仁平典宏(Nihei Norihiro) さんのボランティア批判についてのもやもや(20160424)

省略
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仁平典宏(Nihei Norihiro) @nihenori

1:芸能人の募金に対する「偽善」「売名」という批判や、様々なレベル(玉石混交)のボランティア批判を目にして、もやもやするので、自分用に整理したいと思います。 今回は一般論で、公共性はあまりないので、夜中に連投します。 起きていた人はすみません。。

2016-04-24 04:01:22
仁平典宏(Nihei Norihiro) @nihenori

2:まず頭に浮かんだのが映画評論家の佐藤忠男の言。「日本にとっては、隣人愛というものは最も表現しにくい思想の一つなのではあるまいか。白樺派、赤い羽根、救世軍etc真顔で隣人愛を語る奴は、よほどお人好しか偽善者に違いない、というのがむしろ庶民の一般的なイメージだ」 1962年の文章

2016-04-24 04:02:19
仁平典宏(Nihei Norihiro) @nihenori

3:だから助け合いを表現するためには「よほどセンチメンタルなオーバーな身ぶりをともなうか、あるいは、よほど道化した身ぶりをともなうかしなければならぬというきまりがある」(佐藤忠男『斬られ方の美学』1962年) 今はこれに、やるなら純度100%の善をやれよという恫喝が加わります。

2016-04-24 04:03:17
仁平典宏(Nihei Norihiro) @nihenori

4:勝手に「純度100%の善をやれ」とハードルが設定され、勝手に不徹底とかリターン目的とか認定され、2倍返しで叩かれる。 なんという無理ゲーと言えなくもない。

2016-04-24 04:03:50
仁平典宏(Nihei Norihiro) @nihenori

5:日本特有かどうかはともかく、慈善/奉仕/ボランティア界隈を取り巻く言説の近現代史を見て思うのは、この手の偽善批判でよく盛り上がることでした。

2016-04-24 04:04:16
仁平典宏(Nihei Norihiro) @nihenori

6:例えば、明治のノルマントン号事件に対する義捐金にも、偽善という批判があった。北村透谷なんかもディスってる。(北村透谷「慈善事業の進歩を望む」1894年)

2016-04-24 04:04:33
仁平典宏(Nihei Norihiro) @nihenori

7:今だったら、透谷のブログ炎上待ったなし。 一方「北村先生ぐう正論wwwwwwww」といった支持する書き込みも多数で、コメント欄は荒れていたと思われる。

2016-04-24 04:04:57
仁平典宏(Nihei Norihiro) @nihenori

8:社会問題に対して多数の無関心と一部の活動者。 有事の際には、その周りに「ボランティアやらずんぱ人にあらず」の空気と、それに対する偽善狩りの祭りの空気が生まれる。 この2つの空気がとにかく饒舌で、社会を強張らせてく。これが近現代日本の「ボランティア」言説の基本形です。

2016-04-24 04:05:55
仁平典宏(Nihei Norihiro) @nihenori

9:そんなわけなので、偽善批判の欲望ってカッコいいどころか、この領域の言説のデフォルト値で凡庸とも言える。 もちろん、負の帰結を生んでる活動に対しては適切な批判が必要でしょう。ただし、活動に専門知と経験が必要なのと同様、的確な批判にも知識と経験が必要。

2016-04-24 04:06:24
仁平典宏(Nihei Norihiro) @nihenori

10:例えば、「個人情報の収集をしている団体がいる!」ケース。 ↑これは、うん、叩いていい!と思われがちである。 確かに、9割方問題ありそう。 でも考慮すべき文脈・条件もある。

2016-04-24 04:07:04
仁平典宏(Nihei Norihiro) @nihenori

11:例えば被災障害者について。 東日本大震災で、亡くなった障害者の比率は住民全体の比率の2倍と言われている(NHK調査)。災害時要援護者としてリスクが集中し、緊急避難時においても特別なニーズに対応しなくてはならない。

2016-04-24 04:07:30
仁平典宏(Nihei Norihiro) @nihenori

12:ところが、311で生じたのは、障害者かどこに住んでいるか分からず、安否が把握できない問題でした。 行政には情報がある。でも大混乱の中で障害者対応が十分できない。 一方、専門性の高いNPO・NGOは対応できるが、情報がない。

2016-04-24 04:08:06
仁平典宏(Nihei Norihiro) @nihenori

13:支援団体は行政に名簿の提供を求めたが、大半は断わられました。 ただ南相馬市と陸前高田市は市長の判断で名簿を提供。 障害当事者&支援者団体のネットワークのJDF(日本障害フォーラム)は、それを元に、自宅や避難所で安否確認やニーズ調査を行い、必要な物資を届けることができた。

2016-04-24 04:09:00
仁平典宏(Nihei Norihiro) @nihenori

14:それを踏まえJDFは、2012年に、災害時に障害者の情報を支援団体とも共有するよう要望書を出しています。 「東日本大震災を経験して、国に対する提案・要望」dinf.ne.jp/doc/JDF/demand…

2016-04-24 04:10:19
仁平典宏(Nihei Norihiro) @nihenori

15:被災者情報に関しては、例えばこのような経験と議論の蓄積があり、批判の際にはそれらも踏まえる必要がある。

2016-04-24 04:10:43
仁平典宏(Nihei Norihiro) @nihenori

16:著名人の募金や支援団体がSNSでの活動報告に対して、自己満足とか売名行為という批判を見かけます。 そこに明確な負の帰結が生んでるなら問題ですが、そうでないなら別によい。 自己満足という批判は、往々にして、「純度100%の善をやれ」と「惻隠の情」のコンボで成り立ってます。

2016-04-24 04:11:29
仁平典宏(Nihei Norihiro) @nihenori

17:「惻隠の情」は「善行は他人に知られないようにやってこそ本物」というやつですね。 この説も明治時代に流行ってました。

2016-04-24 04:11:53
仁平典宏(Nihei Norihiro) @nihenori

18:でもそれだと寄付が増えないんですね。 確かに他者のため、社会のため、理念のためだけで、とことん動ける人はいる。 でも多くの場合、誰かに認めてもらいたいという承認欲求や宣伝効果等のリターンが、インセンティブとなります。にんげんだもの。 当然それは呼び水効果も持つ。

2016-04-24 04:12:24
仁平典宏(Nihei Norihiro) @nihenori

19:純粋贈与でなく贈与交換となったとき、システムは継続的に回り出します。

2016-04-24 04:12:44
仁平典宏(Nihei Norihiro) @nihenori

20:これが確認されたのは、日本では大正時代でした。 社会事業を活性化させるために、精神論でなく、寄付者や社会奉仕者のリターンも重視して合理的に回そうという大正的言説。 主導したのは、主に社会起業家の走りのような人たちと内務省社会局の開明官僚。

2016-04-24 04:13:33
仁平典宏(Nihei Norihiro) @nihenori

21:もっとも、国の社会政策が抑制的な中で、民間の社会事業だけでできたことは、自ずと限られていましたが・・・。 (生の保障に関して、制度的権力が決定的な要因というのは、今も昔も大前提です。ボランティアで再分配の問題は解決しません)

2016-04-24 04:14:00
仁平典宏(Nihei Norihiro) @nihenori

22:いずれにせよ、明治~大正の経験が教えるのは、「純度100%の善」や「惻隠の情」の強調はハードルを上げるだけで、中長期的に見ると、寄付や支援活動を抑えるということです。 動機の純粋さばかりを求めると、残念な帰結になりかねない。

2016-04-24 04:14:31
仁平典宏(Nihei Norihiro) @nihenori

23:支援団体の活動の発信については、むしろやるべき。 情報提供・啓発という意義に加え、特に寄付や助成金を得てる場合は活動の説明責任も生じる。 NPO法以降の非営利団体の法制度では、官僚統制に代えて、社会が評価することが基本。 そこで開示は重要であり、「惻隠の情」は逆行してます。

2016-04-24 04:15:11
仁平典宏(Nihei Norihiro) @nihenori

24:もちろんリターン追求のあまり、本来の活動に支障をきたしたら、本末転倒というのは言うまでもありません。 福祉国家の再編や準市場の発達の中で、助成金や寄付金の獲得競争に追い込まれて、NPOが企業のようになって活動が変質するというのは、内外のNPO論の大きなテーマです。

2016-04-24 04:15:36
仁平典宏(Nihei Norihiro) @nihenori

25:もっともその研究には、活動がダメになる説、良くなる説、変わらない説などいろいろあり、一概に言えないようですが…。 (これについては、次の論文(F.Maier他)が、多くの経験的研究の知見を整理しており、大変便利です。)

2016-04-24 04:17:39