自然愛護モヒカン過激派と引退した戦士#2 黄金の麦畑◆2（終）
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減衰世界
@decay_world
＿ゆっくりと目を覚ますキリサ。目の前に広がるのは、やはり地獄だった。今日もまたモヒカンたちがやってきて、完膚なきまでに農地を荒地に戻していく。最初に開墾した時と同じ労力が必要だろう。いや、それ以上か。 鳥はそんな悲劇を知らないようにさえずっている。 41
2016-05-09 17:21:22
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@decay_world
＿ただぼんやりと惨状を見つめながら、キリサは心穏やかに横たわる。モヒカンは新たにモヒカンの魔法使いを連れてきたようだ。木の苗に成長の魔法をかけ、貧弱ながらも高い木に育っていく。大地に木の根が這ったら、それを掘り起こすのは至難の業だ。 キリサはゆっくりと立ち上がる。 42
2016-05-09 17:26:42
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@decay_world
＿流石に岩をどかすことはできない。けれども、足元の砂利を一つ一つ拾う。何も言わず、ただ黙々と。 「どうして諦めない」 モヒカンの一人が言葉を投げかけた。キリサはつまらなそうに重機の上のモヒカンを見上げる。 「お前を殴り返すことなら誰でもできる」 43
2016-05-09 17:34:02
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「踏みにじられて、逆にお前たちを踏みにじっても何になる？ お前の代わりが現れて、また俺を踏みにじるだけだ。それは永遠に終わらない。けれども、俺が農場を諦めたら……次の俺なんていない。永遠に、踏みにじられたまま、俺の農場は変わらないんだ。諦めない……それしかないんだー」 44
2016-05-09 17:39:09
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＿もはや農場はちょっとした林になっていた。硬い地面に根が這っていき、キリサの指を阻む。それでも、爪が剥がれかねない勢いで地面を掘って、砂利を捨てる。 「正直、狂っているようにしか見えないぜ」 モヒカンたちはそう言い捨てて、丘の上に重機を走らせ去っていった。 45
2016-05-09 17:45:56
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＿身体中が崩れていく感覚がする。執念が次第に、妄執へと変わっていく。いつかの彼を思い出した。生きながら死霊となり、キリサに呪いをかけた男。 （こうなる運命だったんだー） けれども、恐れや後悔など無かった。 46
2016-05-09 17:50:08
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（身体が楽になっていく。いつかのあいつは苦しかっただろう。けれども俺は違う。あいつは俺を踏みにじることで幸せになれただろうか？ そんなはずはない。あいつの領域は踏みにじられたまま、死んでも変わることは無かったはずだ。でも、俺は違うんだ。俺は取り戻せるんだー） 47
2016-05-09 17:58:57
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@decay_world
＿キリサの身体は次第に崩れていき、土塊と化す。伸びたばかりの若木が、次々と腐って倒れていく。地面から、牙のような麦の芽が伸び始めた。 あちこちに転がる岩は、次々と砕かれ砂に変わる。砂利も同じだ。腐った若木が、肥沃な畑へと変わっていく。 48
2016-05-09 18:06:07
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@decay_world
（呪いが何だっていうんだ。踏みにじってみせろよ。悔しいだろう。それでも俺は、農場を守ったんだー。俺は農場と一つになって、永遠に覚めない夢を見るんだー。それが俺の勝利なんだー） 最後に、強烈な突風が吹き、全てを吹き飛ばしていった。 49
2016-05-09 18:11:55
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@decay_world
＿モヒカンたちは風に吹き飛ばされないように重機にしがみつく。風が去った後、モヒカンたちは丘の下を見下ろした。 そして、信じられないものを見た。林に変えたはずの農地が……大草原のような、黄金の麦畑に、一瞬で変わっていたのだ。 50
2016-05-09 18:16:25
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【用語解説】 【呪い】 運命を自分の思い通りにする力であり、未来を改変する力である。未来は混沌神の力で刻々と変化していくが、混沌神のごとき力を振るえば、同じように未来を操作することも可能である……が、問題はそれに必要な魔力である。文字通り命を懸けなければ難しいだろう
2016-05-09 18:22:19
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@decay_world
【次回予告】 幸せな王子がいた。そして、王子を求める普通の街娘がいた。街娘はただのスーツを着た労働者であり、その人生にはどこにも王子との接点がない……はずであった。 これは、街娘が王子の心を手に入れるまでの話。 次回「鳥籠の王子と幸せな娘」 全50ツイート予定 #減衰世界
2016-05-09 18:31:44