【ゆったり】有休消化で温泉旅行【のんびり】

格子縞✿再々録作業中 @kousijima

@tkhime_TL #さにわ温泉旅女子編 そうだよ。ウチ世界観だと審神者は紙祇官って名前の特殊国家公務員だから、研修だとか貯め込みすぎてる年次休暇消化だとかそれっぽい理由着けて、温泉地にある国民宿舎（貸し切り）とかへ泊まりに行けば良いんだよ！ ……良い、のか……？

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@tkhime_TL 「有休消化？」 こんのすけを前に審神者は戸惑う。てっきり以前の入院騒ぎで寧ろマイナスかと思っていたが、長期化すると見なされたのか特別休暇として処理されていた様だ。 「皆様真面目にお勤めいただきありがたいのですが、お休みを溜め込んでいる審神者様が少なくなく」

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@tkhime_TL 唐突に有休と言われても遊びに行きたい所が思い浮かばない。せっかくだから実家に顔を見せても良いけれど何せ護衛を同伴しなくてはならないのだ。事情を知っている親兄弟は別にして、他の親族や友人等と顔を合わすのは厄介である。不可視化し続けて貰うと言うのも気が引ける。

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@tkhime_TL 休みだけ取って本丸でのんびりするのが一番かも……と考えていると、見透かされた様に声をかけられた。 「お休みしていただかないことには意味がないので、陰陽寮の方で宿を手配しました」 「へ？」 「初日は研修としますので二日目以降ご自由に過ごしていただきたく」

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@tkhime_TL 休みの予定が被りすぎない様に、日程はシフト式になっているところがまた何とも言えない。それだけ有休を溜め込んでいる審判神者が居たと言うことなのだろう。 「それで、どうするんだ？」 こんのすけが屏風の中へ消えた後、黙して後ろに控えていた近侍が主へと声をかけた。

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@tkhime_TL #さにわ温泉旅女子編 「浮かない顔だな。嫌なら断れば良いんじゃないか」 「嫌って訳では。ただ……少し遠出なので」 閉じこもるのは良くないと、今でも万屋には顔を出し演練も参加している。だが温泉地となれば些か遠出だ。皆に心配をさせてしまわないかと不安が過ぎる。

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@tkhime_TL 「研修と組み合わせてるところが巧妙ですよね……」 これでは不参加を決め込みにくい。明日まで考えますと即断を避けて勤めに戻ったが、休暇の話はあれよあれよと本丸中に広まった。近侍が漏らした訳ではない。浮かない顔だと声をかけられて却って心配させてしまった結果だ。

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@tkhime_TL 「大事なのは対策をたてることで、先回りして止めちまうことじゃねーよ」「篭の鳥なんて今更ですよ？万屋へ行くことも止めるんですか」「あの……僕達の、心配じゃなくて主君が笑ってくれるほうが、嬉しいです……」「湯は体に良いって言うぜ？楽しんできてくれや、大将」

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@tkhime_TL 「主が行きたくないのなら、それは断れば良い。だが、俺達への遠慮が先立つと言うのなら、それこそ無用と言うものだ」 銘々がかけてくれた言葉は温かく柔らかく、また自分は気を回しすぎていたかもしれないと思い至る。審神者は考えを改めて、温泉旅行へ出かけることにした。

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@tkhime_TL 一括りに洋装と言っても実に様々だ。万屋や会議へ赴く時とは趣が異なる、軽やかな出で立ちの街着。日頃の神職装束と比べてしまえば随分と雰囲気が変わる。心なしか浮ついている様にも感じて問うてみれば 「……やっぱり、楽しみです」 はにかみながらもへにゃりと笑った。

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@tkhime_TL 一応今回の建前は研修、宿へ着けば他の審神者とも遭遇する筈だ。 「アンタの修行仲間と会う予定はあるのか」 「いえ、皆さんとは今回は。でもどなたかわかる方と会えたり……新しいご縁があると良いですね」 道中で列車を乗り換えて、ついでに昼食と飲物も買い求める。

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@tkhime_TL 駅弁を食べるなんて初めてです、と審神者は既に嬉しそうだ。俺も初めてだな、と答えると一緒ですねと眦が下がる。先の列車よりも車窓の流れはゆっくりな物だった。景色も緑が増えて建物は減り、やがて遠目に海が見える様になり。空の青と海の青が溶け合う線が心を惹いた。

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@tkhime_TL 駅を降りると潮の匂いがして、並木道の先には砂浜が見える。駅の近くには民営の洒落た宿が点在しているとわかるが、用意された場所は背後の斜面を奥へ登らなくてはならないらしい。迎えの車の時間にはまだ暫く間がある。荷をロッカーに預けてから、少し散歩をする事にした。

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@tkhime_TL #さにわ温泉旅女子編 手を引いて並木の下を歩いていると、紺だの黒だの四角い革鞄を背負った子供達とすれ違った。 「あっれ、さっきと同じ顔じゃね？」 「ふりんだふりん！そっこー入れ替わったんだって」 「ばーか！双子だろ」 聞き捨てならない掛け合いが走り去る。

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@tkhime_TL 不躾に憮然とした面持ちで固まっていたが、気遣わしげな視線を感じて振り返った。 「アンタは不快に思ってないか」 「子供の言うことですから」 「それならいいんだがな」 要らぬ気を回したりしない様、繋ぐ手を絡め直してまた歩き出す。近くに”居る”と言うことだろう。

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@tkhime_TL 道の突き当たりを数段降りると、平坦な砂浜が左右に広がっていた。潮の匂いが濃く感じられるくらいで、吹く風は心地良いが湿り気も帯びる。器の中にしまう本体が、霊力で守られている今の在り方で無かったなら。長閑な眺めを只のんびりと、楽しむ気にはならなかっただろう。

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@tkhime_TL 人影は疎らだ。泳ぐには暑さが足りず、場所が不向きなのか釣り人も見当たらない。そんな景色の中で見つけた後ろ姿が一つ。紺地のワンピースの裾を摘み上げて、波打ち際に佇んでいる。あれでは足元が濡れてしまいそうだが、連れと思しき背は止める事無しに間近で見守っていた。

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@tkhime_TL 時折混じる、まるで踊る様な軽やかな動き。翻る紺の布をよくよく見れば、白い金通縞が描かれている。何を喋っているのか届きはしないが、波を喜んでいる風なのは遠目にも伝わった。 「何だか楽しそう」 「……そうだな」 「きっと彼方の“貴男”も、優しいんでしょうね」

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@tkhime_TL チラリと振り返った顔。深く引き下げたフードで表情は判らず、覗く口元だけ見れば不機嫌そうに見えなくもない。審神者は丁寧に会釈すると、そのまま離れる様に歩き出した。 「優しそうに見えるのか？」 「えぇ、見えましたけど？」 どこを見てその評になるのかが解らない。

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@tkhime_TL 「あの人が着ていたワンピースだけじゃなくて……結んでたリボンの色も、偶然ではないんだろうなって」 「……なる程」 揃って観ての判断だったらしい。 「甘い言葉や笑顔だけが優しさじゃないって、私も教えて貰いましたし」 「！」 何気なく続いた言葉にしてやられた。

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@tkhime_TL 饒舌でない事くらい自覚している。それどころか顔つきは堅くなりやすく、快活に笑う兄弟や朗らかに笑う兄弟とは大違いだ。今の在り方を受け入れてからは己を拙いと感じる事も無くはなく。だからこそ俺なりの振る舞いを汲み取ってくれているのだと、知れれば当然嬉しくなった。

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@tkhime_TL 定刻通りに現れた迎えの車に乗り込んで、用意された宿へと向かう。明日の昼が名目である研修とされていて、それ以前と以降は一応自由と言うことらしい。 「何だか不思議です。普段は余所様と会う機会も限られているのに」 「そうだな」 良い縁ばからなら良いが、と思った。

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@tkhime_TL #さにわ温泉旅女子編 ピンからキリまで幅がある民間の物に比べれば、どうしたって豪華さだとかは控え目なのかもしれない。だけれども三年前にリニューアルされたのだという宿は、想像していたよりもずっと綺麗で。立地の不便さが静けさとなって却って居心地が良い位だった。