【ミイラレ! 屋敷幽霊のこと】

オカルト存在である『怪異』とそれに好かれる少年の日々のお話。幼なじみと一緒だろうがやつらはくるのだ。
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鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

いつでも物事がうまくいくとは限らない。例えば朝の良い天気が一日中続くとは限らないし、天気予報が予報を外すことだってある。日条 四季が下校途中に突然の雨に襲われたのも、そんな些細な不幸の積み重ねなのだろう。降られた方はたまったものではないが。1 #4215tk

2016-05-15 20:04:06
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

朝は雲ひとつない晴天。夕方も雨の気配がないので油断していた。なにより悪いのは、今の四季は自転車に乗っているということだ。雨に気を取られ、危うくスリップしそうになる。「四季、危ないよ」横手から少女の声がかかる。雨を蹴立てて彼の横に並んできたのは、幼馴染の怜だった。2 #4215tk

2016-05-15 20:08:16
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

鞄で雨を避けながら、それでも四季に並走して心配そうな表情を向けてくる。「降りた方がいいよ」「そう、だね!」彼女の言葉に従い、減速。自転車から飛び降りる。「ちょっとすごいな、この雨!」顔に吹きつける雨粒を拭い、周囲を見渡す。せめて一息つける場所が欲しい。3 #4215tk

2016-05-15 20:12:11
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

大雨にけぶる視界の中、飛び込んできたのはとある家の玄関先。「あそこで少し雨宿りさせてもらおう!」「え?あ、ちょっと!」怜の制止を振り切り、四季は玄関先目掛けて自転車を押す。もうこれ以上濡れたくはない。全速力だ。……ようやく屋根の下に入り、彼は安堵の息をついた。4 #4215tk

2016-05-15 20:16:17
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

それに少し遅れて、怜もまた屋根の下へ飛び込んでくる。「まったくもう……!いくらこんなときだからって、他人の家の前に」「そんなこと言ったって、この雨じゃさ……」小言をこぼす彼女を宥めようとした四季は、慌てて視線を彼女から逸らす。濡れて大変なことになっていたからだ。5 #4215tk

2016-05-15 20:20:08
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

四季たちの通う山雛高校はブレザータイプの制服である。当然、その下はワイシャツということになり、雨に濡れると……向こうも四季の反応で気づいたのか、溜息一つついて鞄を漁り始めた。それからやや間をおいて「四季?もう大丈夫だよ、こっち向いても」思わずびくりと体が震える。6 #4215tk

2016-05-15 20:24:22
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「ご、ごめん」振り向きざまに頭を下げる。怜が苦笑を漏らした。「いいよ、そこまで気にしてないから。そもそもそこまで見てたわけでもないでしょ?四季の方こそ気にしすぎだよ」「でも」「でもじゃない」やや強く言い切られ、四季はおそるおそる顔を上げる。7 #4215tk

2016-05-15 20:28:12
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

改めて見ると、怜の格好は様変わりしていた。濡れた上着を脱いでそのかわりに反物と思しき濃緑色の布で体を覆っている。「……その布、どこから出したの?」「鞄」当然のごとくそう返され、四季は思わず脱力しかける。明らかに学校指定の鞄に入りきるサイズではない。8 #4215tk

2016-05-15 20:32:11
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

高校に入って再会できた幼馴染。子供の頃とはずいぶん性格も変わってしまったように見え、最初は戸惑いを隠せなかった。が、少し一緒に過ごしてみれば昔通りに付き合うことができる。四季にとっては嬉しい事実だった。とはいえ、たまに突拍子もない行動をとるのには閉口したが。9 #4215tk

2016-05-15 20:36:12
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「けど、ちょっと意外かな」「えっ、なにが?」不意に話しかけられ、四季は慌てて反応する。怜がキョトンとした様子で彼を見つめていた。「いや、四季もそういうの気にするんだねって話」「……そりゃ気にするよ。怜は俺をなんだと思ってるの」意図せずして拗ねた声音になった。10 #4215tk

2016-05-15 20:40:19
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

その反応も怜にとっては意外だったらしい。彼女はさらに目を丸くした。「だって四季、いつも個性的な美人に囲まれてるじゃない。てっきりそういうのに耐性ができてると……あ、ごめん、失言だねこれ」眉間に刻まれるシワに気づいたか、怜が慌てて謝罪の言葉を入れる。11 #4215tk

2016-05-15 20:44:15
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

まあ、きっと側から見ればそうなってしまうのだろう。自分や怜のような霊感のある人間から見れば。彼の周囲にはいつだって物理法則に縛られない類の存在が憑き纏ってくるのだから。そういった類の存在がことごとく女性の姿をとるのは何故なのだろうか。四季は時々不思議に思う。12 #4215tk

2016-05-15 20:48:15
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

街を歩くだけでもそうした存在『怪異』に目をつけられる日々。最近は色々あって多少過ごしやすくはなった。護衛を引き受けてくれる怪異が現れたからだ。が、そんな彼女も学校まで憑いてくることはない。どうやら原因は隣の幼馴染にあるらしい。彼女はいわゆる退魔師だった。13 #4215tk

2016-05-15 20:52:16
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

なんでまた彼女がそんな道を歩むことを決めたのか、四季は知らない。とにかく怜は怪異をなんとかできる人間になってこの街に戻ってきたし、そうした人間たちに格別な悪感情を抱いているあの鬼女はそのせいで登下校中には顔を出さない。それが現在の状況だ。14 #4215tk

2016-05-15 20:56:44
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

沈黙のとばりが落ち、ただ雨が屋根を強く打つ音だけが響く。二人は空を見上げる。広がるのは鈍色の重い雲。この勢いから見て、まだまだ止みそうにない。誰かに傘を届けてもらおうか。そう思って四季が携帯を取り出したそのとき。唐突に彼の背後で呼び鈴がなった。15 #4215tk

2016-05-15 21:00:15

鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

呆気にとられて振り向く。間違いない。鳴ったのは玄関扉のすぐ横にあるインターホンだ。「え、なんで?俺、触ってないよね!?」「触れるはずないよ。私もそうだけど」怜が警戒のそぶりとともに呼び鈴を睨みつける。赤い小さなランプが、動作していることを知らしめている。16 #4215tk

2016-05-16 19:24:09
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

装置はしばらく小さなホワイトノイズを吐き出していた。誰の声も伝えてこない。誤作動だろうか?四季が訝しんだちょうどそのとき。『はーい』少し間延びした女の声が響く。彼は体を強張らせた。「あ、えっと……どうしよう、怜」「落ち着きなよ」怜は少し呆れたように言った。17 #4215tk

2016-05-16 19:28:08
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

そして一呼吸置いてからインターホンの前に立ち、落ち着いた調子で口を開く。「すいません。間違えてボタンを押してしまったみたいで」『あら。どちら様?』「……山雛高校の学生です。急に雨に降られて、軒先を貸していただいていました」ハキハキとした説明。四季は感嘆する。18 #4215tk

2016-05-16 19:32:15
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

『そうだったの。大変だったでしょう、そんなびしょ濡れになって』「え?ああ、いえ」怜は今気づいたかのように濡れた髪に手をやった。「大丈夫です。タオルの手持ちもあるので」『駄目よそんなんじゃあ。風邪引いちゃうでしょう?雨が止むまで、家で休んでいきなさいな』19 #4215tk

2016-05-16 19:36:35
きゃんてら @Cantera36

親切な。 不用心ではあるけど #4215tk

2016-05-16 19:39:09
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「あの、そこまでは」怜の言葉が終わるより早く、インターホンの通話が打ち切られる。同時に鍵の開く音。四季は目を丸くした。「……ずいぶん親切な人だね?」「親切というかおせっかいというか」こちらにしかめっ面を向け、怜が言う。「どうする?」「どうするって言われても」20 #4215tk

2016-05-16 19:40:50
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