鳥籠の王子と幸せな娘#2 鳥籠◆2（終）

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＿鳥籠の王子と幸せな娘#2 鳥籠

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◆2

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＿王子は鋭い目でミルエリを見上げる。床に座ったまま。かつての柔和な表情は影を潜め、まるでワニのような凶暴な「憎悪」が表情からにじみ出る。 「素敵な目」 　ミルエリはそう評して、ゆっくりと近寄る。彼女の夢、彼女の幸せが、王子だった。その目はミルエリの期待通り。 41

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＿地下室は住み心地が悪そうだった。じめじめした空気。灰色セラミックタイルの殺風景な煉瓦模様の壁。手の届かないところでランプが灯っている。 　王子は鎖で繋がれていた。毛布も、クッションもなく冷たい床に座るしかない。すべて、王子の憎悪を育てるため。 42

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「ぞくぞくするよ」 　ミルエリはそう言って、わざと王子の目の前に立った。全身に王子の視線を感じる。怒りのこもった、刺すような視線。 「もう3年も私しか見てないのよね……」 　うっとりと瞳を覗き込むミルエリ。彼の網膜はもはやミルエリを忘れられないだろう。 43

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＿ゆっくりと膝を曲げ、王子を抱きしめるミルエリ。視線を味わった次は、王子の体温をその身に感じる。 「僕に触れるな……悪魔め」 　抵抗しようとするが、王子の腕は完全にミルエリに力負けしていた。 「籠の中の小鳥は、飛ぶことを忘れちゃったみたいね」 「ミルエリ……っ」 44

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＿その瞬間、ミルエリの手の力が弱くなる。王子は素早く両腕で彼女の首を掴み、精一杯締めた。一瞬王子の目に殺意がこもる。 　けれども、すぐに王子は手を放してしまった。 「嬉しい……やっと貴方から触れてくれた」 　恍惚とした表情のミルエリ。 45

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＿ミルエリは王子の両手を掴み、自らの首筋に添えて笑う。 「殺せないことは分かっていたよ。だって、貴方は優しいもの。どれだけ憎悪を膨らませても、貴方は優しいもの。だから、貴方に私は殺せない。逃れることも、できない」 　王子は真っ青になって、ミルエリから顔を逸らす。 46

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「名前、呼んでくれたよね」 　ミルエリは王子の手を放し、頬に手を寄せた。以前は咬みつかれたこともあった。そのときは傷跡を愛おしそうに舐めてみせたら、もう抵抗しなくなった。ゆっくりと王子の顔を自分の方へ向けるミルエリ。 「もう名前を呼ばないって言ったのはいつのことかしら」 47

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「でも、また口にしてしまった。貴方の全てが、私で埋まっていく。貴方の心が私に染まっていくのよ。ずっと一緒だよ。私をずっと貴方は忘れられないんだよ」 　薄暗い地下室、ランプの炎が揺れて一匹の骸骨のような蜘蛛を照らす。その影が天井に映る。 48

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＿ミルエリがゆっくりと王子に覆いかぶさり、二つの影が一つになる。蜘蛛は巣を作る。その蜘蛛の視界を共有した魔女が、階段に座り煙を吸っていた。 　暇な時間を潰すには丁度いい。王子は二度とこの地下室からは出られないだろう。魔法の予知がそう教えてくれる。 49

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（幸せそうだねぇ、実際、あんたは最後まで幸せだよ） 　魔女は煙のパイプをくわえてゆっくりと横になり、目を閉じて蜘蛛の視界を楽しんでいた。 50

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＿鳥籠の王子と幸せな娘（了）

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【用語解説】　【吸煙】 ハーブや薬草を乾燥させたものを燻して、その煙を味わうもの。地球で言う煙草だが、依存性のある成分は無く単なる嗜好品である（依存性のある成分を添加することもある）。煙はフィルターを通して吸うタイプが主流。燻すための壺とパイプがセットになっており携帯には向かない

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【次回予告】 死体回収業者の二人は今日もダンジョンに潜っては、死んでいるものを蘇生させて代金をせびる。今回は貧乏そうな男を蘇生して、金の亡者と罵られて……その男、また死んでるんだが！？ 次回「2回死んで1回生きた男」 全50ツイート予定 #減衰世界