死体を売る#2 幸せの手◆2(終)

疲れ果てたOLエルムラ。彼女は死体を売る仕事を続けていた。勤めて5年がたち、疲労は限界に達し、目的も何もかも見失いつつある。そんな中で、彼女は一つの光を見つける…… 全50ツイート予定。この話には残酷な表現が含まれます  最初↓ 続きを読む
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減衰世界 @decay_world

_死体を売る#2 幸せの手

2016-05-24 20:10:40
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_教導院支所には今日も死体が運び込まれる。蘇生が必要なものと蘇生されない死体に選別され、蘇生を必要としない死体は魔法素材として高く売れる。 「ミクロメガス、予知の苦手な君が良い予感って珍しいね」  少年風の魔法使いが死体安置所で死体を見ながら隣の青年に話した。 41

2016-05-24 20:16:23
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「残念ながらハズレかもね……僕の会いたいひとは来てないみたいだ。オメガ、欲しい死体は遠慮なく言ってね」 「いいのですか、悪いですねぇ」 「君には十分な貸しがあるからね」  オメガと呼ばれた少年と、ミクロメガスと呼ばれた教導院職員。 42

2016-05-24 20:21:54
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死体はどれも内臓が抜き取られていた。骨髄や皮は魔力の旨みが少ない。 「どれもこれも手を付けられた後ですね」 「流通制限のせいさ……帝都の魔法使いは好き勝手やってるから」  ミクロメガスはオメガに死体一人分の分け前を約束した。ミクロメガス自身も死体一人分持って帰るつもりだ。 43

2016-05-24 20:26:39
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_しかし内臓が無い以上、どれを選んでも同じに思えた。 「ところで会いたいひとって?」 「たまに会ってた人さ。一目見たときから心の奥に感じるものがあった。声をかけるのは遅かったけど……ん?」  ミクロメガスは一つの死体に目を留める。女性の死体だ。 44

2016-05-24 20:32:08
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_死んだときのままの姿で運ばれてきたのだろう。頭が半球状に切り取られていて脳は無い。涙が渇いた跡がある頬、スーツ姿で漏らした跡。残酷な死を迎えたことを思わせる姿。 「やぁ、ここにいたのか」  そっと目を閉じてやるミクロメガス。 45

2016-05-24 20:36:19
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_彼はゆっくりと彼女を抱き上げると、背中に背負った。彼女の頭から脳漿の残滓が零れ落ち、ミクロメガスの頬に垂れる。  オメガはぎょっとした。よく知っている魔力の流れを彼から感じる。 「蘇生するつもりですか?」 「ああ。ただ脳が欠損しているから正常には蘇生できないね」 46

2016-05-24 20:40:06
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_ミクロメガスは死体を背負ったままゆっくりと彼女の手を握った。手の熱が次第に彼女の身体へと浸透していく。 「世界の副神、濁積の創造主たるベルベンダインに乞う。天の流れ、地の脈の中で安らいだ彼女の魂を再びこの地に戻さんことを」  蘇生はすぐに完了した。 47

2016-05-24 20:44:13
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「以前のように君の部下にするのですか? 今度はどこに惹かれたのですか」  オメガは不思議そうだったが、ミクロメガスは何にも特別なことはしていないつもりだった。 「大きな感情を見つけた……それは凄い力なんだ。感情の意力は運命を捻じ曲げる。運命と戦う力だ」 48

2016-05-24 20:49:43
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_オメガは不思議そうな顔で話を聞きながら、死体を選別していた。ミクロメガスは死体を背中から下ろし、まるでダンスを踊るように抱きかかえる。死体の首が横を向いてだらりと垂れさがった。 「そして、僕と似たような願いを持っているひとが気が合うんじゃないかって、そう思うんだ」 49

2016-05-24 20:54:22
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「し、しあわせに……」  脳が空っぽのまま蘇生し、機械のように無感情な声を上げる元死体。ミクロメガスは自分のターバンを外し、切り取られたままの彼女の頭を隠してやった。 「そう、幸せになれるよ。いまからでも遅くないさ。僕のところで働かないかい?」 50

2016-05-24 20:57:52
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【用語解説】 【感情】 魂が震える現象。その波が魔力の粒子に作用して、魔法が構築され、術者の望み通りに発揮される。そのため魔法と感情は古来より切り離せない関係にある。科学文明によって疑似的に感情の波を発生させるなどの研究が進んだが、結局は人間の意力に勝るものは生まれなかった

2016-05-24 21:04:09
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【次回予告】 小国の国王が革命で処刑された。父王が最後に言った「我が人生に悔いなどない!」その言葉がいつまでも心に引っかかっていた王子。 国を追放された彼は悔いなき人生のために、竜を倒すことを決意していた。 次回「放浪王子の竜退治」 全50ツイート予定 #減衰世界

2016-05-24 21:11:04