『不止鉄道 之 夢』【夢の話３４】

天晶 @tensyou99

自分は登山鉄道に乗っていた。 運転手とほんの少し見知った関係であるらしく、自分は運転席の隣に座っている。現代じみているとは到底言いづらい、よく言えばレトロな雰囲気が漂っている運転席であった。立って運転するタイプではなく、座って運転するタイプだ。 #夢の話

天晶 @tensyou99

やはり、運転席からの光景は中々のものがあるな、とぼんやりと思いながら電車に揺られていると、あるトンネルにさしかかる。 トンネルは２車線のタイプであり、煉瓦造りの様な随分と広いトンネルだった。 #夢の話

天晶 @tensyou99

この鉄道に何本か存在するトンネルは、その美しい景観や構造から映画やドラマの撮影に使われることが多く、その作品の空気に触れようする人や観光客などがしばしば訪れる、いわゆる観光スポットという場所であった。 #夢の話

天晶 @tensyou99

ふと、前を見ると３台の自転車がトンネル内を走っていた。 もちろん、常識的にも法律的にも走行が許可されている場所ではない。青ざめる自分の横で自転車の姿を認めた運転手が、目にも留まらぬ早さでレバーやスイッチを操作する。 #夢の話

天晶 @tensyou99

どういった意図でトンネル内を走っているのかさっぱ知らないが自転車に乗っている人々は全く焦る様子も速度を上げる様子も無い。まずこちらの方を一切振り向かない。 #夢の話

天晶 @tensyou99

あと、自転車まで少し。このままではどう見てもスプラッターな展開まっしぐらだ。その時、がこんっと激しい衝撃を受け、自分はあわてて座席のアームにしがみつく。 前に視線を向ければ、電車がレールを外れて曲がり、３台の自転車を避けていた。 #夢の話

天晶 @tensyou99

電車は止まらず走行を続ける。なおもレバーやスイッチを動かしたり上げ下げしている運転手の横で、自分は当たり前のことに気がつく。 これって、いわゆる脱線ってやつだよな？ #夢の話

天晶 @tensyou99

それに気がついたところで自分が何を出来るわけでもなく、再び前に視線を戻すと今度は２台、自転車がトンネル内を走行しているのを発見する。 ま・た・か！と心の中で突っ込みを入れながら頭を抱える自分を余所に、隣に座る運転手は冷静に電車を操作して、２台の自転車を見事に避けて通った。#夢の話

天晶 @tensyou99

ちなみにこの間、前述したとおり電車は脱線している状態である。轢石の上を直に走っているせいで上下の揺れがハンパなく、自分は座席から落ちないようにしがみついているだけで精一杯であった。 #夢の話

天晶 @tensyou99

というか、やばいだろこの状況、車内放送とかしなくていいのか。そんなことをツラツラと考えるが、運転手とそこまで仲が良いわけでもないらしく、自分は口を出すことが出来ない。 #夢の話

天晶 @tensyou99

車体が激しく揺れる中ついに、行き止まりが見えてきた。薄暗いせいでよく見えないが違和感を感じているらしい人々がホームで首を傾げている。そして、終点のレール上には大量の木箱が積み上げられており、それと同じ様な木材ので出来た合板のようなものがその先にある壁一面に貼られている。 #夢の話

天晶 @tensyou99

電車のスピードが下がらない上に、ブレーキをかけている様子もない。どうやらこの車両は、レールと車輪の間に何か備え付けの車輪止めのようなものを噛ませてスピードを下げるという構造のようだ。 つまり、脱線が解消しない限り、この電車が止まるのは衝突か横転の際だけということである。 #夢の話

天晶 @tensyou99

ホームで首を傾げている人々の表情が鮮明になってくる。事態をいち早く察した数名が、ホームから逃げ始めていた。自分も逃げたい。 というかこれ珍しく死にそうだな、もうそろそろ流石に車内放送とかした方が良くないか。とか思っている間に、脱線車両が客の右往左往しているホームに入る。#夢の話

天晶 @tensyou99

同時に以前に感じような、がこんっという激しい縦揺れに襲われた。どうやらやっとレールに車輪がはまったらしい。 つまり、これでブレーキがかかる条件が揃った。 ひときわ素早く運転手の手が動き、今までとは違う方向にGがかかる。 #夢の話

天晶 @tensyou99

耳をツンザくような金切り音が鳴り響き、スピートが目に見えて落ちる。が、まだ止まらない。 積み上げられた木箱と電車との距離があっという間に無くなっていく。 電車ってエアバックとか搭載されてないよな。電車事故の時、白いものとか見えないしな、ってことは無いのか。まあ、無いよな。#夢の話

天晶 @tensyou99

とか考えながらおざなり程度に設置されているシートベルトがきちんと締まっているかを確認して、足を衝突の勢いで挟まないように座席の上に胡座をかき、頭の後ろに両手を置いて固定をする。 #夢の話

天晶 @tensyou99

こういう時の耐ショック体制ってこんな感じで良かっただろうか。と迫る木箱と壁に目を細めながら体制を整える。もう、木箱と壁はすぐそこだ。 と、運転手が初めてマイクを手に取った。 焦った雰囲気をみじんも出さず、通常業務のように淡々と運転手はマイクに向かって告げる。 #夢の話

天晶 @tensyou99

多少揺れますのでご注意ください。 破砕音を上げながら車両は積んである木箱をはね飛ばし、勢いをそのままに轟音と共に壁へと突っ込んだ。 そして、突き抜けた。 壁の向こうへと伸びていたレールが、下げたブレーキと共に車両を進ませまいと金切り音を上げ続ける。 #夢の話

天晶 @tensyou99

切れて処理を施されたレールの端と、行き止まりの標識と、その先にある煉瓦づくりの壁が目に入る。 本当の、終点だ。 さて、どうなるか。 自分は耐ショック体制を解いて足と姿勢を崩すと隣の運転手と共に、先ほどと同じ勢いで衝突すれば確実に命がないであろう壁を、見据える。 #夢の話

天晶 @tensyou99

木の壁を突き破ったせいで殺がれたスピードが更に落ちていき、頭痛を引き起こすかのような響きの金切り音が断末魔となって、消えていった。 いつの間にか止めていた息を一気に吐く。自分の目の前には煉瓦作りの壁があった。おそらく運転席のフロントガラスと十数センチも離れていないだろう。#夢の話

天晶 @tensyou99

運転手は既にシートベルトを外しにかかっている。自分もシートベルトを外して、車両の外へと出た。 どうやらここは、船舶で言うところのドックの様な場所のようだ。周りに放置されている工具や資材から車両のメンテナンスや生産を行っていたであろうことが伺える。 #夢の話

天晶 @tensyou99

使われなくなったそこに通じる穴を木の板でふさぎ、わかりやすいように木箱をその前に積んでおいたらしい。 非常脱出レバーでドアを開けた乗客たちが、わらわらと車両から出てくる。幸い、目立った外傷を負った客は見あたらない。 #夢の話

天晶 @tensyou99

運転手が携帯を耳から外す。いつの間にか通話をしていたらしい。話からすると、どうやらこの騒動の原因となった５人の身元が割れたようだ。異常に早いと感じるのは気のせいではないだろう。 …では、どうしてやりましょうか？運転手がいたずらっぽく、自分に訊ねる。 #夢の話

天晶 @tensyou99

で、終了。流石に今回は死ぬと思った。 あと、きっと運転手は腹黒。 #夢の話