セイバー提督と神通さん【第1話】

ボダブレの機体が提督をやってる世界、というネタを見かけたので アセンは趣味とフィーリング
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深海さかな @dzurablk_kai

その日神通は、朝の澄みきった空気の中で目を覚ました 肺の腑に吸い込んだ朝靄を孕む、カムチャツカ半島の冷気 吐き出されたそれはより一層白く煙りながら、茶色一色の塹壕の中で渦を巻きながら消えていく 「おはようございます、隊長」 #私の彼はブラストランナー

2016-05-07 16:49:51
深海さかな @dzurablk_kai

寝ずの番に立っていた陽炎が声を潜めながら声をかける 「敵は?」 「静かなもんですよ」 塹壕からほんの少し頭を出して辺りを伺うも、霧が真っ白な闇となって視界を悉く覆っていた 唯一わかるのは時おり耳に届く、浜辺に打ち寄せた波の音だけだ #私の彼はブラストランナー

2016-05-07 16:52:56
深海さかな @dzurablk_kai

つい昨日まで沖では超ド級戦艦が、陸では戦車や装甲車が、けたたましい彷徨を鳴り響かせていたというのに、そんな面影はどこにもなかった 隣で陽炎が不安げな声をあげる 「乗員の人達は、逃げられたんでしょうか?」 「もともと奴らは、生身の人間なんて襲いませんよ」 #私の彼はブラストランナー

2016-05-07 16:57:24
深海さかな @dzurablk_kai

それに答えたのは不知火だった 夜通し手元の無線機を修理していたのだろう、顔はやつれ目元にはクマが酷い 「奴らが襲ってくるのは、機械と人間が一体化した対象のみ つまり一番の狙いは、私たちみたいな艦娘よ」 そう言って彼女は、忌々しげにドライバーを投げ出した #私の彼はブラストランナー

2016-05-07 16:59:49
深海さかな @dzurablk_kai

「直りませんか?」 「ダメですね、部品がありません」 「予備のありかは?」 不知火の表情が皮肉っぽい笑いに変わる 「・・・司令部として使ってた装甲列車が今も無事なら、いくらでもあったんでしょうが 黒焦げのでもよければ、取ってきましょうか?」 #私の彼はブラストランナー

2016-05-07 17:02:00
深海さかな @dzurablk_kai

「いえ、その必要はありません」 この山の裏手の操車場へ探しにいけば、壊れていない無線機の1つくらいは見つかるかもしれないが、それ以前に黒焦げになった提督や幕僚の死体など見たくない 神通はため息を1つつくと、分厚く垂れ込めた朝霧の彼方へ目を凝らす #私の彼はブラストランナー

2016-05-07 17:04:23
深海さかな @dzurablk_kai

「陽炎、不知火、歩哨を降板 次の者に申し送って仮眠しなさい 無線機はなんとか探してみます」 無線機が無ければ助けを呼ぶことも離脱することもできない、が残された武器弾薬も心もとない 次の敵の攻勢までになんとか策を練らなくては #私の彼はブラストランナー

2016-05-07 17:08:19
深海さかな @dzurablk_kai

現状を再認識すると神通は、生傷と筋肉痛で軋む身体を持ち上げながら、塹壕伝いにトーチカへ向かった ここはカムチャツカ半島、ゲルベルク大要塞 北海道と本州を護る最後の要 どうあっても敵に明け渡す訳にはいかないのだ #私の彼はブラストランナー

2016-05-07 17:10:57
深海さかな @dzurablk_kai

同時刻、北海道上空 「やれやれ、こう何時間もヘリに揺られてると、吐き気も失せてくるな」 大の男が辛うじて入れるくらいの狭いコックピットの中で、神谷はこぼした 「せめて空輸が輸送機なら脚が延ばせるってのに」 無線越しに返ってきた軽口は、 #私の彼はブラストランナー

2016-05-07 17:26:29
深海さかな @dzurablk_kai

バディの佐藤のもの 「ほんとに来るんですかね? あの深海なんとかって言う化け物は?」 「来てないのなら俺たちは今頃、三沢の滑走路でハイポートしてたはずだろ」 「うげえ、それも御免です」 だが何時間もブラストランナーのコックピットに閉じ込めらるのも、 #私の彼はブラストランナー

2016-05-07 17:29:49
深海さかな @dzurablk_kai

想像以上の苦痛だ どちらかと言うと神谷は、運動で気が晴れるぶんハイポートの方がマシに思えた 「あと何分、こうして上空待機してればいいんです?」 「小一時間だ、頑張れ」 「うへぇ」 ブラストランナーと呼ばれるこの機体が配備されて、陸の戦いも随分と変わった #私の彼はブラストランナー

2016-05-07 17:32:30
深海さかな @dzurablk_kai

この、トラックや民家に隠れられる五メートルほどの小型機体は、人と同じ二足歩行の形態ながら、両腕、両脚、頭部、胴体のパーツに分解できるように設計され、戦局や地形に合わせ前線でも簡単にパーツを換装することが可能となっており、 #私の彼はブラストランナー

2016-05-07 17:35:24
深海さかな @dzurablk_kai

背面のウエポンラックと合わせて高い汎用性を有していた 何より特筆すべきはその生存性で、非常時には胴体内部のコックピットブロックそのものが離脱し、ボーダーと呼ばれるパイロットを保護するよう設計されている #私の彼はブラストランナー

2016-05-07 17:36:49
深海さかな @dzurablk_kai

専用のヘリや輸送機で自由自在に空挺降下をこなせ、装甲車並の装甲と戦車以上の火力を有する歩兵科に配備された夢のような装備 それがブラストだった その記念すべき初の機械化歩兵部隊が、神谷たちの属する独立混成機械化連隊である #私の彼はブラストランナー

2016-05-07 17:41:53
深海さかな @dzurablk_kai

脚も伸ばせぬ窮屈なコックピットで無数のディスプレイに目を光らせ磨り減らされる神経と引き換えに得たものは、寧ろ多すぎるくらいだと神谷は考えていた 何より、物量で攻めてくる深海棲艦にブラストの機動性と火力は欠かせない #私の彼はブラストランナー

2016-05-07 17:47:12
深海さかな @dzurablk_kai

そんな考え事で暇な時間の慰みを得ていた、そのときだった 『サイト5より入電があった』 耳元でヘリパイロットの声が、思索を遮る 『カムチャツカのゲルベルク基地との連絡が途絶えた 状況は不明、本機はこれより偵察に向かう』 #私の彼はブラストランナー

2016-05-07 17:49:50
深海さかな @dzurablk_kai

ゲルベルクと言えばつい数日前に、激しい戦闘が起きた場所だ 各種軍艦に加え列車砲や戦車、それに最近新設されたと言う特殊な部隊が投入された、堅牢な防壁を誇るべトンの城 それが通信途絶とは、穏やかな話ではない 「オスロー1、了解した」 #私の彼はブラストランナー

2016-05-07 17:53:48
深海さかな @dzurablk_kai

『場合によっては機体が激しく揺れるかもしれんが、耐えてくれ』 「それはいつものことだ、慣れてるよ」 『言ってくれるぜ!』 軽口とは裏腹に充満していく、不吉な予感と不安感 「・・・佐藤」 「はい」 返ってきた声は先程とは一転して低く、暗い #私の彼はブラストランナー

2016-05-07 17:56:20
深海さかな @dzurablk_kai

「いつでも降りられるように準備しておけ」 「了解」 それだけ告げると神谷は、オペレーティングシステムのメインスイッチを指で弾くのだった #私の彼はブラストランナー

2016-05-07 17:57:06
深海さかな @dzurablk_kai

「手榴弾!!」 その声が上がったかと思うと直後、巻き起こった爆音が、神通のいるトーチカの空気を激しく震わせ轟いた 間髪空けずにあちこちで鳴り始めるは、塹壕の随所に据えられた機関銃の低い銃声 ほとんどの駆逐艦たちが艤装の残弾を撃ち尽くした以上、 #私の彼はブラストランナー

2016-05-07 18:07:19
深海さかな @dzurablk_kai

頼れるのは陸戦隊が遺したこれらの小火器しかない 艤装で唯一射撃を続けていた神通の単装砲も、さほど時間をかけずに甲高い音を立てながら、最後の弾留めクリップを吐き出した 「残弾報告!!」 「こっちはもうカンバンです!!」 「16駆、残弾ナシ!!」 #私の彼はブラストランナー

2016-05-07 18:10:31
深海さかな @dzurablk_kai

「手榴弾、二!!」 頼みの綱の機銃弾も尽き、最早これまでか 報告を受け神通は単装砲とカタパルトを捨てると、腰の日本刀を抜き放つ 「・・・これ以上の遅滞は不可能です 総員、離脱にかかれ 手榴弾は私に」 「神通さん!?」 「隊長、何を・・・!!」 #私の彼はブラストランナー

2016-05-07 18:14:21
深海さかな @dzurablk_kai

「私はこのカムチャツカを鎮護する部隊の長 ここを離れるわけにはいきません しんがりは私が務めます 貴方たちは早く、離脱を」 意を決した神通の声音に、トーチカに集結した駆逐艦たちの間で重苦しい沈黙が立ち込める #私の彼はブラストランナー

2016-05-07 18:17:00
深海さかな @dzurablk_kai

「艤装を捨てれば生き残れる可能性はあります、さあ」 連装砲や機関銃を捨てる音に混じり、駆逐艦たちからは啜り泣きの声が上がった 思わず陽炎が神通に詰め寄る 「隊長、私もお供を・・・」 「ダメです」 「まだ戦えます・・・!!」 「許可できません」 #私の彼はブラストランナー

2016-05-07 18:18:59
深海さかな @dzurablk_kai

神通はセーラー服の襟につけられた旗艦の証、桜の襟章を外すと、目頭いっぱいに涙を湛えた陽炎へと手渡す 「・・・後のことは、任せましたよ」 「じんづッ・・・さん・・・!!」 嗚咽を漏らす駆逐艦達を尻目に神通は、瞳に強い光を讃えたまま、トーチカの屋根へと登る #私の彼はブラストランナー

2016-05-07 18:52:41
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