男子凍結 第四部

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第四部

四十九

夢乃 @iamdreamers

「まだかな。まだですかね」 分娩室の隣の待合室で、真遊璃ミユは落ち着かない様子で椅子に座ったり、また立ち上がったり、部屋の中を歩き回ったり、と奇行を繰り返していた。 「落ち着きなさいな。あなたが気を揉んでも仕方がないんだから」 #twnovels

2016-05-22 20:14:53
夢乃 @iamdreamers

長椅子に座っている桐紫路マユカの母、アイミが微笑を浮かべたまま言った。隣には姉のリナと妹のユウキもいる。アイミとユウキは、ミユとは今日が初対面だ。 「でもですね、もう三十分以上になりますよ? ちょっと長いんじゃありませんか?」 #twnovels

2016-05-22 20:15:50
夢乃 @iamdreamers

年上の、それも今日初めて逢った人に対するには少々きつい口調で、ミユは言った。言葉遣いに気を使っていない、というよりも、分娩室の中の様子が気になって言葉を選んでいる余裕がない、といった様子だ。 「個人差もあるからね。それに初めてだから、もう少しかかるかも」 #twnovels

2016-05-22 20:16:31
夢乃 @iamdreamers

「母さんが私たちを産んだときはどうだったの?」 気を紛らすためか、リナがアイミに聞いた。 「そうねぇ、あなたのときは大変だったわよ。時間がかかったし、もう死ぬんじゃないかと思うくらい、痛くて苦しかったわね。マユカとユウキは、割とすんなり出てきてくれたけど」 #twnovels

2016-05-22 20:17:04
夢乃 @iamdreamers

「それはそれは、ご苦労をおかけしました」 リナが母に向かって笑いを含んだ声と共に頭を下げる。 「最初の一人は時間がかかるの?」 今度はユウキが聞いた。 「人によって違うようよ。私の従姉妹は一人目から時間はかからなかったそうだし」 #twnovels

2016-05-22 20:17:40
夢乃 @iamdreamers

「マユカさんは時間がかかっているみたいですね。大丈夫かなぁ」 「真遊璃さん、少し落ち着きなさい。あなたが焦っても仕方がないわよ」 「でも・・・心配で」 「真遊璃さんはお子さんの予定はないの?」 気を紛らわせるためか、リナがミユに聞いた。 #twnovels

2016-05-22 20:18:52
夢乃 @iamdreamers

「私ですか? 予定はありませんよ。センターにも行っていないし。・・・えーと、その、とりあえず就職しないと子育て大変そうだから」 「そうですよね」 ミユが内心を隠したことに気付いたのか気付かなかったのか、ユウキが言葉を引き取った。 #twnovels

2016-05-22 20:19:18
夢乃 @iamdreamers

「大学を卒業して、自分で子育て分くらいは稼げるようになってからじゃないと、安心できませんよね。でも、姉さんはそろそろ考えてもいいんじゃない?」 「そうね、もうちょっと今の仕事を覚えてからかな」 そんな会話の間も、ミユは心配そうに分娩室の方を見ていた。 #twnovels

2016-05-22 20:19:41

夢乃 @iamdreamers

「はい、合わせて、ふー、ふー、はー」 「ふー、ふー、はー、ふー、ふー、はー、い、いたいー」 「はい、もう少しだから我慢してー、ふー、ふー、はー」 分娩室では、マユカが出産用のベッドの上で、彼女にとって初めての体験をしていた。 #twnovels

2016-05-22 20:20:20
夢乃 @iamdreamers

産科医と、数人の看護師に囲まれて、マユカはベッドの上で脚を固定され、股を広げている。身体の自由が利かないことよりも、複数の他人の目に大切な部分を晒していることよりも、下半身に続く痛みが耐え難い。 (おねがいー、はやくでてきてー) #twnovels

2016-05-22 20:20:48
夢乃 @iamdreamers

その願いが届いたのかどうか、産科医の言葉が変わった。 「はい、息んでー、思いっきり」 (ふんーーー) 「頭が出てきた。はい、あと一息、思いっきり息んでー」 次の瞬間、身体が少し楽になった。気がした。 「ほぎゃあぁぁ」 産声が分娩室に響き渡る。 #twnovels

2016-05-22 20:21:21
夢乃 @iamdreamers

産科医は手早く臍の緒を切ると、一人の看護師に赤子を手渡す。 「はい、すぐに産湯を使ってあげて」 すぐにマユカの開かれた股に向き直る。 「はい、もう一人出ますからねー、はい、ふー、ふー、はー」 「ふー、ふー、はー」 あともう一頑張りと、マユカも気張る。 #twnovels

2016-05-22 20:21:47
夢乃 @iamdreamers

が、実のところ、マユカはそんなことを考えている余裕はなかった。とにかく早く出てきて! お願い! マユカの頭にあるのはそれだけだった。 「はい、息んでー」 産科医の声に合わせて下半身に力を込める。 「はい、もう少しよー、頑張ってー、はい、出たわよ」 #twnovels

2016-05-22 20:22:08
夢乃 @iamdreamers

一人目と同じように処理を行う。 「あら? この子は」 その言葉を最後に、マユカの意識は一度途切れた。 ━━━━━━━━━━━━━━━━ 長い間眠っていたような気がする。けれど、実際にはそれ程の時間は経っていないようだった。 #twnovels

2016-05-22 20:22:30
夢乃 @iamdreamers

脚は閉じられていて薄い毛布で包まれているが、自分が寝ているのは分娩室のベッドのままだ。 「桐紫路さん、気付かれましたね。ちょっと待ってくださいね」 看護師は手にしていたタブレットで何かを操作した。 「あ、あの、私の赤ちゃんは」 #twnovels

2016-05-22 20:22:49
夢乃 @iamdreamers

「大丈夫、すぐに逢えますよ」 その言葉に違わず、すぐに分娩室の扉が開いてマユカの二人の子供を取り上げたばかりの産科医が、その腕に一人の赤ん坊を抱いて入ってきた。看護師がベッドを操作してマユカの上半身を持ち上げた。産科医がその腕に赤ん坊を抱かせてくれる。 #twnovels

2016-05-22 20:23:11
夢乃 @iamdreamers

マユカは愛おしそうに我が子を抱いた。が、すぐに不審の目を産科医に向ける。 「あの・・・双子だったんですよ、ね?」 「ええ、そうよ。それで、落ち着いて聞いて欲しいんだけど」 その言葉にマユカは息を呑んだ。まさか・・・ 「後から産まれた子、男の子だったのよ」 #twnovels

2016-05-22 20:23:56
夢乃 @iamdreamers

「は?」 「あなたの子供、男の子だったの。だから、二三日中、遅くとも一週間のうちには男児育児施設に入ることになります」 「・・・」 「桐紫路さん? 大丈夫?」 「あ、はい、先生が深刻な顔するから死産だとか悪いこと考えちゃって。産まれたんですね。よかった」 #twnovels

2016-05-22 20:24:55
夢乃 @iamdreamers

産科医も、マユカが思っていたよりも落ち着いているようで、胸を撫で下ろした。 「それで、逢えないんですか?」 「え? えぇ。逢えるわよ。でも、すぐに別れることになるわよ。それが悲しくて、逢わないまま別れる人もいるけど、どうする?」 #twnovels

2016-05-22 20:25:54
夢乃 @iamdreamers

マユカは少しだけ考えただけで言った。 「私、別れる前に逢っておきたい」 マユカの目を見て、大丈夫と判断した産科医は、「解りました」と言うと看護師に目で合図する。看護師は頷いて部屋から出て行った。待つほどもなく再び扉が開く。 「はい、お母さんとお姉ちゃんですよ」 #twnovels

2016-05-22 20:27:37
夢乃 @iamdreamers

看護師がマユカにそっと男児を渡す。マユカは両腕で我が子を抱きしめた。 「そっか、男の子だったか。よく顔を見せてね」 マユカは愛おしそうに眠っている二人を見比べた。 「名前はどうする?」 産科医が聞いた。 「名前?」 「付けなければ、施設の人が付けてくれるけど」 #twnovels

2016-05-22 20:29:57
夢乃 @iamdreamers

名前。あの人との行為で授かった二人の子供のうち、一人が男の子だった。まるで、死んだあの人が生まれ変わったよう。生まれ変わりなら、あの人の名前をそのまま付けてあげたい。だけれど、名前を聞かなかった。あのときの刑事さんに聞けば判るかな。でも時間がない。 #twnovels

2016-05-22 20:30:31
夢乃 @iamdreamers

ううん。生まれ変わりだとしても別の人間。別の人格。同じ名前に拘る必要もない。よね。 あの人の遺した、新しいイのチ。 マユカは顔を上げ、産科医の目を真直ぐに見て言った。 「シンイチ。この子の名前はシンイチです」 #twnovels

2016-05-22 20:31:29
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