ローガンダルレンの友達#2 魔竜への手紙◆3(終)
_ローガンダルレンは、一人沢に降りて両足を冷やしていた。ピンクのスーツは傍に脱ぎ捨てた。視界の全てが死にゆくのが分かる。1000年移動しなかったのはこのためだ。一人の命と引き換えに、物言わぬ無数の命が消し飛ばされていく。 彼はため息をついた。 51
2016-04-18 17:19:23_また霧が濃くなってきた。高山特有の低木が目の前にいくつか茂っていたが、今ではそのすべてが葉を落として枯れている。 「また、ダメだったよ。せっかく僕を受け入れてくれる人を見つけたのに」 沢の魚が目の前で死んで浮き上がり、瞬時に白骨化して、塵に消えた。 52
2016-04-18 17:25:16(もう誰も僕の傍にいてくれない。僕は永久にひとりぼっちだ) ぽろぽろと涙がこぼれてくる。沢に生えた緑の美しい苔は、一瞬にして茶色に枯れ、塵となって殺風景な赤茶けた岩だらけになった。 美しい景色が、見慣れた醜悪な世界へと変わっていく。 53
2016-04-18 17:30:45_ローガンダルレンは両手で沢の水をすくい、顔を洗った。そして揺れる水面を見下ろす。映るのは、波でしわくちゃになった自分の顔。 それとも、本当にしわくちゃの泣き顔なのだろうか。世界を滅ぼせる魔竜が、それと比べるとあまりにも小さいことで苦しんでいる。 54
2016-04-18 17:36:30(小さいだろうか……いや、世界がどうなるなんてことこそ、小さい問題じゃないか。僕の人生の主役は、僕以外にいない。僕の人生を占める僕の苦しみこそ、僕にとっては一番大きな問題じゃないか) 55
2016-04-18 17:51:06_人間体の身体を、ゆっくりと巨大な竜体へと変異させる。その身体は沢を埋め尽くし、腹部の肌を濡らした。 (もう、僕は一人なんだ。もう人を愛することはできないだろう。僕にはそんな権利なんてない……じゃあ、僕はこの先どうやって生きればいいのさ) 56
2016-04-18 18:17:40_そして、長い胴をくねらせてゆっくりと上空へと舞い上がった。重たい霧を纏い、魔竜は自分の住処へと戻る。竜の国の娘は、退避しただろうか。4時間は遠くにいたので、きっともう帰っているだろう。 洞窟に戻り、辺りを見渡す。どこにも人影は無かった。 57
2016-04-18 18:22:13_娘は生きて帰れたらしい。それだけが救いだった。人間体に戻り、狭い洞窟へと潜っていく。魔竜は、洞窟の砂地の地面に手紙が残されていることに気付く。差出人はもちろん、竜の国の娘だろう。 ゆっくりと震える指先で手紙を開く。 58
2016-04-18 18:26:19「あなたと友達になるのは難しいけど、私は難しいからって諦めたりしないよ」 それだけが書いてあった。まるで自分の心を貫かれた気がして、魔竜はゆっくりと膝をついて手紙を抱きしめた。 (難しいからって、僕は諦めていたんだ) 59
2016-04-18 18:31:27(永遠に無理だと、諦めていた……実際にはただ、果てしなく難しいだけなんだ) 以降、竜の国からエルヴィが帰ってくることは無かった。防護服の性能を向上させることができなかったのかもしれない。それでも、魔竜は心に希望を抱いていた。 手紙がある限り、希望はあるのだから。 60
2016-04-18 18:38:30【用語解説】 【竜の国】 竜が主権を持つ国家であるが、一つの国を指すわけではなく、ドラゴン民族を中心とした連合国である。大陸中央部、竜芽山脈と赤銅山脈の間にある峡谷に存在する国家群。立地条件から積極的に外交せず、中立を保っている。竜の皇帝が6人存在しており、赤竜皇が頂点に立つ
2016-04-18 18:48:51【次回予告】 長距離列車の食堂車で、窃盗事件発生! 犯人は誰だ! そこに現れたコートの女性。彼女は自らを探偵と名乗り、事件解決へ向けて動き出す! のはずが、その推理はどう見てもポンコツで…… 次回「事件解決はワインを飲んでからでも遅くない」 全100ツイート予定 #減衰世界
2016-04-18 18:56:52