ああ 僕を置いて早々に旅立ってしまったあなたを 今まで一度も恨んだことはなかったのですが やはり今になって強く 苦しく 恨めしく思わずにはいられないのです
2011-02-03 23:29:26僕を抱いて眠ったあなたのぬくもり 豆電球の明かり 暗がりでいつも本を読んでくれた 僕が目覚めるとあなたは決まって目を覚まし 僕をきつく きつく抱いてくれた あのころ僕は四歳で まだ小さく幼かった 僕は幼くいられた あなたの腕の中で
2011-02-03 23:30:06僕が真に覚えているぬくもりは ただそれだけなのです いまだにそれだけなのです 僕にはあなたしかいなかった しかしあなたは唐突に 何の前触れもなく旅立ってしまい 僕は置き去りにされ あなたを忘れるしかなかった 夢の中でだけあなたと会った
2011-02-03 23:30:34僕はあなたとバスに乗り どこか遠い所へ行くのですが 僕はあなたの膝の上 いくら見上げてもあなたの顔が見えない 今あなたの写真を見ても 僕にはどうもぴんとこない 僕はあなたを忘れてしまった バスに揺られ 僕はあなたに尋ねる どこへ行くの?
2011-02-03 23:30:47あなたは答えてはくれない あなたの顔も僕には見えない 僕にはあなたがわからない ただ僕は遠くへ行くのだと思う あなたと一緒に 僕は行くのだと 行きたいのだと 僕はここにいたくない あなたとともに行きたいのだと 僕は一人で たまらないから
2011-02-03 23:31:14僕は何度もバスに乗る バスに乗っては夢は覚める 僕はバスに乗ってはいない 僕はあなたの顔を覚えていない 僕はどこへも行けない 遠くへ行ってもあなたはいない 僕はどこにも行けない
2011-02-03 23:32:42僕はあなたを愛し あなたに愛され あなたに包まれ 僕もあなたをいたわり やがて僕はあなたを失い 僕はあなたを惜しみ 湖のような涙流して 僕は本当の悲しみを知り 本当のやさしさで 幸せ知らぬ人を癒すこともできたでしょう
2011-02-03 23:33:26一人で遠くへ行ってしまった バスでは行けぬ所へ行ってしまった 僕は病に衰えたあなたに会うこともできず よつきぶりに会ったあなたは ただの骨だった 僕の胸は潰れることもなく平らになり 僕の目は乾いていて 喉もからからに渇いていた
2011-02-03 23:33:55ああ あなたがそうも早く旅立たなければ あなたがもういくらかそばにいれば 僕があなたを愛することができるまで あなたが待っていてくれたなら あなたを一人で行かせはしなかった あなたが目をつぶるまで手を握り あなたを一人で行かせはしなかった
2011-02-03 23:34:07でもあなたは行ってしまった 僕は一人で置き去りにされ 一人に戸惑い 一人に迷い やがて一人に酔い 酔い痴れることはできず あなたのぬくもりだけ追いかけ つかまえることは叶わず 僕の胸は平らなままで 僕の目は潤んでもすぐに乾き 喉はからからに渇いている
2011-02-03 23:34:18僕を置いて早々に旅立ってしまったあなたを 今まで一度も恨んだことはなかったのですが 今になって苦く せつなく 恨めしく思わずにいられない
2011-02-03 23:34:34