魔術書『聖キプリアンの書』と聖人キュプリアヌスの伝説

魔術師ながらキリスト教徒の娘ユスティナに恋し、悪魔たちの手を借り、自身も魔術を駆使して彼女を自分のものしようと企むも失敗、その体験を経て最終的にキリスト教に改宗し殉教したと伝わる聖人キュプリアヌス。 そんな「元魔術師の聖人」像が、やがて「魔術を行う人々の守護者」像へと変じる不思議。
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当初、このまとめにはラテン語で著述したカルタゴ出身の教父キプリアヌスについてのツイートも含んでおり、最初の【キプリアヌスとはどういう人物か】という節で紹介していましたが……

CMTC @MontyGlycon0

あれ?ユスティナの伝説に登場するキュプリアヌスとラテン教父キプリアヌスって別人じゃね?黄金伝説によると前者のキュプリアヌスはディオクレティアヌス帝の時代、紀元280年に殉教。ラテン教父キプリアヌスはウァレリアヌス帝の時代、紀元258年に殉教。……やってしまいましたなあ

2016-04-22 16:14:27
CMTC @MontyGlycon0

殉教した場所も、教父キプリアヌスは北アフリカのカルタゴで、元魔術師キュプリアヌスは現トルコのニコメディア。en.wikipedia.org/wiki/Cyprian en.wikipedia.org/wiki/Cyprian_a… 完全に別人だ。

2016-04-22 16:29:44
CMTC @MontyGlycon0

「カルタゴのラテン教父キプリアヌスの思想」をトゥギャりました。 togetter.com/li/965833

2016-04-22 16:45:18

後で別人であることに気づいたので分割しました。

【キプリアヌスに帰せられたグリモワール】

にゃる@ネクロマンティック @nyarl_nyarl

『The Book of St. Cyprian: The Sorcerer’s Treasure』(José Leitão)聖キプリアンの書というイベリア半島系グリモアの翻訳・解説(522p!)だが、序文から面白過ぎてヤバイ。 hadeanpress.com/2014/05/the-bo…

2014-11-13 00:18:49
にゃる@ネクロマンティック @nyarl_nyarl

聖キプリアンの書はブラジルのアフリカ伝統宗教の実践に組み込まれた、今現在生きているグリモアで、内容は聖人と悪魔に満ちた呪術伝承がてんこ盛り。まあ高等な魔術が好きな人から俗悪と罵られるタイプである。が、ここにはウイッカ側からは語られないようなウィッチクラフト伝統が詰め込まれている。

2014-11-13 00:26:14
にゃる@ネクロマンティック @nyarl_nyarl

アンティオキアの聖キプリアンはソロモン王のような元型的モデル。元は大魔術師として名を馳せたが、キリスト教徒の娘ユリアナを魔術で誘惑したが失敗し敗北。キリスト教に入信し、後に殉教して聖人になった、という。そして魔女や呪術師から守護者、パワーソースとして今なお信仰されている。

2014-11-13 00:34:00
にゃる@ネクロマンティック @nyarl_nyarl

聖キプリアンの書はこの聖人伝説に基づくわりと新しめのグリモアだが、版が無数にあり、大まかな二つの流れ以外に一致するものがない。そこで完全なオリジナルやより劣化の少ない版を探すのが普通だが、著者が言うには、「そんなものはない。」ここからがこのグリモアのヤバイところ。

2014-11-13 00:38:47
にゃる@ネクロマンティック @nyarl_nyarl

聖キプリアンの書は、その時代や場所ごとに新たな内容を加えては新しく生成され続けているのだ。民間の呪術伝承が書に結晶し、それが実践の場に影響を与え、再び新たなグリモアが聖キプリアンの伝説を核に生まれ市場に出回る。しかも自らを聖人自身のオリジナルの劣化版として不完全であり続けている。

2014-11-13 00:45:29
にゃる@ネクロマンティック @nyarl_nyarl

つまり、聖キプリアンの書というグリモアを生成し実践し続けることで流れを保ち続ける呪術伝統があるということ。この都市伝説めいたカルトはイベリア半島を飛び出してブラジルにも根を伸ばし、今現在キンバンダの中で盛んに実践されている。俺の買ったこの本自体が、この流れの一部なのだ。

2014-11-13 00:50:48
にゃる@ネクロマンティック @nyarl_nyarl

で中身の呪術だが、ポルトガルの歴史の暗黒面が見え隠れするうえ、俗悪と言われるタイプのグリモアの背後に潜んでいるものがうっすらと見えてくる。簡単に言えば、「ハイチでヴードゥーが生まれたように、欧州本土でも"ヴードゥー"が生まれていた。」悪魔にまつわるあれこれである。

2014-11-13 01:00:40
にゃる@ネクロマンティック @nyarl_nyarl

ポルトガルでは異端審問が15世紀に始まったのだが、この主な標的は何よりまずユダヤ人だった。告発された人々のうち、非ユダヤ人はわずか1割。土俗信仰の実践者たちは、単に悪魔に唆され神の教えから逸脱した者として、ユダヤ人の人の盾で放置されていた。つまり魔女は生き続けていた。

2014-11-13 01:09:17
にゃる@ネクロマンティック @nyarl_nyarl

このポルトガルの"魔女"たちはギリギリ生き延びられる中で強くキリスト教化していった。民衆は「魔女が良い事をしたなら神様と教会のおかげ」、魔女は「私は良い事をしたのだから善良なキリスト教徒」というフィードバックが働き、神や精霊たちが聖人に置き換えられた。これが第一の流れとなる。

2014-11-13 01:21:39
にゃる@ネクロマンティック @nyarl_nyarl

一方、18世紀の異端審問の記録に、リスボンでアフリカ/アフリカ人の魔術が行われたという記録があるそうだ。ポルトガルは奴隷貿易大国で、相当数の黒人が実は本国にも連れ込まれ、混血も生まれていたし、自由身分の者もいたらしい。彼らは自らの信仰を実践し、当然ながら教会はそれを悪魔と呼んだ。

2014-11-13 01:26:35
にゃる@ネクロマンティック @nyarl_nyarl

黒人たちは衝撃を受け、自分たちの神々や精霊はキリスト教の悪魔なのだと受け入れてしまったらしい。それでも異端審問はユダヤ人に集中し、彼らは自らの信仰をガワを変え密かに続けた。こうして第二の流れ、つまりポルトガル本国で行われる悪魔崇拝(という名のアフリカ人の信仰・呪術)が生まれた。

2014-11-13 01:32:14
にゃる@ネクロマンティック @nyarl_nyarl

この白人魔女たちの聖人呪術と黒人の悪魔崇拝が、ギリギリセーフな異端審問の圧力を受けつつキリスト教のフレームの中で融合したのが、聖キプリアンの書に集められた奇怪な呪術だという。かつて悪魔崇拝はほぼ皆無だったが、ある時期から急増し、魔女絡みで頻繁に現れるようになったのが示唆的である。

2014-11-13 01:39:08
にゃる@ネクロマンティック @nyarl_nyarl

序文に書かれているのはこのへんなんだけど、イベリア半島特有の事情がとても興味深い。著者は、「グリモアが海を渡ってアフリカ伝統宗教に辿り着いたのではなく、アフリカ伝統宗教が大西洋を越えてグリモアに辿り着いたのだ」と書いている。

2014-11-13 01:43:58
にゃる@ネクロマンティック @nyarl_nyarl

『Pacts with the Devil』でハイアットは、いわゆる悪魔的なグリモアは、18世紀頃ハイチなどでフランス人が黒人から呪術を学んで本国に持ち帰り、憑依要素を無くして作り変えたもの、という仮説をあげていた。Leitaoの説は、イベリア半島内で同じことが起きた可能性を→

2014-11-13 01:53:05
にゃる@ネクロマンティック @nyarl_nyarl

→示すと同時に、悪魔や悪魔との契約というモチーフの持つ歴史的な要素を…少なくとも、教会の作り上げた妄想、で片付けられるようなものではないことも示している。

2014-11-13 01:56:45
にゃる@ネクロマンティック @nyarl_nyarl

というようなネクロマンティックな話が、冒頭わずか20pくらい、しかもまだ本文にさえ入っていない特濃っぷり。あと500pもある!

2014-11-13 02:03:57
にゃる@ネクロマンティック @nyarl_nyarl

少し調べようとググっても、とりあえず日本語では、ルネサンス期の在欧黒人はおろか在欧黒人の記事さえ全然見つからないのな。アメリカの話しかねえ!

2014-11-13 02:08:07
@momokanazawa @momokanazawa

18世紀の魔術書の一葉。『黒の書』は聖キプリアヌスによって書かれたとされていたらしい。ウェルカム財団の画像データから。wellcomeimages.org/indexplus/resu…. pic.twitter.com/5GV1Mg7dQH

2015-01-26 08:21:16
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西洋魔術博物館 @MuseeMagica

@momokanazawa @JAGD_owner 聖人になるまえのキプリアヌスが書いた、という設定なんでしょうね。乙女ユスティナに振られまくった頃の^^

2015-01-26 09:00:08