「官邸が炉心溶融を隠そうとした」説の矛盾点と、もうひとつの可能性

「官邸が炉心溶融を隠そうとした」説がありますが…

疑惑①：「官邸が、炉心溶融発言をした中村審議官を更迭した」説
週刊ポスト2011年4月1日号によって発信(ネット掲載は3月20日)

疑惑②：「官邸が、"炉心溶融"使うなと東電に指示した」説
東電第三者委員会 検証結果報告書によって2016年6月16日に発信

官邸はなんのためらいもなく炉心溶融の可能性を肯定していました

炉心溶融発言が原因で中村審議官が更迭されたと言われている3月12日以降も、炉心溶融という言葉を使わないように官邸から指示されたと言われている3月14日20時40分以降も、官邸の一員である枝野官房長官が「炉心溶融」という言葉を使ったり、炉心溶融の可能性を認めたりしています。

「炉心溶融」をめぐる時系列
「官邸が炉心溶融を隠そうとした」説だと、★★★部分の事実が存在することと辻褄が合いません。

3/12 14:00 疑惑①：保安院・中村審議官、炉心溶融の可能性があることを説明する。
3/12 17:50 疑惑①：保安院・中村審議官が広報を担当したのはここまで。
3/12 夜    　　　：東電・小森氏、「炉心溶融」という言葉を避ける。
3/13 11:00 ★★★：官邸・枝野氏、炉心溶融の可能性を認める。
3/14 10:55 ★★★：官邸・枝野氏、「炉心溶融」という言葉を使う。
3/14 20:40 疑惑②：東電・武藤氏、「炉心溶融使うな」とのメモを受け取る。
3/14 21:03 ★★★：官邸・枝野氏、炉心溶融の可能性を認める。

3/20 週刊ポスト、中村審議官更迭説を流す。
4/05 保安院・中村審議官、IAEA会合に出席。

なお、ソースは下の方に置いておきます。

「育児は親の責任」と言っていた人に隠し子がいたという話と同じくらい、矛盾した話です。

国会事故調報告書

「官邸が炉心溶融を隠そうとした」説は、国会事故調報告書でもはっきりと否定されています。

国会事故調報告書(P.341-342)
http://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/3856371/naiic.go.jp/report/

“3月13日に、枝野官房長官自身が記者会見で炉心溶融の可能性について肯定していることから、官邸は「炉心溶融」という表現自体に異を唱えたものとは思われない。”

中村審議官本人の証言

ご本人は自ら願い出ての交代だったと証言しています。

事故翌日「スリーマイル超える」　震災当初の保安院広報　中村幸一郎審議官 - 東京新聞
http://www.tokyo-np.co.jp/article/feature/nucerror/list/CK2012022202100005.html

“溶融発言によって交代させられたと受け取られてきたが、中村氏は(中略)自ら願い出ての交代だったと強調した。”

もうひとつの可能性…

「東電の意向で保安院が中村審議官を更迭した」

あくまで憶測です。決して断定はしていません。
具体的な証拠は何もありませんが、少なくとも「官邸が炉心溶融を隠そうとした」説のような矛盾点はないはずです。

参考情報：保安院は「事業者の虜」
国会事故調報告書
http://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/3856371/naiic.go.jp/report/

“東電は、現実に起こり得るリスクに対応するよりも、規制庁を「虜（とりこ）」とし、規制自体をコントロールすることで、自らの責任を回避してきた。”
“本事故の原因が適切に対処されず、長期間放置された背景には、このような、電気事業者と規制側の不健全な関係（「虜の構造」）があったことは明らかであろう。”

参考情報：民主党が東電のスケープゴートに仕立て上げられた実例
海水注入中断デマも、実際は東電の仕業だったものが官邸の仕業だと喧伝されたパターンでした。

官邸はなんのためらいもなく炉心溶融の可能性を肯定した

枝野官房長官記者会見 3月13日11時すぎ
炉心溶融発言が原因で中村審議官が更迭されたと言われている3月12日よりも後です。
http://www.asahi.com/special/10005/TKY201103130091.html

質問者「１号機の炉心の溶融は起きたという認識か。」
枝野氏「これは十分可能性がある」

【この会見を受けた記事】
「3号機の炉心溶融も想定して対応中」、枝野官房長官 - AFP
http://www.afpbb.com/articles/-/2790103?act=all

枝野官房長官記者会見 3月14日10時55分
http://www.asahi.com/special/10005/TKY201103140202.html

質問者「１号機については炉心溶融が続いているのか」
枝野氏「水にしっかりと浸されていて、炉心溶融が進んでいないという状況。」(注)

(注:海水注入によって悪化を食い止めているという意味であり、炉心溶融が起こったことを否定するものではありません。)

枝野官房長官記者会見 3月14日21時03分
東電が炉心溶融という言葉を使わないように官邸から指示されたと言われている3月14日20時40分よりも後です。
http://www.asahi.com/special/10005/TKY201103140496.html

質問者「２号機についてだが、燃料棒の溶融は起きたと考えているか。」
枝野氏「それが起きている可能性は高い。１、２、３、いずれも。確認はできないが、起きている可能性は高いという条件は三つとも同じだ。」

【この会見を受けた記事】
２号機でも炉心溶融か　燃料棒露出、空だき状態に - 朝日新聞
http://www.asahi.com/special/10005/TKY201103140437.html

「１～３号機すべてで炉心溶融の可能性高い」枝野長官 - 朝日新聞
http://www.asahi.com/special/10005/TKY201103140442.html

東電の小森氏は「炉心溶融」を避けました

これは、「炉心溶融」を使うなと官邸から指示があったとされる14日よりも前の話です。

炉心溶融の可能性、東電も認める　福島第一原発１号機 - 朝日新聞
http://www.asahi.com/special/10005/TKY201103120510.html

“東京電力の小森明生常務は１２日夜の記者会見で、爆発があった福島第一原子力発電所１号機から放出されたとみられるセシウムが検出されたことを認め、 「炉心そのものが通常とは違う状況になっている可能性はある」と述べた。原子力安全・保安院が指摘した「炉心溶融の可能性」を認めた。 ”

この会見について、東電第三者検証委員会は“小森常務は、炉心溶融の可能性がある旨の回答をしていた”と説明していますが、「炉心溶融」を避けて言いかえをしているのは明白です。

参考：東電第三者検証委員会 検証結果報告書から

http://www.tepco.co.jp/press/release/2016/pdf/160616j0301.pdf

3/12 14:00 保安院・中村審議官、炉心溶融の可能性があることを説明する。

“(3月12日)午後2 時頃の保安院プレス発表においてA審議官が「炉心溶融」を半ば認めるかのような発言をした”

3/12 17:50 保安院・中村審議官が広報を担当したのはここまで。

“平成23年3月12日の17時50分まで、保安院の記者会見の主たる説明者であり、炉心溶融を半ば認めるかのような発言をしていた原子力安全基盤担当のA審議官が、同日の18時以降の記者会見時における主たる説明者の役割から外れ、その後の記者会見では、B首席統括安全審査官が主たる説明に当たることとなった。”

3/14 20:40 東電・武藤氏、炉心溶融使うなとのメモを受け取る。

“(3月14日)20時40分頃からの記者会見に臨んでいた武藤副社長が、その席上、東電の広報担当社員から、『炉心溶融』などと記載された手書きのメモを渡され、「官邸から、これとこの言葉は使わないように」との耳打ちをされた”

参考：中村氏は4月4日にIAEA会合に出席

ＩＡＥＡ、原発の安全強化で一致  日本が福島事故報告 - 福井新聞
http://www.fukuishimbun.co.jp/nationalnews/CO/world/432225.html

“経済産業省原子力安全・保安院の中村幸一郎審議官が４日、ウィーンの国際原子力機関（ＩＡＥＡ）本部で福島第１原発事故の現状を各国に報告、各国は原発の世界的な安全強化が必要との認識で一致した。”