自然愛護モヒカン過激派と引退した戦士#1 夢の農場◆3
_戦いというものは意地の張り合いであり、キリサもそれをよく知っていた。意地の見せ所は様々だ。絶対に退かないという意地もあれば、誘惑に惑わされずに退く意地もある。共通しているのは、本人の意思の強さが、より確固たる行動に結び付くということ。 21
2016-05-07 17:14:23_キリサは一人で畑を耕し始めた。トラックが持ち込んだ巨大な岩を、廃材の棒を使っててこで動かす。細かな砂利を一つずつ拾って捨てに行く。何度も畑と岩捨て場を往復する。 いくらスキュラの体力が並外れているとはいえ、いささか非効率な行動かもしれない。 22
2016-05-07 17:21:38_しかし、これがキリサの答えであり、キリサの見せる意地の一つだった。お金を払い作業員を雇うのが普通の方法だろう。しかし、彼女にとってもはや意味をなさない。彼女の敵はエコテロリストではない。呪いだ。 (きっと呪いは再びやってくる) 確信をもって断言した。 23
2016-05-07 17:30:43_キリサは巨大な花崗岩の塊を、全身で押して畑の外側に持っていく。これだけで1時間が経過した。朝ごはんも昼ごはんも食べずに作業を続けている。 午後、ようやく少しだけ冷静になり近くの村へ食料調達。道草食わずに買い物を終え農場へ。 24
2016-05-07 17:41:02_石のように固いパンをかじり、ボトルの苦い水を飲む。辺りが暗くなってきたのでまた焚火をして野に横たわる。 (呪いの奴は、何度でも俺を踏みにじってくる。それに俺が負けない意地を見せる。それこそが、俺の示す答えだー) 25
2016-05-07 17:49:12_戦場を思い出すキリサ。いつもこうして焚火をして夜営していた。慣れていた。戦いの日々に。 (迎え撃ってやる。呪いって奴に、負けたりはしないよー) 戦場では意地を見せない奴から死んでいった。生き残ったのは、意地っ張りで、運のいいやつだ。 26
2016-05-07 17:54:00_日が昇るころ目が覚めたキリサは、作業を再開した。細かい砂利はあとで何とでもなる。中規模の岩は、すでに片付けた。問題は、手つかずの巨大な岩。トラックで運べるギリギリの大きさの岩だ。高さは2メートルほどもある。つまりは、キリサと同じくらいの高さだ。 27
2016-05-07 17:59:14_スキュラは背が高く筋力もあるとはいえ、身体の半分は細い女性である。一方、岩は最初から最後までぎっしり詰まった岩だ。全身の体重をかけて、ゆっくりと転がすしかない。時折てこを使うが、気休めにしかならない。全身が悲鳴を上げ、キリサの確固たる意地が揺らぐ。 28
2016-05-07 18:05:22「嫌だ! 本気だ、俺は本気なんだー! 本気でこの地に作物を育てたいんだ! どうして諦めるなんて思うんだよ、俺はー!」 思わず声が出る。バンバンと岩を叩き、拳に傷を作る。エネルギーを使い果たし、へたり込む。けれども、その双眸には闘志の炎。 29
2016-05-07 18:14:03「うあああああ!」 叫び声を上げて、もう一度岩を押す。岩がゆっくりと傾き、動きはじめる。 「見たかよー、俺の本気を……俺は頑張れるんだー。まだまだ、動けるんだー」 日は暮れ、蝙蝠が空を舞う。一人の意地だけが、農場を動かしていた。 30
2016-05-07 18:23:07【用語解説】 【パン】 麦から作られる食べ物。翡翠台地で栽培されていた麦は、最初灰土地域では育たなかった。しかし、エシエドール帝国の科学力によって品種改良を重ね、灰土地域の主要作物になるまでに普及した。パンは比較的庶民の食べ物で、固く、酸っぱい味がする。保存性は高い
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