ライズ・アゲンスト・ザ・テンペスト #3

ネオサイタマ電脳IRC空間 http://ninjaheads.hatenablog.jp/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

【ライズ・アゲンスト・ザ・テンペスト】#3

2016-06-04 13:53:50
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

(あらすじ:ニンジャスレイヤーに兄である邪悪なニンジャ、スキールニルを殺害されたティーネイジャーのヤブハチは、その数年後、ニンジャスレイヤーの命を狙う復讐のニンジャ、アルビオンとなっていた。ソウカイヤの残党、ナンバーテンが彼の師である)

2016-06-04 13:55:10
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

(ナンバーテンのインストラクションを受け、アマクダリ・セクトに入ったアルビオンに機が巡ってきた。彼は岡山県にニンジャスレイヤーを求める。折しもニンジャスレイヤーはアマクダリの頂点に立つ現人神、ゼウス・ニンジャ憑依者アガメムノンが用いる神の雷をヌンチャクで跳ね返す修行に臨んでいた)

2016-06-04 13:59:19
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「コク。あるいはキョム」闇の茶室の中で、向い合ってアグラするナンバーテンは掌を上向け、謎めいて掲げる。「お前に叩き込んだカラテは復讐のカラテ。それは最終のヒサツ・ワザ習得の為の準備でもある。ニンジャスレイヤーを殺すヒサツ・ワザをだ」アルビオンは師の掌をまばたき一つせず見つめる。

2016-06-04 14:03:41
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

茶室に灯りは無い。風も無い。ただ沈黙と闇が師弟を囲んでいた。アルビオンは目を見張った。ナンバーテンの掌の上、何かが宙を蠢いた。それは闇よりなお暗いものであった。「コク、あるいはキョム。ネガティヴの力だ。これを操るニンジャは現代にも何人か存在する。ザイバツにも。アマクダリにもな」

2016-06-04 14:09:32
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「触ってみろ」「……」アルビオンは手を伸ばした。質量がある。「これは」「うまそうか」ナンバーテンはグルグルと喉を鳴らして笑った。「火や光や熱に触れることはできん。だが、コクはそうした事象のものではない。我々の世界と関わりが遠いがゆえに、物質的に干渉する。コク・トンはこれを操る」

2016-06-04 14:17:57
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「アンタは、どこでこんなものを覚えた」「ニンジャソウルがもたらした。それだけよ」ナンバーテンは凄みのある目で見返した。「ただのクジ引きだ。だが、扱いを知れば、どうという事はない。未開人にとって自転車は魔法だ。だが死を覚悟して自転車でコケシマートに通っておる現代人はおらんだろう」

2016-06-04 14:23:21
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ナンバーテンはゆっくりと手を戻した。キョムは宙に留まった。アルビオンは注意深くそれを抱えるように引き寄せる。「世界を裏返し、こいつを引きずり出す。それを捏ねて武器にする。コツをつかめば、どうという事はない。キョムは泥のようにありふれた、つまらんものだ。これがお前の武器だ」

2016-06-04 14:28:08
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

アルビオンはおのれの骨髄の軋みを聴き、心臓の悲鳴を聴いている。脂汗が噴き出す。キョムがアルビオンの五臓六腑を害している。在ってはならないものだ!「グワーッ!」アルビオンは悲鳴を上げた。「落とすなよ!落とせばインストラクションは終わりだ。見込みなしだ。お前はカラテを鍛えた。耐えろ」

2016-06-04 14:32:20
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「グワーッ!」「何のために鍛えてきた!小僧!」ナンバーテンの目が爛々と輝いた。灰を掻き混ぜ、死んだ石炭に再び火を熾したかのような目だった。「何のためにだ!」「ふ、復讐、グワーッ!」「そうだ!復讐だ!お前はニンジャスレイヤーを殺す!」「兄を……兄を殺した憎き敵!」「ならば耐えろ!」

2016-06-04 14:34:47
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「グワーッ!」「モノにしろ!コク・トンを!お前は若い。燃料にする命の余剰が俺より存分に多い。そうとなれば簡単なジツだ。石を投げるように簡単だ!お前は何のために生きてきた!」「ふ、復讐だ」命乞いを受け入れられず殺害された兄。赤黒の死神はオシイレの中に気づいていた。捨ておいたのだ。

2016-06-04 14:39:44
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「奴を殺さねば俺は始まらない。奴を殺さねば俺は終われないのだ!」アルビオンは唸った。掌の上で不定形のキョムがめまぐるしく形を変えた。「AAARGH!」座するタタミが放射状に爆ぜた。アルビオンは立ち上がり、背後のタヌキ陶磁器めがけ、バチバチと音鳴らす右手を振りぬいた。「イヤーッ!」

2016-06-04 14:44:55
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

KABOOM!巨大なクナイめいた形状に練り上げられたキョムはタヌキ陶磁器を粉々に破砕し、粒子状に分解して、そのまま消失した。「カーッハハハ!」ナンバーテンがアグラしたまま呵々大笑した。「その感覚を決して忘れるな!モノにせよ!これぞメツレツ・ジツ!お前が依って立つヒサツ・ワザだ!」

2016-06-04 14:47:31
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「メツレツ!」アルビオンは叫んだ。「必ず殺す!奴を!」「殺して、そして?」不意にナンバーテンが低く尋ねた。アルビオンは振り向いた。彼は無造作に答えた。「セプクして、この世をサラバだ」「……」ナンバーテンは値踏みするように弟子を見た。「ま、どうあろうと死ぬならば、勝ちは決まりだな」

2016-06-04 14:56:03
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

その日は朝から雪が降っていたが、出発を遅らせる程ではない。なによりアルビオンはニンジャなのだ。「マサシの悟り」の軒先、復讐鬼は長椅子に座り、微動だにする事がない。粒のような雪が背や肩に触れると、それらは瞬時に白い蒸気と化し、溶けて消える。やがてカラカサが雪を遮る。ヌノメだった。

2016-06-04 15:09:09
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「じき、ラマ屋が来ます」ヌノメは静かに言った。首筋や鎖骨のあたりに残る痣が見えた。アルビオンは嗜虐心に再び火がつく己を感じた。欲がまだあるのだ。生きる力が。よいことだと思った。死ぬのは敵を殺した後の事なのだから。「わざわざ送り出しに来るとはな」「はい」ヌノメは目を伏せて頷いた。

2016-06-04 15:19:38
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「もう戻れ」アルビオンは言った。「いいえ」ヌノメは首を振った。アルビオンは息を吐き、腕組みして、ラマ屋を待った。白い雪と01のノイズが舞う中、それはおそらく五分にも満たなかったことだろう。やがてラマ屋が、ゆっくりとラマを引いてきた。アルビオンは立ち上がり、カラカサの陰を出た。

2016-06-04 15:25:36
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「オタッシャデ」ヌノメがオジギをした。アルビオンはラマを駆り、山道を出発した。微かな雪、イラクサ、砂利、断崖。ネオサイタマから遠く離れ、広告ネオンすらもなく、ただ峻厳な自然が彼を導く。それでも頭上には黄金の立方体が超然と浮かび、ネオサイタマと変わらぬ冷たい光を投げかけるのだった。

2016-06-04 15:34:36
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

標高を上がるにつれて、空にかかる雲は厚みを増し、雪と風は強まった。風穴洞にたどり着くと、アルビオンはしばしアグラ・メディテーションを行い、己のセイシンテキを研ぎ澄ませた。キョムの手触りをニューロンに塗り重ね、生み出し、消す。メツレツ・ジツ修得の後も一日たりとも欠かさない日課だ。

2016-06-04 15:41:29
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

当初はキョムを捧げ持つだけで心臓の不規則な動悸が収まらず、血の咳と倦怠感を伴った。ニンジャ筋力もみるみるうちに減衰した。そのまま死ぬ事もおそらくあり得ただろう。アルビオンはそうした試練を越えた。拒絶反応は徐々に許容できる程度におさまり、キョムを引き出す為に要する時間も短くなった。

2016-06-04 15:48:25
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

今の彼は生涯もっとも鋭敏に研ぎ澄まされている。ニンジャ自律神経がそれを伝えてくる。アルビオンは宙に浮かぶキョムを圧縮し、潰して消す。ラマが悲しげにアルビオンを見る。己を待つ運命を知る動物の目だ。アルビオンはラマの首を捻って殺し、心臓を生のままに食らった。そして彼は風穴洞を出た。

2016-06-04 15:51:53
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

DOOOM……KA-DOOM……断崖を登るアルビオンの背を白黒に切り取るのは、空を荒らす稲妻の光だ。アルビオンはただ黙々と登り続けた。断崖の凹凸を指先が捉え、身体を引き上げる、その動作ひとつひとつが、闇に向かって伸びる復讐の階段の一段一段だ。その先にあるのは絞首台か、あるいは。

2016-06-04 15:59:01
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

KRA-TOOOOOOM!断崖から身体を引き上げ、仰向けに転がった彼が見上げる空を、ひときわ激しく強い稲妻の光が駆け抜けた。アルビオンは吸い寄せられるように稲妻の根本を見た。ドラゴン・シュラインの更にその先、切り立った峰の上、ニンジャの影が浮かび上がった。死神の影が。

2016-06-04 16:01:21