招くもの、来たるもの

竹村京さん(@kyou_takemura)の書いてくださった、落ちぬい二次です! 今回はちょっぴりホラーテイストなお話。 暖かくなってきた今日この頃にひやっとする何かをどうぞおたのしみください! 続きを読む
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はじめに

竹村京 @kyou_takemura

#落ちぬい二次 、はじまります。本作は #不知火に落ち度はない の二次創作であり、オフィシャルではありません。意見、指摘などは #落ちぬい タグにお願いします。

2016-04-28 20:38:16

本編

竹村京 @kyou_takemura

ミサイル護衛艦こんごうDDG-173。海上自衛隊最新にして最強のイージス艦に乗り組むのはあらゆる艦乗りの最高の栄誉である。専守防衛の考えから原型にあったトマホーク巡航ミサイルの運用能力はオミットされているが、防空・対潜能力は世界トップクラスを誇る。#落ちぬい二次

2016-04-28 20:40:41
竹村京 @kyou_takemura

原型にはない旗艦機能を追加されているため艦隊指揮能力はより高く、その重要性と国防における大きな期待から海自DDGにおいて初めて、そして先の大戦で最も活躍したと評される戦艦と同じ艦名を与えられた護衛艦である。#落ちぬい二次

2016-04-28 20:42:24
竹村京 @kyou_takemura

とはいえ、それも今は航海を終えて横須賀の桟橋に停泊しており、乗員たちも半舷上陸を許されている。一時帰宅する者、街に遊びに行く者と様々だが、艦に残った者たちの多くは面白い騒ぎを見物するために上甲板に集まっていた。#落ちぬい二次

2016-04-28 20:43:49
竹村京 @kyou_takemura

日差しが強く、海面の照り返しで両面焼きの暑さの中で、桟橋の先端では二艘の短艇が舳先を並べている。桟橋の根元では二人の若者が威勢よく罵り合っている。#落ちぬい二次

2016-04-28 20:45:41
竹村京 @kyou_takemura

「ぜってー勝つ!長瀬には負けねえぞ!」 「ガキみてえなツラしてる砲術士なんかに負けたら水雷屋の名折れだぞ!」 同じ1分隊でつるむことが多いが、それ以上に張り合う事の方が多いのがこの二人、砲雷科の兵頭と水雷科の長瀬である。#落ちぬい二次

2016-04-28 20:47:27
竹村京 @kyou_takemura

些細な口論から喧嘩になりかけていたところを副長に一喝され、艦長の『艦乗りなら艦乗りのやり方で決着を付けろ』という面白半分の鶴の一声で短艇競争による決着と相成ったのである。#落ちぬい二次

2016-04-28 20:48:36
竹村京 @kyou_takemura

ちなみに、両名ともこの原因となった事はもう覚えていない。それよりも負けた方が勝った方に航海中毎日アイスを奢り続けるという副賞の方が重要で、二人の周りにはそれ目当ての便乗者が大勢いる。大まかに砲雷科と水雷科で別れているが、それぞれ他の部署の者も混じっている。#落ちぬい二次

2016-04-28 20:50:11
竹村京 @kyou_takemura

彼らの子供っぽい負けん気が便乗者たちにも伝染し、正規の訓練でもないのに参加者からは熱気が立ち上っていた。今回の競争はあくまで遊びなので、予告なしに始められる訓練である総短艇とは違い単純に沖合に設定されたゴールまでの競争だ。#落ちぬい二次

2016-04-28 20:52:40
竹村京 @kyou_takemura

準備が整った事を確認し、夏目艦長の号砲が鳴る。 男どもが一斉にダビットに吊るされた短艇に走る。足の速さは互角で、ほぼ同時に短艇が水面に降ろされる。短艇に乗り込んだ男たちが一斉にオールを海面に突き込むと、まるでエンジンが付いているかのように猛然と加速していった。#落ちぬい二次

2016-04-28 20:54:57
竹村京 @kyou_takemura

先行するのは兵頭組だ。スタートダッシュで一気に引き離すつもりだが、逆に粘り勝ちを狙う長瀬組は兵頭組の後ろにぴったりと位置を占めている。#落ちぬい二次

2016-04-28 20:59:40
竹村京 @kyou_takemura

重いオールを全身で操りながら兵頭は充足感に満ちていた。砲やミサイルをぶっ放すのはもちろん好きだが、自分の力で舟を動かすのは格別に気持ちがいい。 だがそれとは別に苛立ちも感じている。#落ちぬい二次

2016-04-28 21:02:07
竹村京 @kyou_takemura

「おい長瀬!女のケツじゃなくて男のケツまで追っかける趣味があったとは知らなかったぞ!」 「そうかい、あんまりカワイイ面してるから女かと思ったぜ!」#落ちぬい二次

2016-04-28 21:06:12
竹村京 @kyou_takemura

「モグリに追いつかれたらカマ掘られるぞ、ケツ締めて気合入れろ!」 おう、と兵頭組の面々が喚声を上げ、ますます力強くオールを漕ぐ。#落ちぬい二次

2016-04-28 21:08:17
竹村京 @kyou_takemura

しかし、ふと、 ―――モグリって、誰だ? そんな疑問が鎌首をもたげた。#落ちぬい二次

2016-04-28 21:10:35
竹村京 @kyou_takemura

いや、と。頭を振って雑念を振り払う。今はそんなことを考えている余裕はない。背後を伺えばぴたりと長瀬の短艇がくっついて来ているのだ。何としてもゴールまで逃げ切らねばならない。#落ちぬい二次

2016-04-28 21:12:38
竹村京 @kyou_takemura

しかし妙な疑念に手元が狂い、オールが海面を叩いて盛大にしぶきを上げる。しまったと思う間もなく頭から海水のシャワーを浴びた。 眼に沁みる。#落ちぬい二次

2016-04-28 21:14:12
竹村京 @kyou_takemura

―――沁みるのは左眼だけだ。右眼には何も感じなかった。 恐る恐る顔に手を当てる。右目があるべき場所。何もない。ただのっぺりとした皮膚だけがあった。#落ちぬい二次

2016-04-28 21:16:13
竹村京 @kyou_takemura

そうだ。俺は深海棲艦に右眼を奪われて、仲間たちも大勢死んで。だからこいつらと短艇に乗っているなんてのは…… 海水を拭い、目を開く。#落ちぬい二次

2016-04-28 21:17:58
竹村京 @kyou_takemura

右側が欠けた視界には誰もいない。短艇に乗っていたはずの仲間たちも、追いかけてきていたはずの長瀬も。兵頭はたった一人で短艇を漕いで海に出ていたのだ。快晴と思っていた天気も凄まじい時化の夜になっている。振り返っても陸の灯りは見えなかった。#落ちぬい二次

2016-04-28 21:20:19
竹村京 @kyou_takemura

状況が飲み込めない。何だこれは。夢を見ていたのは分かる。だがなぜ海にいる? 夢遊病というやつか? 混乱も冷たい雨に打たれているうちに少しずつ落ち着いてくる。とにかく今はなぜ海にいるかではなく、どうやって陸に戻るかを考えなければならない。#落ちぬい二次

2016-04-28 21:23:09
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