【朝日新聞の「ゴメンナサイ」①】「証言」の無い日本教の世界には「偽証」はありえない/~なぜ偽証の責任問題から日本社会は目を逸らすのか~

イザヤ・ベンダサン『日本教について~あるユダヤ人への手紙~』/朝日新聞の「ゴメンナサイ」/司法殺人/143頁以降より抜粋引用。
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山本七平bot @yamamoto7hei

①【朝日新聞の「ゴメンナサイ」/司法殺人】数年前の事ですが、日本を通過した時、ほんの数時間の滞在の間に私は一枚のポスターを見ました。何の変哲もない映画のポスター…恐らくはがすのを忘れてそのままに放置されていたもので、大分、色あせていました。<『日本教について/イザヤ・ベンダサン』

2016-05-05 12:38:52
山本七平bot @yamamoto7hei

②しかし私はそのポスターに異常な衝撃をうけ、結局われわれは永久に日本人を理解できないのではないかと考え、しばらくそのポスターの前に茫然と立ちすくんでおりました。

2016-05-05 13:09:04
山本七平bot @yamamoto7hei

③ポスターには、…余白に…大きく 「司法殺人は許されるか!」 と書かれておりました。 私が、日本人は永久に理解できないのではないかと考えましたのは、この「司法(による)殺人は許されるか!」という言葉だったのです。

2016-05-05 13:38:52
山本七平bot @yamamoto7hei

④この八海事件は非常に有名な事件で…その内容を殆ど全ての日本人は知っております。 そこでこの事件を主題とした映画を宣伝するにあたって、映画会社が最も人々の心情に訴えると考えた謳い文句が書かれている筈ですが、それがなんと前記の「司法(による)殺人は許されるか!」であったわけです。

2016-05-05 14:09:11
山本七平bot @yamamoto7hei

⑤私もこの事件については…私は全く何の疑いもなく、これは「偽証事件」と考えておりました(もし判決が正しいなら、ですが)。 ある無実の人間が、別の人間の偽証によって死刑の判決をうけたのなら、これは何の疑いもなく 「偽証(による)殺人」 と考えるのが常識です。

2016-05-05 14:38:54
山本七平bot @yamamoto7hei

⑥私は何度も、読み違いではないかと、ポスターを眺めました。 しかし何度見なおしても、書かれているのは 「司法殺人は許されるか!」 であって 「偽証殺人は許されるか!」 ではないのです。

2016-05-05 15:09:06
山本七平bot @yamamoto7hei

⑦私はすぐ出発しましたが、機中でも、この問題が頭から離れませんでした。 日本人には偽証という考え方が全くないのです。 お驚きになるかもしれません。 しかし、ないものはないと申し上げる以外にありません。

2016-05-05 15:38:54
山本七平bot @yamamoto7hei

⑧では日本では偽証をしてもかまわないのか、 と問われれば、私が言うのはそういう意味でなく 「証言」のない世界に「偽証」はありえないからだ、 とでも申し上げる以外に言葉はありません。

2016-05-05 16:09:18
山本七平bot @yamamoto7hei

⑨ただこういう言い方では、何もおわかりにならないと思いますので、ここで、日本で問題になった二つの裁判を例にあげ、申命典(聖書の中の法典)に基づいて再審すると共に、今、日本で大きな反響を呼んでいる新聞記事にも言及してみたいと思います。

2016-05-05 16:38:52
山本七平bot @yamamoto7hei

⑩…以上が八海事件の概略でありますが、真相は別として、映画はあくまでもY以外は無実という立場で作られているようです。 それなら、どう考えても、誰が考えても「偽証(による)殺人」の筈です。 だが謳い文句は「司法殺人は許されるか!」なのです。 一体これをどうお考えになりますか。

2016-05-05 17:09:09
山本七平bot @yamamoto7hei

⑪もう一つの事件、これは国際的にも有名になった列車転覆事件で「松川事件」といいます。 ある作家が、これを「世にも不思議な物語」といっておりますが、私にとっては、別な面で(ということは「偽証」という面で)全く「世にも不思議な物語」です。

2016-05-05 17:38:52
山本七平bot @yamamoto7hei

⑫この場合はまず赤間が容疑者として逮捕され、この赤間の証言に基づいて、佐藤以下がこの列車転覆を共同で謀議しかつ実施したとして逮捕され、佐藤以下、多くのものが死刑の判決をうけました。 しかし上告の結果、全員無罪の最終判決となったわけです。

2016-05-05 18:34:32
山本七平bot @yamamoto7hei

⑬この裁判は実に広くかつ大きく論議を呼び、これについて書かれたものは、到底その全部は読みえないのですが、私が調べた範囲内では、赤間の偽証を正面から取りあげているものはありません。

2016-05-05 18:38:52
山本七平bot @yamamoto7hei

⑭八海事件でも松川事件でも、実に不思議なことですが、すべての人が、この偽証問題にだけは、絶対に触れないで、避けて通ってしまうのです。 一体なぜか、という問題です。 申命典なら、この場合、まず真先に偽証が取り上げられるでしょうに。

2016-05-05 19:09:05
山本七平bot @yamamoto7hei

⑮申すまでもないことですが、厳格に申命典に従えば、八海事件のYと松川事件の赤間は、全く自動的に死刑です。 そして偽証を防ぐため、申命典にもタルムードにも、どのような細かい規定があるかも御存知の通りです。

2016-05-05 19:38:51
山本七平bot @yamamoto7hei

①〔注〕以上の言葉は、日本の読者には解説が必要と思う。 申命典の規定とは、旧約聖書申命記十九章十五節以下の次の記述を指す。 【どんな不正であれ、どんなとがであれすべて人の犯す罪は、ただひとりの証人によって定めてはならない。】<『日本教について』

2016-05-05 20:09:14
山本七平bot @yamamoto7hei

②【ふたりの証人の証言により、または三人の証人の証言によって、その事を定めなければならない。 もし悪意ある証人が立って、人に対して悪しき証言をすることがあれば、その相争うふたりの者は主の前に行って、その時の祭司と裁判人の前に立たなければならない。】

2016-05-05 20:38:54
山本七平bot @yamamoto7hei

③【その時、裁判人は詳細にそれを調べなければならない。 そしてその証人がもし偽りの証人であって、兄弟にむかって偽りの証言をした者であるならば、お前たちは、彼が兄弟にしようとした通りのことを彼に行ない、これによってお前たちのうちから悪を除き去らなければならない。】

2016-05-05 21:09:06
山本七平bot @yamamoto7hei

④【そうすれば他の人たちは聞いて恐れ、その後再びそのような悪をお前たちのうちで行なわないであろう。 あわれんではならない(情状酌量を禁ずる)。 命なら命、目なら目、歯なら歯、手なら手、足なら足で償わせなければならない】

2016-05-05 21:38:52
山本七平bot @yamamoto7hei

⑤従ってこれを適用すると、偽りの証言で無実のものを死刑に陥らせようとしたものは、自動的に死刑になり、無期懲役に陥らせようとしたものは、自動的に無期懲役になる。

2016-05-05 22:09:11
山本七平bot @yamamoto7hei

⑥もちろん現在では、自動的に死刑になる国はどこにもないでしょうし、イスラエルにしろイギリスにしろ、多くの国では死刑は廃止しておりますが、この場合、まず最初に問題にされるのが「偽証の責任」であることは異論の余地がないと思います。

2016-05-05 22:38:53
山本七平bot @yamamoto7hei

⑦しかし日本では、この偽証の責任を追及せず、無意識のうちに全日本人が、まるで本能的とでもいいたいような態度で、徹底的にこの問題から目をつぶり、避けてしまうのです。 ということは「個人(偽証をした者)の責任は追求してはならない」という確固たる律法があるとしか考えられません。

2016-05-05 23:09:18