- tasobussharima1
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世界は、皮肉に満ちている。最期まで足掻こう。ようやくそう決めた瞬間にはもう、万策尽きかけていたのだから。 二人の足下の地面で、蓮の花が咲き始めている。光の粒子が混ざった心地よい風が駆け抜けていく。 徳エネルギーフィールドという骨組みを失った膨大な徳エネルギーが流出を始めている。
2016-05-24 21:04:05何もしないよりマシ、というただそれだけの理由で『マロ』とヤオは予備の徳ジェネレータを通信機へ接続する作業をしていた。 残された時間は、もう無い。『マロ』の笏型端末に表示されたカウントダウンはとうにプラスに振り切っている。 「船団」と連絡が付いたとして、それで何が出来るのか。
2016-05-24 21:08:03いや……そもそも。今の状況で、連絡が可能なのか。 わからない。だが、何もしなければ可能性は零のままだ。そんな耳障りの良い言葉だけが、支えだったのかもしれない。 「……本当は、もっと前に打ち明ける積もりだったでおじゃる」 手を動かしながら、『マロ』は呟く。それは、嘘だ。
2016-05-24 21:12:04もともとタイムリミットが来たら通信が効かなくなるっていう分かりやすい状況だから今通信が通る可能性はほとんどないんだろうなぁ #徳パンク
2016-05-24 21:14:09彼には、己の素性を打ち明ける積もりなど無かった。その方が良いとすら思っていた。 「気にしないで」 彼女は『マロ』にとって、只の暇潰し程度の存在だったのだから。 「…………」 「どうして黙るの!?」 ならばどうして、彼の心はこうも痛むのか。何かが変わったのか。何かを思い出したのか。
2016-05-24 21:16:02彼の平穏は失われた。ならば、その後には何が残るのか。 「麿は、死ぬ積もりでおじゃった」 唯一無二の秘密を打ち明けてしまったことが引き金となったのか。思わず吐いてしまった嘘に、彼自身が耐えかねたのか。
2016-05-24 21:20:03それとも、「どの道これで終わりだ」という、彼の中のどこかに変わらず巣食う諦観が、口を軽くしたのか。 「……でも、今はそう思ってない、んでしょう?」 「……そう、でおじゃるな」 諦めはすまい。だが、その言葉もまた、何処まで本当なのか。彼には、分からない。
2016-05-24 21:24:02不死の諦観は、一朝一夕で拭い去れるものでは決して無い。限りある生者が輝けば輝く程、尊ければ尊い程に、彼の中の闇はまた濃くなる。 それもまた、彼の中の真実だ。 「……ちょっと、ジェネレータの中に入っていて欲しいでおじゃる」 「……うん」 ヤオもまた、何かを感じ取ったのか。
2016-05-24 21:28:01…徳ジェネレータって、中が一番高濃度な徳エネルギー場になるようになってる訳で徳エネルギーに対して相当頑丈だよな…? #徳パンク
2016-05-24 21:30:40言葉少なに、予備ジェネレータの中へと入っていく。『マロ』と共に、集落を守るため奮闘してきた彼女の徳はかなりの高さの筈だ。それに『マロ』自身が動力源となった場合、また色々とややこしい事態が起こる可能性もある。 ジェネレータの起動を確認し、彼は通信機を再起動する。
2016-05-24 21:32:10