死体を売る#1 疲れ果てたOL◆1

疲れ果てたOLエルムラ。彼女は死体を売る仕事を続けていた。勤めて5年がたち、疲労は限界に達し、目的も何もかも見失いつつある。そんな中で、彼女は一つの光を見つける…… 全50ツイート予定。この話には残酷な表現が含まれます  次↓ 続きを読む
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減衰世界 @decay_world

_死体を売る#1 疲れ果てたOL

2016-05-20 17:14:24
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_帝都の本質は地下にあるという。蟻の巣のように張り巡らされた地下街と地下鉄。寒さの厳しい地方にある帝都は、暖かい地下にその版図を広げた。あちこちから湿った蒸気が噴き出し、猛スピードで地下鉄が駆け抜ける。車内にぶら下がった裸の電灯がその振動でふらふらと影を揺らした。 1

2016-05-20 17:28:56
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「あー、しんど」  地下鉄の中で思わず声が出たことに、彼女自身が驚いて恥ずかしさに顔を伏せた。スーツを着たOL、名前はエルムラ。 (自制心が衰えている……疲れてるなぁ)  深夜23時の「通勤」が彼女の心をすり減らしていた。家にいたのは1時間程度。突然の呼び出し。 2

2016-05-20 17:29:14
減衰世界 @decay_world

(仕事も5年目、ここが大事だから、頑張らなくちゃ)  自分を奮い立たせて、列車の揺れに抗う。意識を強く持って、降車駅を確認した。まもなく最寄駅だ。列車が停車し、薄暗いホームに降りて、そのまま会社へ直行した。臨時の仕事はよくあることだ。 3

2016-05-20 17:34:55
減衰世界 @decay_world

_エルムラの所属する企業は儀式素材を扱う。魔法使いは魔法の素材として様々なものを必要とすが、それらを融通することで、魔法使いからお金と殺されないという立場を得ているのだ。魔法使いの国家である帝都は魔法こそ絶対である。  特にエルムラの会社は人体素材を扱っていた。 4

2016-05-20 17:39:46
減衰世界 @decay_world

_会社で上司からすぐさま命令が下された。死体が大量に出たらしい。場所は教導院歯車街支所。歯車街は工場地帯であり、大きな労災が発生してたくさんの死体が運び込まれたという。  エルムラの会社は隣町にあり、すぐ駆けつけることができた。こういった素材は取り合いになることも多い。 5

2016-05-20 17:44:12
減衰世界 @decay_world

「ああーこの死体も脳が無い……」  生臭い匂いの立ち込める死体安置所を右往左往するエルムラとその同僚。ここにある死体は生前に蘇生を希望しないことを表明した死体たちである。大抵身寄りもなく、貯金もない労働者たちだ。 「脳は人気ですからね。高く売れるし」  同僚も困り顔だ。 6

2016-05-20 17:50:12
減衰世界 @decay_world

_薄暗い死臭のこもった部屋。その扉が開かれ、5人ほどの男女が入ってくる。誰も彼も目玉が覗くターバンを頭にかぶっていた。それ以外は普通のスーツ姿だ。 (教導院の職員だ……)  エルムラは彼らのことをよく知っている。蘇生や死体の最終処理を行う者たちだ。 7

2016-05-20 17:57:00
減衰世界 @decay_world

_奇妙な職員たちは、それぞれ思い思いに死体の状況を確認し何かメモしている。職員と出会うことは稀だ。エルムラが興味深そうに横目で見ていると、頭の中を引っ掻くような声が聞こえてきた。 『大量の死体が搬入されたんならノルマは達成しているだろうな!』  上司からのテレパスだ。 8

2016-05-20 18:03:20
減衰世界 @decay_world

_芳しくない報告をすると、上司は怒鳴り、罵り、エルムラのことを無能だと決めつけた。 『ノルマを達成するまで帰ってくるんじゃないぞ!』  そのときエルムラの心の奥で何かが堰を切ったように溢れ、涙が一筋零れる。 『知るか』  短く返事をしてテレパスを遮断するエルムラ。 9

2016-05-20 18:09:31
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(あーあ、後で反省文だな)  ざわざわする同僚たち。エルムラは大きくため息をついて、何の成果も得られない死体安置所を後にした。これから起こることを思うと頭が重い。それでも彼女の足取りは羽のように軽かった。 10

2016-05-20 18:14:46
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_死体を売る#1 疲れ果てたOL ◆1終わり ◆2へつづく

2016-05-20 18:15:23
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【用語解説】 【教導院】 科学文明であった先の文明の科学教育を完全に破壊するため、設置された教育機関。創造説を掲げ、神との交信をも行う。そこから派生して、蘇生業務も行うようになった。指定制帽は目玉が覗くターバン。目玉の視界を得ており、魔法をより効率的に使えるようになっている

2016-05-20 18:20:12