時限式殺害トリック

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めいあん @meian___

@_10______ 「20日?」すごく間抜けな声で訊き返したものだと振り返ると思う。「そう、20日間、新大陸航路途中の島の安全確認の人員に駆り出されたんだよね。さすがにこの手の仕事だから、優秀な人手が欲しいって」両手で頭を抱えながら、ドンくんはソファに寄りかかった。

2016-06-01 00:00:07
めいあん @meian___

@_10______ 「ぼ、僕も行きたい!20日なんて長すぎるし、僕だって一応」「それがこの仕事、黒渦団のものに限るというメルウィブ提督の直々の仰せなんだよね。提督としては自分のシマで、今後莫大な収益が見込めるかもしれないことに対して、他からの人間を入れたくないわけだ」

2016-06-01 00:02:13
めいあん @meian___

@_10______ 「本当なら冒険者を採用するのも気兼ねするようなんだけど。そういうわけで、人員について掛け合うのは難しいだろうね」「そんな、……」半泣きの僕を見て、ドンくんはやさしく目を細めて笑った。「……大丈夫。俺は死なないし、ちょっとだけ一緒にいれなくなるだけだ」

2016-06-01 00:04:06
めいあん @meian___

@_10______ 「テンちゃん。どうしてドンくんを見送らなかったの」使用人からアップルジュースを受け取りながら、ヴァーユくんは訊ねた。僕はというと、それに応える元気もなかった。手渡されたグラスはよく冷えていた。「ドンくんだって寂しい思いをする20日間なんだから」

2016-06-02 00:00:07
めいあん @meian___

@_10______ 「……わかってる。でも、あんまり急で。僕はついていけないって言われたら、お仕事として仕方なくても、置いてかれたみたいに感じちゃった」「うん」「……。ばかだなあ、僕……」ドンくんにちょっとでも笑顔を見せたら、僕のことを旅路で思い出してくれたろうに。

2016-06-02 00:02:17
めいあん @meian___

@_10______ 20日間、最後にドンくんが見た僕は、部屋に閉じこもって返事もしない、扉の姿なのだと思うと、不甲斐なさで胸が詰まった。「彼女失格だ……」テーブルに頭をつけて呻くと、ヴァーユくんはくすくす笑って、アップルジュースを一飲みした。

2016-06-02 00:04:03
めいあん @meian___

@_10______ 「まあ、俺もヌンさんに同じように言われたら、同じように拗ねるかも。人のこと言えないね」「……ヴァーユくん」「無性にさみしいのは当然だよ。でも、ヌンさんは絶対帰ってくるし、ヌンさんが帰ってきた時に、負けないくらい思い出話ができるように暮らしたいなって思うよ」

2016-06-02 00:06:09
noon🐥 @noonworks

テンさんが刺されてるのを横から見て笑ってようかと思ってたら私も刺されていたので挿し絵をかきました ♯刺し絵 pic.twitter.com/EmGFyaBgQb

2016-06-02 02:34:27
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めいあん @meian___

@_10______ 「今日もマーシャルハルバードを探すぞー!」「探すぞー!」吹雪の中、ダスクヴィジルに向かう内心はそれでも昨日よりずっと晴れやかだった。「くりぃーー!とっきめー!えーえー!」すこし調子外れのクェリちゃんの歌が可笑しくて、グリフィンのあたたかな背中で笑いを堪えた。

2016-06-03 00:00:09
めいあん @meian___

@_10______ 「テンちゃん、もう気分はいいの?」「大丈夫。いくらだって敵も倒せる」「頼りにしてるよ、テンちゃんの歌があってこその戦場だって最近思うんだよね」ばさ、と一つ大きく羽ばたいてのち、僕とクェリちゃんのグリフィンは下降。ダスクヴィジルの威容が眼前に迫ってくる。

2016-06-03 00:02:20
めいあん @meian___

@_10______ 着地。もう手馴れたものだ。集合場所にはすでに、今日一緒に道中を歩いてくれる戦士さんと学者さんがいた。戦士さんはアウラ族だったのだけど、背丈の高いのと黒髪なのとで一瞬僕は口を開けて彼の名前を呼びそうになり、横からクェリちゃんに魚の焼いたのを突っ込まれた。

2016-06-03 00:04:05
めいあん @meian___

@_10______ 「もがっ」「ご飯しっかり食べて、ね!」戦士さんと学者さんは僕の、魚でいっぱいの口の中をどうにかしようとしてる顔を見てひとしきり笑い、僕たち4人はすぐに打ち解けて喋り始めた。今まで行ったところ、好きな友のこと、帰る家のこと。他愛もない話だった。他愛もない。

2016-06-03 00:06:11
めいあん @meian___

@_10______ 最近クェリちゃんにはいろんなものを貰いすぎているので、多少お返しをしたい。と、モミジくんに相談したら、なぜか無言で作業着と釣り竿を手渡された。「低地ドラヴァニアに」なぜなのか。低地はよく晴れていて、碧いサリャク河が地平の向こうまで伸び、空と交わっていた。

2016-06-04 00:00:09
めいあん @meian___

@_10______ 「このへんでいいでしょうか」知神の水瓶を目前に据えた河岸でモミジくんは腰を下ろした。「さて。釣りましょう」「あの、相談のことは」「とりあえず釣りながら考えましょう」モミジくんはさっとサングラスを掛けると、手早く釣り針にゴブリンジグを括りつけて投げ込んだ。

2016-06-04 00:02:11
めいあん @meian___

@_10______ そのまま無言でリールを手繰りはじめたので、僕も仕方なくそれに倣った。河の水は、三国の側のどこにもない不思議な色合いで陽の光を受け止めている。霊三月にしては少し涼しい風。思えば最近はずっと探索ばかりしていたのだった。そういえば最初にここに来たときは――

2016-06-04 00:04:06
めいあん @meian___

@_10______ 「引いてますよ」「わっ!えっ、あっと」モミジくんに不意に呼ばれて慌ててリールを巻く。アタリの正体は、透明感のある薄桃色の、美しい二枚貝だった。「わー……!」「学士貝ですね。……幸運の象徴であると、シャーレアンではよく言ったそうです」「幸運の。……そうだ」

2016-06-04 00:06:12
めいあん @meian___

@_10______ 「これ、クェリちゃんへの耳飾りにしたら、喜んでくれるかな?」モミジくんは珍しく破顔した。「いいかもしれません。思わぬ収穫ですね」「やった!」掌の上の学士貝は、その小ささに反して、とても存在感があった。なるほど幸福の存在感なのかもしれなかった。

2016-06-04 00:08:05
めいあん @meian___

@_10______ 朝一番のモグレターは、案の定クェリちゃんだった。私服に使う普段着けの耳飾りが丁度壊れていたとのことで、それは僕の想像をはるかに超える喜びようだった。夕方くらいにこちらに来たいとも書いてあったので、今日はキョート城で夕食を一緒に食べようと決めた。

2016-06-05 00:00:09
めいあん @meian___

@_10______ そこにノックの音が聞こえた。「テン、いるかい?」「あっ、タンドさん」珍しい来訪に僕は少し驚いた。「ちょっとパラドの野郎が、新しい斧の慣らしをしたいからって、私に手合わせを願ってきたんだけど。2人でやっても締まりがないんで、観客になってもらえないかな」

2016-06-05 00:02:12