Tristan Tristanさんの司法・権力・メディア・名誉棄損

大相撲八百長問題-かつて週刊誌が報じたものの、名誉棄損訴訟で敗れ、裁判所からは高額賠償を命じられました。今、この機会にどう考えるべきでしょうか?
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丹治吉順 a.k.a.朝P, Tanji Yoshinobu @tanji_y

大相撲の八百長自体には個人的関心はほぼゼロなのだが、司法とメディアという視点からすると問題が凝縮されすぎるくらいされていて、空恐ろしいほど。名誉毀損法制は、権力がメディアを縛り付ける最強の武器で、これによってメディアは(多分に自業自得の面があるとは言え)分断され、力を失ってきた。

2011-02-04 01:19:07
丹治吉順 a.k.a.朝P, Tanji Yoshinobu @tanji_y

名誉毀損裁判の判決文を読むと、言葉の取材だけによる論証には、裁判所が真実性(及び真実相当性)をほとんど認めない傾向が読み取れる。週刊現代による大相撲八百長報道も、北海道新聞取材班による道警裏金事件告発本などがそう。今回、八百長が認められたのはメールという「物証」があったから。

2011-02-04 01:32:00
丹治吉順 a.k.a.朝P, Tanji Yoshinobu @tanji_y

物証がない場合の立証は、基本的に言葉のやりとりでするしかない。何人にも取材して証言(法律的な意味ではない)を集め、矛盾や食い違いがないことを確認して記事にしていく。だが報道する側にとって、取材源の秘匿のため、「証言者を法廷に連れてこられない」という致命的弱点が往々にしてある。

2011-02-04 01:38:21
丹治吉順 a.k.a.朝P, Tanji Yoshinobu @tanji_y

加えて、証言(法律的な意味ではない)による論証は、複数の証言者の発言が本筋の部分では一致していても、細部が必ずしも一致しないことがある。そこを執拗に突くことで、信用性を揺るがせることが可能になる。

2011-02-04 01:42:17
丹治吉順 a.k.a.朝P, Tanji Yoshinobu @tanji_y

一方で裁判所は、警察や検察による捜査資料であれば、一転して高く信用する傾向があるようだ。最近だと、フリーランスジャーナリスト西岡研介氏のいわゆる「マングローブ裁判」1審で、捜査当局から入手した資料を基に書いた部分は真実相当性が認められ、独自取材による部分は認められなかった。

2011-02-04 01:48:48
丹治吉順 a.k.a.朝P, Tanji Yoshinobu @tanji_y

つまり、名誉毀損裁判を起こされる可能性の高い裁判では、決定的物証をつかむか、捜査当局の資料を握るかの二つのどちらかがなければ、負ける可能性が高い。これが今、日本のメディアが立たされた基本的な状況といえる。

2011-02-04 01:52:22
丹治吉順 a.k.a.朝P, Tanji Yoshinobu @tanji_y

大阪地検特捜部のFD偽造事件では、偽造されたFDの現物と偽造を証明する専門機関の鑑定書、同じく大阪地検の知的障害者への誘導的な取り調べはその模様を映したビデオ、鹿児島の志布志選挙違反偽造事件では警察官自身の記した捜査資料そのもの--これらは「物証」が支えたスクープだった。

2011-02-04 01:59:05
丹治吉順 a.k.a.朝P, Tanji Yoshinobu @tanji_y

だがそんな決定的な物証など、そういつも入手できるわけではない。それでも捜査当局の資料があれば、裁判で勝てる可能性は高い。それがなければ、裁判で不利になるのを承知で「証言のみ」の論証に踏み切るかの決断を迫られる。

2011-02-04 02:05:39
丹治吉順 a.k.a.朝P, Tanji Yoshinobu @tanji_y

見たところ、新聞は前者にとどまる傾向が強く、雑誌は後者に踏み切ってきた。例えば争点が五つあるうち四つで勝っても、一つ負ければ「敗訴」の扱いをされる。しかも名誉毀損の免責には各争点ごとに公共性・公益性・真実相当性などを立証しなければならない。一つ落とせば敗訴で、かなり分が悪い。

2011-02-04 02:10:24
丹治吉順 a.k.a.朝P, Tanji Yoshinobu @tanji_y

新聞は売れ行きよりも「評判」を気にする傾向が強いので、こうした分の悪い裁判に持ち込まれることを雑誌よりもずっと警戒するのだろうと思う。一方、雑誌は逆に、少々の賠償金を取られてもそれ以上に売れればOKという姿勢が強かったように思う(いずれも自分が当事者になったことがないので推測)。

2011-02-04 02:13:47
丹治吉順 a.k.a.朝P, Tanji Yoshinobu @tanji_y

そのようにいわば「敗訴覚悟」で踏み込む雑誌に大きな打撃を与えたのが、賠償金額の高騰。自民党の検討会が1999年に賠償金の見直しを提言し、その少し後に裁判所の研究会も賠償金の高額化に向けた基準見直し案を報告している。これが判決に反映されてきた。

2011-02-04 02:30:36
丹治吉順 a.k.a.朝P, Tanji Yoshinobu @tanji_y

実際、報道側の隙は非常に大きかったし、多大な報道被害を生んできた。芸能人やスポーツ選手などの私生活には公益性はほとんどと言っていいほどないのに、それを大々的に報じることで売り上げを伸ばし、雀の涙ほどの賠償金で逃れてきたやり方への反動だった。

2011-02-04 02:32:59
丹治吉順 a.k.a.朝P, Tanji Yoshinobu @tanji_y

そして実際、記事の内容の論証・立証が非常に弱かったこともあり、このあと特に雑誌のスキャンダル記事は、名誉毀損訴訟で次々と敗訴を重ねる。大相撲八百長事件の裁判も、その流れの上に位置づけられてしまった。

2011-02-04 02:37:15
丹治吉順 a.k.a.朝P, Tanji Yoshinobu @tanji_y

自分は芸能人やスポーツ選手の私生活報道をげんなりしながら見ていた。正直に告白すると、清原選手報道で週刊誌が裁判で大敗したとき、いい薬だと思った。その感情が間違いとは思わないが、そこにある新聞と雑誌の分断の誘導には気づかなかった。

2011-02-04 02:43:40
丹治吉順 a.k.a.朝P, Tanji Yoshinobu @tanji_y

このように「政治の意向」「裁判所の姿勢」「新聞と雑誌の食い違いと反発」という条件の上で、「決定的物証」か「捜査当局の資料」がなければ、報道側が大きなダメージを受けやすい状況が作られてきた。それが名誉毀損を巡る司法とメディアの現状で、今回の八百長事件はその象徴に思える。

2011-02-04 02:47:55
丹治吉順 a.k.a.朝P, Tanji Yoshinobu @tanji_y

さて、状況分析はこんな感じ。で、どうするか。そこからが無力感。妙案が浮かばない。う~む。

2011-02-04 02:50:13
丹治吉順 a.k.a.朝P, Tanji Yoshinobu @tanji_y

まあとにかく名誉毀損裁判はキツイよ。ネットの書き込みもメディアと同等の基準が適用されるという最高裁判決が下ってしまったので、あらゆる人に適用される……そのあたりから糸口を考えていった方がいいのかな?

2011-02-04 03:09:38