいう」ことはあり得ない。 従って、以上のような受け取り方はある意味で当然である。
2016-04-14 22:08:52⑮この言葉や「反核署名八千万人」などという記事を目にすれば、彼らはいや応なく「負い目」を感ずる。 そこへ例の教科書報道であり、日本は中国への侵略を歴史から抹殺しそれを美化しているなどという報道が伝われば、たちまち「負い目の裏目」が出てくるのも不思議ではない。
2016-04-14 22:39:27⑯世界は狭くなったが、それが最も著しいのが電波の世界であり、その早さはかつての狭い村内に噂が広まるより早く、まさに一瞬である。 それでいながら昔の村内のように互いに知っているわけでなく、「翻訳」による誤解も生ずるからさらに始末が悪いともいえる。
2016-04-14 23:08:53⑰ただ、日本は戦後しばらく地球村の「村八分」であり、やっと復帰しても日本の言動などは問題にしない時期が長かった。更に「日本語」という壁はたとえ日本の中でマスコミが何かを大声で叫んでも、地球村の中では家の中のヒソヒソ語ほどにも外に知られなかったし、そんなものを誰も問題にしなかった。
2016-04-14 23:39:09⑱しかし現在では違う。 日本は好むと好まざるとにかかわらず村内の実力者であり有力者であって、さまざまな影響力を地球村に及ぼしている。 さらに最近における大きな特徴は、日本人に英語人口が増加するだけでなく、外国でも日本語のできる人々が非常に増加してきたことである。
2016-04-15 08:09:05⑲いわば「言葉の壁」は崩れたとはいえないまでも、相当に穴が大きくなり、それは結果においてはヒソヒソ話の声が大きくなったに等しい。 そうなると「負い目の裏目」がすぐ出てくる。
2016-04-15 08:38:54⑳現代の日本のマスコミも一部の国民も、この点の微妙さへの配慮が少ない、 というより皆無に等しい。 一考を要する問題である。
2016-04-15 09:09:11