鳥籠の王子と幸せな娘#2 鳥籠◆1
_革命は終わった。同時期に超大国エシエドール帝国は崩壊し、その衛星都市は次々と異民族に従属した。北方から現れた、魔法使いの軍団。新しい支配者は異種族インペリアル人。彼らはエシエドールが弾圧した魔法使いたちの末裔であった。 エベンジェもまた、魔法使いたちに主権を握られる。 31
2016-05-13 17:18:51_新しいエベンジェ政府の首脳は、麗しい女魔法使いであった。かつて老婆の姿で街に潜伏していたことを知る者は少ない。彼女は辺境から魔法使いを呼び寄せ、強固な支配体制を作った。革命に賛同した者たちはある程度優遇される階級に据え、他は支配される民となった。 32
2016-05-13 17:24:13_王族は皆処刑されたと報じられ、そのまま闇に消えた。 (新しい日が始まる……) ミルエリは暗い空気の漂う朝の街を、晴れがましい顔で歩いていた。誰も彼女を気にしないし、どこにでもいる労働者だと思っただろう。実際スーツを着て、仕事にでも行くかのようだ。 33
2016-05-13 17:30:10_街の暗い空気は、決して曇り空のせいではない。街を我が物顔で歩く魔法使い。彼らに逆らえば、問答無用で殺されることを市民は知った。 (暗いのも仕方ないよね……殺されるんだから……そう、私以外は) 強力な誓約によって、ミルエリだけが守られている。 34
2016-05-13 17:35:45_ビジネス街の裏通りに忍び込んだミルエリ。彼女は薄暗い場所にある、装飾も何もないドアを開けてガードマンに挨拶する。そして、階段を地下へと降りていった。 階段にはボロボロの服を着た怪しい魔女が煙を吸ってまどろんでいる。軽く挨拶をすると、魔女は話しかけてきた。 35
2016-05-13 17:40:22「毎日飽きもせずに来るねぇ……革命の乙女は政治に興味なしかい?」 ミルエリはにこりと笑って答えた。 「ええ、私は幸せになれたもの。これ以上頑張る必要はないし、名声もいらない」 「ま、あたしもあんたの趣味に口出しはしないが……」 そう言って階下の扉に目を向ける。 36
2016-05-13 17:45:27_二人は階段を下り、ロッカーの並ぶ廊下で立ち止まる。魔女はミルエリのジャケットを脱がせ、ロッカーのハンガーにかけた。 魔女はミルエリの召使いだ。魔法使いを従えるという特権も、ミルエリだけに許されている。かつて老婆のために惜しみなく支援をした見返りだ。 37
2016-05-13 17:50:38_ブラウスの首のボタンをはずし、ミルエリは大きく息を吐いた。心臓がどきどきする。何度でも味わっている高揚感。許すことなら、この部屋でずっと暮らしていたい。そう思いながら、目の前の扉を見つめる。 しかし、ずっと一緒にいることはしない。 38
2016-05-13 17:56:06_常に近くにいると、相手が慣れてしまう。何とも思わなくなってしまう。感覚が麻痺してしまうのだ。だからこうして、一日のうち少しの時間しか会わない。一人でいる時間彼はひたすら高めるであろう、ミルエリへの「憎悪」を。 ミルエリは身震いをして、扉をゆっくりと開く。 39
2016-05-13 18:01:33【用語解説】 【インペリアル諸部族】 灰土地域北部に住まう少数民族。人類帝国の覇権により、多くは特権階級に据えられている。エシエドール人とは大きく異なる生き物であり、両者の間にできた子供は生殖能力を持たない。髪の色は黒から茶色、赤毛など。肌は青白いまでに白く、瞳は緑が多い
2016-05-13 18:14:40