死体を売る#2 幸せの手◆1

疲れ果てたOLエルムラ。彼女は死体を売る仕事を続けていた。勤めて5年がたち、疲労は限界に達し、目的も何もかも見失いつつある。そんな中で、彼女は一つの光を見つける…… 全50ツイート予定。この話には残酷な表現が含まれます  最初↓ 続きを読む
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減衰世界 @decay_world

_死体を売る#2 幸せの手

2016-05-23 17:23:34
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_エルムラはゆっくりと首を回して部屋の様子を見る。薄暗い中で、覆面を被った男たちが立っている。 (どういうこと……私は何をされるの?)  朦朧とした頭にじわじわと危機感が浸透する。カチャカチャという何かの音が背後から聞こえた。 31

2016-05-23 17:31:12
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「だれか……」  舌が回らないが、それでも声を出す。誰も答えようとしなかった。手術服をきた覆面の男が目の前に立つ。 「誰も来ないし、誰も知らないし、誰も……」  聞き覚えのある声。上司だ。頭上に強い光が灯る。まるで手術室だ。 32

2016-05-23 17:39:38
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「ボス、何でこんなことを……」 「納期だよ」  無感情な声で告げる。ゴムの手袋をはめて、何かの機械を手に持つ。工具か何かにしか見えない。 「納期って、何の……」  ようやく、エルムラはこれから何が起こるのか察した。室温が一気に下がったように錯覚し、背筋が震える。 33

2016-05-23 17:44:53
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「脳の納入を遅れさせるわけにはいかない。死体を待つ余裕もない。足りない分は自前で用意する。それだけだ」  静かに、無感情に、まるでレストランのメニューでも読み上げるように言う。 「そんな! ふざけないで……」 「生意気なんだよ!」  一転、怒りを露にする上司。 34

2016-05-23 17:49:36
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「中途半端な仕事ばかりで、反抗的で、給料もらってるくせに……お前はいらないんだよ! なぁ!」  エルムラの首を掴み揺さぶる上司。椅子が揺れて倒れそうになったが、誰かが支えたようだ。エルムラの頭が真っ白になる。 (ああ、死ぬんだ、ここで) 35

2016-05-23 17:55:12
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_たくさんの思いが駆け抜けていく。真っ白になった頭を埋めるように、感情の奔流が心を突き破って頭を満たし、口を動かす。 「返せ……」  上司は工具のスイッチを入れる。ドリルが回転し、不愉快な駆動音を立てる。周りの男たちが、暴れるエルムラを抑えつけた。 36

2016-05-23 18:01:25
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「返せよ! 私の5年間を……私の努力を、私の時間を、私の……人生を! 私はこんな仕打ちを受けるために5年を支払ったんじゃない! 私は……私は幸せになりたいのに! お前らは私から幸せをむしり取って、私にはもう何も残っていない! 返せよ、幸せを、返せよおおお!!」 37

2016-05-23 18:05:55
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_エルムラの口は塞がれ、ドリルが頭蓋骨に穴をあける音が響く。くぐもった悲鳴は、やがて聞こえなくなった。 38

2016-05-23 18:11:56
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やぁ、ここにいたのか―― 39

2016-05-23 18:17:49
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_静かな場所に、柔らかい光が満ちている。 (幸せになりたいよね……)  声が聞こえる。少年だろうか、青年だろうか、捉えようのない声。 「幸せになりたいよ」 (なれるよ。たかが脳を失っただけじゃないか。さぁ、手を取って……)  そして、光に向かって手を……。 40

2016-05-23 18:24:28
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_死体を売る#2 幸せの手 ◆1終わり ◆2(最終話)へつづく

2016-05-23 18:25:40
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【用語解説】 【脳】 魂を格納する臓器である。素材として人気がある。魔法使いは一般市民の殺害が許されるので、その辺の市民を殺して奪った方が効率良さそうに思えるが、脳目当ての魔法殺人は一般的にズルイ行為であり、殺人するときは脳を回収しないルールがある。市民が勝手にやるのは大丈夫

2016-05-23 18:34:07