若き名将と罠を張る女#1 決戦前夜◆1
_都市国家ギェスには希代の知将が存在し、ギェスを幾度となく勝利に導いた。彼は見た目麗しい青年であり、若くしてその才能を発揮し、北方の異民族を退けてきた。そんな将軍の傍にいつも控え、支えてきたのが女官のフレイメアであった。 今日もギェスには戦車が凱旋する。 1
2016-06-11 18:56:39「ありがとうございます、セリル将軍」 フレイメアは将軍の隣に座っていた。黒い服を着て、顔にはヴェールを被っている。個性は主張しない女官の制服だ。 セリル将軍は車の後部座席に座り、群衆に向かって手を振る。彼の車を囲む戦車。 「どうしたフレイメア、礼なんか言って」 2
2016-06-11 19:02:00「これほどの勝利、セリル将軍でなければなしえなかったでしょう」 セリル将軍は野戦での部隊指揮に天賦の才能を持っていた。先日は北方の魔法使いたちを撹乱し、大損害を与えたうえで後方の砦まで撤退させた。 凱旋パレードはやがて要塞に戻り、セリルは自室でようやくくつろぐ。 3
2016-06-11 19:07:12_フレイメアは言われなくともグラスとワインボトルを用意し、ヴェールの奥で優しく微笑みかけた。 「勝利の記念に、ワインを開けませんか?」 「ああ、ありがとう……ただ、飲みすぎないようにしなくてはね……最近酔うのがやけに早いんだ」 「お疲れになっているせいですよ、きっと」 4
2016-06-11 19:12:18_封を切られ、グラスに注がれるワイン。セリル将軍はゆっくりとワインを飲んだ。すぐにめまいを覚えて顔を伏せる。吐きはしない。 「ダメだ……酒の強さには自信があったのに」 「勝ちすぎて毎回お酒を召しているせいかしら、今日はお休みになられては?」 「ありがとう、そうするよ」 5
2016-06-11 19:18:41「いつも感謝している。君がいなければ勝てない戦いだった」 「そんな……私をあまり褒めると奥様に悪いですよ」 「ハハ、あいつの嫉妬深さはお前も知っていたな……」 そして自宅へと帰っていくセリル将軍。フレイメアはその後姿をいつまでも見送っていた。 6
2016-06-11 19:24:57_一方、撃退させられた北方のインペリアル人の陣営は悲惨だった。戦車の砲撃を受け手足を失った者、銃撃を受け高熱を出しているもの……魔法による防御をもってしても、防ぎきれない損害を受けた兵士たちが防衛陣地のそこらじゅうに横たわる。 蠅を追い払って現れたのは麗しい女魔法使い。 7
2016-06-11 19:29:34_血なまぐさい戦場に似合わない妖婦だ。下着すらまとわぬ全裸に、暗い赤のマントを羽織っている。目は爛々と輝き、魔力の風によってマントは常に揺れ動く。 惨状を視察していた中年の司令官が彼女に気付き、嫌味を言った。 「噂に聞く戦闘魔術師の力をもってしても、この程度か」 8
2016-06-11 19:35:45「お言葉ですが、正面からぶつかって勝てない相手にはどう頑張っても正面からでは勝てません」 戦闘魔術師……裸になることで、空気中に存在する魔力を全身から皮膚呼吸し、常識では計り知れない魔力を扱うことを可能にした魔術流派。 9
2016-06-11 19:40:27「閣下はわたくしの魔法で敵を吹き飛ばすことをご所望で? 残念ながら戦闘魔術は殴り合うことだけが全てではございません。作戦の指揮をわたくしに任せてください」 「敗戦の責任は俺にもある。次は全て任せよう、期待するぞ」 それを聞いた妖婦……ギリは目を一層強く光らせたのだった。 10
2016-06-11 19:45:47【用語解説】 【戦闘魔術師】 空気中の魔力は微量であり、各魔術流派は苦労してこれを利用しようと試みた。呼吸法を改善する。全力で移動して集める。予め魔力を集めておく。諦めて裸足で大地から吸収する。戦闘魔術師は、男女とも裸で全身から皮膚呼吸する。映像媒体ではパンツをはかせよう
2016-06-11 19:51:44