デビルサマナー 葛葉あきつ丸vs吸血極道 #1

広島系ヤクザに対するツテを探そうとしたら、既に過去話で出来ていたSSがこちらでございます 2:https://togetter.com/li/994513
1
劉度 @arther456

(これからSSを投下します。TLに長文が投下されますので、気になる方はリムーブ・ミュートなどお気軽にどうぞ。感想・実況などは #ryudo_ss をお使いいただけると大変ありがたいです。忙しい方はtogetterまとめ版をどうぞ。それでは暫くの間、お付き合い下さい)

2016-06-29 21:01:23
劉度 @arther456

そこは、赤と黄が非常に目立つ街だった。軒先には得体の知れない干草や動物の肉が吊るされ、看板に書かれた漢字は、日本の文法とは食い違いを見せている。ここれは、戦後の復興期、香港から流入してきた中国人移民が、日本の中に作った中国人の街。横浜中華街と呼ばれる場所だ。1

2016-06-29 21:03:08
劉度 @arther456

極彩色の街の中を、一人の少女が歩いている。彼女の肌は白粉を塗ったかのように白い。それに反するかのように、黒いマントを身に纏い、これまた黒い制帽を被っている。服の黒さが、少女の肌の白さを一層際立たせていた。少女の足元を、黒猫が付いて歩いていた。2

2016-06-29 21:06:11
劉度 @arther456

やがて少女は一軒の店の前で足を止めた。ここは、この中華街で最も大きい中華料理屋だ。『四川飯店』と書かれた看板を見上げ、少女は小さく頷くと、黒猫と共に中に入った。「失礼。予約はしておられますか?」すぐに店員が彼女を呼び止める。3

2016-06-29 21:09:06
劉度 @arther456

「自分、葛葉あきつ丸であります。陳殿と約束をしております」「葛葉……少々お待ちを」店員は困惑しながらカウンターに戻り、どこかへ電話する。たまにあきつ丸の顔を確認しながら、話を進めているようだ。その間、あきつ丸は何もせずにじっと待っていた。4

2016-06-29 21:12:07
劉度 @arther456

やがて、電話が終わり、店員が戻ってきた。「失礼いたしました……葛葉様、どうぞこちらへ」店員に先程までの拒絶はなく、すっかり従順になっていた。ホール一番奥のエレベーターに乗り、最上階へ。そこで待ち構えていた2人の番人の間を一礼して通りぬけ、この店の主がいる部屋に入る。5

2016-06-29 21:15:08
劉度 @arther456

豪華な外装とは裏腹に、部屋の中はそこまで明るくなかった。中央のテーブルにだけ、スポットライトで照らすように明かりが集められている。「ヤアヤア、葛葉さん。遠いところから、わざわざどうもネ」テーブルを挟んだ向こう側に座るのは、怪しげな日本語を話す中国人だった。6

2016-06-29 21:18:05
劉度 @arther456

「ワタシ、陳建民。さっきは部下が失礼なことをして、ごめんなさいネ」「失礼とは?」あきつ丸が問うと、陳はわざとらしく溜息をついた。「葛葉さんが女の子だって知らなかったのヨ。お陰で待たせちゃったネ」「いえ、そんなことなら、お気遣いは無用であります。それよりも……」「それよりも?」7

2016-06-29 21:21:09
劉度 @arther456

あきつ丸は素早く、部屋の薄暗がりに鋭い視線を投げた。「部屋の隅に4人潜ませていることの方が、自分は失礼だと思います」「……なるほど。"葛葉"の名、伊達ではないネ。お前たち、下がって良いヨ」陳が呼びかけると、部屋を囲んでいた殺気がスッと引いた。8

2016-06-29 21:24:05
劉度 @arther456

「ま、掛けてヨ。立ち話もナンだし」「失礼します」促され、あきつ丸は椅子に座る。どこからともなく現れた給仕が、温かいお茶を差し出してきた。「大陸から取り寄せた最高級の茶葉ネ。日本人の口にも合うヨ」少し口に含むと、烏龍茶と緑茶の中間のような、不思議な味が広がった。9

2016-06-29 21:27:01
劉度 @arther456

「まずまず、であります」「葛葉さん、舌が肥えてるねぇ。どう?一袋、今ならお安くしちゃうヨ?」「いえ、そのお話はまた別の機会に。今日の依頼は、もっと重要なものでしょう?」「……そうだネ」陳も茶を一口飲んだ。湯のみから口を離し、顔を上げた時、彼の表情は真剣なものになっていた。10

2016-06-29 21:30:11
劉度 @arther456

「スカイシュライン・ヤクザクラン組長、天堂天山。外道に落ちた彼を討って欲しい」葛葉が所属する退魔組織・ヤタガラスは、社会の闇に暗躍する妖鬼や悪神、総称して『悪魔』と呼ばれるモノたちを討滅する役目を帯びている。だが、ヤクザのような法で裁ける悪党は、本来管轄外だ。11

2016-06-29 21:33:05
劉度 @arther456

この依頼に対しヤタガラスが動いたのにはいくつかの理由がある。まず、スカイシュライン・ヤクザクランは、関東各地の祠や神社を次々と買い上げ、無機質なビルに立て替えていた。故意かどうかは分からないが、東京を守護する霊地が次々壊され、東京の地脈は弱体化していた。12

2016-06-29 21:36:03
劉度 @arther456

だが、スカイシュライン・ヤクザクランの所業はそれだけに収まらなかった。組長である天堂天山の屋敷に、異界化の兆候が発現したのだ。異界化すれば、そこから大量の悪魔が押し寄せてくる。陳の依頼を受け、下調べを行っていたヤタガラスの下級捜査員は、この事態にすぐに気づいた。13

2016-06-29 21:39:01
劉度 @arther456

テンドウ邸は横須賀にある。国土防衛の要である鎮守府のすぐ近くに、異界が現れるのはあまりにも危険だ。ここにおいてヤタガラスは、スカイシュライン・ヤクザクランが悪魔を擁する危険組織だと認め、ヤタガラス最強の葛葉を派遣したのであった。14

2016-06-29 21:42:06
劉度 @arther456

「テンドウについての情報はこちらで調べてあります。ですが、貴方に幾つか聞いておきたいことがあります」「何でも答えるヨ」「まず、貴方がテンドウの変貌に気付いたのはいつですか?」「1ヶ月前。テンドウがカミウラを殺した時アル。……あの時、テンドウは変わったってハッキリ分かったヨ」15

2016-06-29 21:45:05
劉度 @arther456

ゴットビーチ・ヤクザクラン。1ヶ月前、組長であるカミウラの死により離散した組だ。「テンドウはカミウラと盃を交わしてた。それを破ってカミウラを謀殺するなんて……昔の彼じゃ考えられないことヨ」あきつ丸はヤクザ者の道理に詳しくはないが、豹変の理由としては納得できるものだった。16

2016-06-29 21:48:05
劉度 @arther456

「なるほど。……貴方は危害を加えられていないのですか?」あきつ丸の調べでは、陳もテンドウと協力して、神奈川で勢力を保っていた。何かが起きてもおかしくはない。「怪我はさせられてないネ。……ただ、土地やお店の方が、ピリピリしてるヨ。ケンカや放火が多くなってる」17

2016-06-29 21:51:07
劉度 @arther456

「ふむ。悪魔の類を見かけたことは?」「町の外でそういう噂が幾つか。でも中には入ってきてないネ。ウチには守り神がいるから」あきつ丸は、ヤタガラスから得た情報と、今の話を照らし合わせる。陳の話に不自然な所はない。依頼を断る理由は、これでなくなった。18

2016-06-29 21:54:04
劉度 @arther456

「……分かりました。テンドウの討伐、引き受けましょう」「……すまないネ。本当なら、ワタシが引導、渡さなきゃいけないのに」「いえ。危険な相手であります。専門家に任せる判断は、間違っていません」陳は頷くと、1枚の封筒を差し出した。謝礼にしては厚みがない。19

2016-06-29 21:57:03
劉度 @arther456

「これは?」「お守りよ。デビルサマナーなら、きっと力を引き出せるね」「……失礼」あきつ丸は中身を改めた。その目が大きく見開かれた。「感謝します」「ワタシにできるのはこれが精一杯ヨ。……テンドウのことを、頼む」あきつ丸は頷くと、席を立った。20

2016-06-29 22:00:19
劉度 @arther456

店員に見送られ、あきつ丸は店を出た。「おい、あきつ丸」低い声が彼女を呼んだ。あきつ丸は、当たり前のように足元に視線を落とした。さっきからずっと付き添っている黒猫がいる。「何でしょう、ゴウト先生」「この依頼、本気で受けるつもりか?」黒猫が喋った。21

2016-06-29 22:03:08
劉度 @arther456

彼の名はゴウト。葛葉あきつ丸のお目付け役としてヤタガラスから送られてきた、黒猫の使い魔である。「そのつもりでありますが……何か不都合がありますか?」「いや、不都合はない。だが、今回の相手はかなり手強いぞ」「それは珍しい」ゴウトが相手を高く見積もるのは中々無いことだった。22

2016-06-29 22:06:10
劉度 @arther456

「奴らは東京の霊地を次々と抑えている。悪魔や風水に詳しい、ダークサマナーがついていると見て間違いないだろう」ダークサマナーとは、犯罪組織やテロリストに加担する悪魔使いのことである。当然、ヤタガラスとは敵対関係にある。23

2016-06-29 22:09:06