2回死んで1回生きた男#1 第一死人発見◆2
_メイラールとギシュノは仕事を終えた後、いつものように街の酒場でだらけていた。水のようなビールは安く、腹いっぱい飲んでも大した支払いにはならない。 結局、死体の男から蘇生費用を貰ったものの、こっぴどく罵られることとなった。そのせいか、ギシュノはいつもより酒の進みが速い。 11
2016-05-16 17:23:20「あー、仕事やめたいなぁ」 「おやおや、ギシュノ。同僚の前で大胆だね」 ギシュノはハーピィ特有の足遣いで器用にビールを飲む。メイラールは革鎧のまま着替えもせずに木のテーブルに肘をついていた。 活気のある酒場の空気に愚痴は溶けて消える。 12
2016-05-16 17:27:47「憎まれる仕事だよ。誇りも何もあったもんじゃないよ」 「命に関わるんだ、きっと誇りはある……」 メイラールはにやりと笑って、揚げたナッツをポリポリと齧る。ギシュノの愚痴にも慣れたものだ。こうやって聞いてやることがいちばん効く薬だということも知っていた。 13
2016-05-16 17:33:56_ギシュノはしかめっ面をするが、メイラールはいつものように話を続ける。 「いや、どんな仕事だって誇りはある! ギシュノ、君が100回自信を失うならば、僕は君を150回尊敬しよう。そんな問題意識を持って取り組んでいたなんて。僕なんか機械的に蘇生して金を貰うだけだよ」 14
2016-05-16 17:40:55「詭弁だ」 「詭弁でも構わない。僕は詭弁を150回でも繰り返そう」 結局二人は浴びるように安酒を飲んで、ねぐらに帰ってぐっすり眠った。翌日、また仕事が始まる。ダンジョンをパトロールし、死体が無いか確かめる。時には危機に陥っている冒険者を助ける。 15
2016-05-16 17:45:41_再び鍾乳洞の地下世界。足元には蝙蝠の糞が堆積しているが、踏み荒らされて泥道のようだ。ダンゴムシのような生物……晶虫が壁や天井のいたるところに張り付いて魔力を濾過している。 「魔力、だんだん濃くなっているね」 「主でもいるのかな」 16
2016-05-16 17:51:53_晶虫が内臓に蓄えた魔力を狙う化け物が、亜空間を転移して集まってくる。ギシュノの鋭敏な感覚が、そういった化け物の一種を見つけた。 6本の足を持つトカゲ。櫛のような歯でバリバリと晶虫を食べている。 「クシトカゲ。危険性は少ないけど……排除しておく?」 17
2016-05-16 17:56:22_豚ほどもある大きさのクシトカゲは、まだこちらに気付いていない。 「クシトカゲ自体は穏やかなんだけど、クシトカゲを狙う大型獣が怖いからな……排除するぞ」 鉄兜の奥で、メイラールの目に殺意がこもる。小剣を抜き、一気に接近。ギシュノは阿吽の呼吸で援護する。 18
2016-05-16 18:02:04_金縛りの呪文で動けなくなったクシトカゲ。あっという間に小剣で首筋を切られて沈黙した。解体して内臓を持ちかえれば小銭が稼げるだろう。 そこで二人は、クシトカゲの向こう側に誰かが倒れていることに気付いた。腹を食い破られている。先日見知ったばかりの……。 19
2016-05-16 18:07:10「このひとってさぁ、昨日さんざん私たちの罵って、お金を払った……」 「ああ、昨日の客だ」 その貧弱な装備、髭の生えた顔。まぎれもなく、昨日の男だった。 「どうしよう、また蘇生するの?」 20
2016-05-16 18:12:18【用語解説】 【革鎧】 冒険者に広く普及する装備。化け物の皮を加工して作られる。素材となる化け物によって特性が大きく変化するため、革鎧といっても二束三文の安物から板金鎧より高価で性能も高いものまで様々である。素材需要が高いので、皮回収専門の冒険者が存在し、綺麗に皮を剥ぐ技術を持つ
2016-05-16 18:17:41