- tasobussharima1
- 873
- 3
- 0
- 0
嘗てこの国には、一億もの人間が暮らしていたのだという。 そんなに居たら息が詰まってしまいそうだと僕などは思うのだけれど、昔の人たちはそれで何とかやっていたようだ。 人類の衰退は、この国から始まったのだという人もいる。それは僕が生まれるよりも、ずっとずっと昔の話だ。
2016-06-03 21:08:05人口減しても尚徳爆発を起こすだけの… そんな社会の方が余程息の詰まる思いをしそうだけれど、常識感覚ってのはそういうもんだわな #徳パンク
2016-06-03 21:10:17今。嘗ての数分の一以下にまで縮み、お年寄りばかりになった挙げ句、経済活動の大半を機械に丸投げしたこの国で。最も貴重なのは人的資源だ。 とりわけ若い人材は何よりも貴重。だから、僕達は戦略的に運用される。 国家戦略人材養成プロジェクト。およそ碌でもない名前そのままの、碌でもない計画。
2016-06-03 21:12:05若い人材に適切な環境と投資を与え、世界的に有用なエリート人材を育成する。 題目は立派だが、つまりは国家の力で親から養育権を取り上げるということに他ならない。最低な話だ。しかも輪をかけて最低なことに、僕の両親はお金で僕を売り飛ばしたらしい。 僕と彼女は、そんな最低の場所で出会った。
2016-06-03 21:16:04「こんなところで、何をしてるんですか?」 初対面の時の印象は、『邪魔な女』だった。僕は玩具代わりに与えられた量子コンピュータを弄くり回すのに忙しかったし、そんな時に声をかけてくる彼女は邪魔者以外の何物でもなかった。 それだけで僕は、彼女は変わった人間だと思った。
2016-06-03 21:20:03玩具代わりに量子コンピュータを与える時代か……いやまぁ今で言うタブレットぐらいのノリなのかも知れないけど #徳パンク
2016-06-03 21:23:16この『学校』で、他人に話しかける生徒は珍しい。大抵は自分の教育プログラムに忙しいし、同じ年頃同士、同じギフテッド同士といっても特性はバラバラで話はぜんぜん合わない。 だからこのときも僕は無視した。どうせ彼女は何かの気紛れで話しかけているだけなのだろうし、すぐに飽きると思っていた。
2016-06-03 21:24:03ギフテッド……先天的な天才児か。まぁ国家主義的に人材育成しようとするとそういう方向性になるのか #徳パンク
2016-06-03 21:27:30「うーん、じゃあ、勝負しませんか?」 計算外だったのは、彼女がそんな話題を振ってきたことだった。 「……勝負?」 僕は、思わず顔を上げた。勝負というのは、つまるところ自らの性能の誇示だ。自他共に認める優秀な才能や技能を持つ僕らにとって、勝負とは勝って当たり前のものだからだ。
2016-06-03 21:28:04顔を上げた先に居たのは、2~3歳くらい年上の女の子だった。青色の髪。黄色い瞳。その全てが、彼女が『人工物』であることを物語っていた。 僕のような『天然物』ではない、体のあちこちを遺伝子レベルで改造された人間。別段、珍しくもなかった。 「方法は、そっちで決めて構いませんよ?」
2016-06-03 21:32:10