ダンジョン儲かってますか?#1 少女のお店◆3
_ダンジョン内商店のプロと自称するその男、クレンツ。それにしては無精髭の粗野な男にしか見えないが、業界人というのはそういう物なのだろうかとレェラは思うことにした。クレンツは真剣な目で彼女の店を分析する。 「なるほどなァ、初心者が陥りやすいミスだ」 21
2016-06-19 19:46:35_遺跡の床に絨毯を敷き、商品を並べる露天商スタイル。レェラにはどこが悪いか分からなかったが、クレンツはにやりと笑って無精髭を撫でた。 「まず、パッと見でこの店には二つの弱点があるなァ」 「教えてください……弱点が何なのか」 ごくりと息をのむレェラ。 22
2016-06-19 19:51:34「まずひとつ、この店のコンセプトが見当たらない。そしてもう一つは、目玉商品が無いということだ。一つずつ説明してやるよォ」 クレンツは並べられた商品を一つずつチェックする。 「これは武器だ。これは防具。これは魔法の素材だなァ。これは消耗品……これは冒険道具だな」 23
2016-06-19 19:59:12「品揃えの良さは確かに重要だ。けれどもよォ、それならもっと品揃えのいい大きな店にみんな行くんじゃねぇか? この店じゃなくちゃダメだ、アレが必要だからこの店に行こう。そういう動機を引き起こすんだ。そのために君がこの店でお客に何を提供したいか考えろ」 「勉強になります!」 24
2016-06-19 20:07:11「これでコンセプトの重要性が分かったな? 次は目玉商品について……ただ、便利な店だけじゃァお客を呼び込むには弱い。目を引く、誰もが驚くような、この店にしかないサプライズを用意するんだ」 「サプライズですか……」 クレンツの言う通り、どこでも手に入りそうな商品ばかりだ。 25
2016-06-19 20:13:00_しかし、レェラはいままで全力で店を頑張ってきた。そこから先は小手先の苦労などではどうしようもないものばかりだ。 「どうすればいいんでしょう……売れるコンセプトも分からないし、目玉商品なんて用意するつても……」 「三流ご意見番なら『自分で考えろ』だろうな」 26
2016-06-19 20:17:19_クレンツはにやりと笑った。 「それを教えるのが俺の仕事だヨ。まァ、安心しな。この店は雰囲気がいい。けれども、それを邪魔する商品が多い。そうだな……この店は街の雑貨屋だ。雑貨屋に武具防具類はいらないし、泥臭い冒険道具も似合わないナ。便利な消耗品や素材に的を絞るといい」 27
2016-06-19 20:22:19_レェラはすかさずメモをする。クレンツは細かく解説を続けた。 「武具防具類は命に直結する分高品質なものが求められる。こういう小さな店では買わないもんだ。そして冒険道具に必要なのも信頼性。まァ、こんな店では買わない。素材や消耗品なら安かろう悪かろうが通じる」 28
2016-06-19 20:27:49「次に目玉商品だが……安売りしても資本力の勝る店に客を奪われるのは必至なんだなァ。ここでしか買えない物は絶対に必要だ。そして、俺には思い当たる物がある……お前、魔法をケチって浅いところしか行ってないだろォ」 確かにレェラはダンジョンの深層へ足を踏み入れたことはない。 29
2016-06-19 20:34:36「何をこの店先に並べるというの……?」 「早速取りに行こうぜ。目玉商品をよォ。でも、お前の戦力じゃァ、まァ、無理だな」 それを言われると辛い。レェラは戦いができない。 「ここからが本当のビジネスだ。俺を今日だけ雇うんだ。一緒に行ってやるよ……追加料金でな!」 30
2016-06-19 20:40:35【用語解説】 【雑貨類】 一見ゴミのようなものでも、意外な利用価値があり、魔法使いは日夜雑貨類を探している。というのも、ダンジョンに生成される雑貨類の中には、魔法の作製に必要なコードが隠されていることがあるからだ。このコードは神の頭の中にある、世界の法を捻じ曲げる秘密である
2016-06-19 20:45:05