ローガンダルレンの友達#2 魔竜への手紙◆2
_エルヴィは黙ってローガンダルレンの話を聞いていた。彼は魔竜であるが、悪竜ではない。 「いつか、貴方を魔法陣の呪縛から解き放ちたいです」 「分かってくれたんだね……」 彼はエルヴィの手を防護服越しに握った。 41
2016-04-17 14:28:02_超魔導魔竜に握られただけで、手が砕けそうなほど痛い。涙をこらえて、歯を食いしばった。確かに、彼は悪竜ではない。しかし、魔法陣の殺傷性は異常だ。常識を超えている。 (……心の奥では、彼の信頼を裏切ろうとしている。そんな自分が嫌だ) エルヴィは心の中で懺悔した。 42
2016-04-17 14:34:28「お願いだ、是非僕の傍で暮らしてくれ……僕は孤独だった……でも君は、僕の魔法陣の中で生きていられる。頼む……何でも君の言うことは聞こう」 「えっ……」 当然防護服を脱いだら死んでしまう。これから先、こんな無味乾燥した世界で防護服を着たまま暮らせというのだ。 43
2016-04-17 14:39:59「永遠の寿命を君にあげよう。どこまでも僕と暮らしてくれ。頼む、僕は孤独で狂いそうなんだ。またとないチャンスなんだ、僕は1000年待ったんだ、この日を……」 エルヴィは戸惑うしかない。孤独が彼の心を蝕んでいる。超魔導魔竜の目は爛々と輝き、眼窩に深いしわを刻む。 44
2016-04-17 14:46:12_魔竜の友人になれたら、竜の国の脅威を減らせるだろう。そして、断ったら逆上した魔竜が竜の国を亡ぼすかもしれない。難しい選択を迫られていた。 エルヴィの両手を強く握る魔竜。その手は震えていた。取り乱しているといっていいだろう。選択は慎重にせねばならない。 45
2016-04-17 14:52:44_エルヴィは悩んだ。自分の身を捧げるべきか。一度は命を懸けるとまで思った仕事のはずが、決心が揺らぐ。手が痛い。防護服は大丈夫なのか? ピリピリと紙を裂くような音が聞こえる。全身の痛みが強くなる。痛い。苦しい。手が千切れそうだ。防護服は大丈夫なのか? 「痛い……」 46
2016-04-17 14:57:13「ぐ、ぎゃあああああ!!」 全身の痛みが許容範囲を超えた。防護服の効果がどんどん落ちているのだ。超魔導魔竜の、滅殺の魔法陣がエルヴィの全身を打ちのめした。 「だ、大丈夫!? 契約はするよ、誰も傷つけないよ、ただ、僕は、友達に……」 うろたえる魔竜。 47
2016-04-17 15:02:33「死にたくない……たすけて、誰か助けてよぉ……痛い、痛い……身体が痛い……たすけて……」 もはや立つこともできず、洞窟の砂を蹴飛ばし暴れまわる。命を懸ける覚悟も、平静を保つ余裕も吹き飛ぶ激痛。 魔竜はその姿を呆然と見ていた。 48
2016-04-17 15:07:28「……ごめんね」 魔竜の頬に、一筋の涙が流れた。魔竜は全てを察した。自分の魔力が、彼女を死に至らしめる。そして彼は、静かにその場を去った。 暴風が巻き起こり、砂煙を巻き上げ、巨大な竜体となって空へと駆け上る。叫び声は、まるで泣き声のよう。 49
2016-04-17 15:12:43_エルヴィはゆっくりと意識を取り戻した。全身の痛みはまるで何事もなかったかのように消え失せていた。ローガンダルレンは去ったのだ。広大な竜芽山脈のどこかへと。魔法陣ごと移動したのだ。 「ごめん……やっぱり、命は惜しかったよ……」 その声が届く先は、どこにもなかった。 50
2016-04-17 15:18:03【用語解説】 【竜体】 ドラゴンは変異する生き物であり、通常は神々の姿を模した人間体をしている。トカゲの身体、偶蹄類の角、蝙蝠の翼など、一般的なドラゴンの姿は竜体と呼ばれ区別される。竜体は紳士ならば秘めるべき姿とされ、本当に信頼した人の前か、錯乱した状態でしか見ることができない
2016-04-17 15:28:07