六頴館七不思議

自分用めも
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アバヨ @s_cs74_

どんな学校にも七不思議はあって、県下名門私立の六頴館にも似たような噂がある。三階のトイレに受験のストレスで昔首を吊った男子学生の幽霊が出るんだとか、夜の二時になると視聴覚室に設置されたパソコンが勝手に全部起動するとか、どの学校にもある平凡なお話。

2016-03-17 20:52:33
アバヨ @s_cs74_

@s_cs74_ でも校名に因んでか伝わってる話は六つだけで、「残りの一つを知った生徒は皆死んでしまうから伝わってないんだ」みたいなシメになってる。

2016-03-17 20:53:49
アバヨ @s_cs74_

@s_cs74_ 体育祭を一か月後に控えて、学内では応援旗の製作やら競技の練習やらで生徒の居残りが多い。ある週の金曜日は雨でグラウンドが使用できず、皆体育館か教室での作業をすることに。湿度が高くて蒸し暑い。大体5月中旬がイメージ。

2016-03-17 21:00:25
アバヨ @s_cs74_

@s_cs74_ 皆でお喋りをしながら旗に絵を描いていたところで、誰かがふと六頴館の「七不思議」の話を始める。大体四つくらいまで話したところで使ってた絵具が切れちゃって、新しい缶を取りに行かないといけなくなる。

2016-03-17 21:03:34
アバヨ @s_cs74_

@s_cs74_ その絵具が置いてある美術倉庫は渡り廊下を使って別館の二階にあるんだけど、まさに「別館二階の女子トイレ」の鏡」が話題に上ってたところで、皆気味悪がって取りに行くのを渋る。三上ちゃんは別に七不思議も興味がないから、「じゃあ私取ってくるよ」って立ち上がる。

2016-03-17 21:05:54
アバヨ @s_cs74_

@s_cs74_ 怪談のネタにされてたスポットまで夕暮れ時(しかも外は豪雨で真っ暗)に女子一人荷物取りに行かせるのは流石に、みたいな感じで、同じく怪談系そんなに怖くない代表の奈良坂君が付き添いで一緒に出て行く。残されたクラスメイトは、「おぉ!」と無駄に盛り上がる(お約束)。

2016-03-17 21:08:18
アバヨ @s_cs74_

@s_cs74_ 「怖い話平気なんだ」「別に。お前は」「昔は苦手だったけど、妹がすごい怖がるから、苦手とか言ってられなくなっちゃって、今は結構平気かも」とかのどかにお喋りをしながら渡り廊下を渡る。グラウンドはぐしゃぐしゃで、勿論人っ子一人いない。

2016-03-17 21:10:36
アバヨ @s_cs74_

@s_cs74_ 別館は倉庫とか、少人数制授業のときのための予備の空き部屋が多くて、基本的に人はいないんだけど鍵は常に開いてて、朝夕、警備員さんが見回りをして、施錠してる。入ると、人がいないからかやっぱりすこしひんやりしてる。

2016-03-17 21:13:01
アバヨ @s_cs74_

@s_cs74_ 暗くて、廊下の奥に非常口の青いランプがこうこうと光っていて、確かに雰囲気があるといえば雰囲気があるんだけど、ふたりとも特に気にせず中に入る。奈良坂が後ろでにガラス扉をしめたとこで、カツーン、と一度だけ高い音がする。ふたりして立ち止まって、一度顔を見合わせる。

2016-03-17 21:14:18
アバヨ @s_cs74_

@s_cs74_ 「なんか音したね」「…上だな」「…幽霊かな」「かもな」とかいいながら、ゆっくり歩きだす。火災用の非常ベルの赤と、廊下の奥の非常口の緑色だけが鮮やか。ふたりで階段をのぼる。「段数数える?」「帰りは一段減ってるのか?」「増えてるかも」とかいいながら。こいつら余裕だな

2016-03-17 21:16:44
アバヨ @s_cs74_

@s_cs74_ 件の女子トイレの前は案外あっさり通り過ぎて、目的地の美術倉庫に入る。中はあまり整理されていなくてよくわからないものが雑多に積み上がって、埃を被っている。奈良坂君が手探りで電気のスイッチを押す。蛍光灯の人工的な白い灯りに、無意識に息を吐く。

2016-03-17 21:18:08
アバヨ @s_cs74_

@s_cs74_ それからふたりで絵具を探すんだけど、なかなか見つからなくていろんな引き出しやら棚やらを引っ繰り返すはめになる。ようやく見つけたと思ったらやたら色の種類があったり、かたまって使えなくなってたりしてるし、床にはひとつ缶が倒れて真緑の絵具がかぴかぴに乾いてる。

2016-03-17 21:20:19
アバヨ @s_cs74_

@s_cs74_ 何色持っていけばいいのか確認するために、みかみかが体育館にいるクラスメイトに電話をかけるんだけど、いつまでも話し中で繋がらない。もうひとりかけるんだけど、その子も話し中。「あれー…」首を傾げる三上ちゃんと、「男にかけるか」って携帯取り出す奈良坂君。

2016-03-17 21:21:41
アバヨ @s_cs74_

@s_cs74_ こんな感じでふたりとも三、四人のクラスメイトに電話するんだけど皆悉く話し中。「皆話し中、ってちょっとおかしくない?」ってちょっと声を落としたみかみかに「おかしい。そんなわけあるか」って奈良坂君が返した瞬間にピシャンッてひとりでに入口の扉が閉まる。

2016-03-17 21:23:20
アバヨ @s_cs74_

@s_cs74_  面白がって着いてきたクラスメイトの誰かが悪戯したんだろうと仕方なく「誰かいるのか」って奈良坂君が歩いてって扉を開くんだけど、お約束通り、勿論誰もいない。どこかに隠れるにしたって、もう少し人の気配とか、扉を開閉する音とかあってもいいのに、何もなし。

2016-03-17 21:26:06
アバヨ @s_cs74_

@s_cs74_ 流石にちょっと背筋がぞっとして、絵具取ってさっさと戻ろうと振り返ったところで、思わず叫びそうになって口元を抑える。一気に顔色を変えた奈良坂に、みかみかが「どうしたの?」って心配そうに眉尻を下げるんだけど、どうしたのってお前がどうしたのって感じで

2016-03-17 21:27:39
アバヨ @s_cs74_

@s_cs74_ みかみかが立っている辺り、つい五秒前までは零れた緑色の絵具が広がっていたはずなのに、今は一面の赤色で、しかもぬめりというかまだ湿っていて、控えめに申し上げて血の池の中に立ってる感じで、なのにみかみかは全然普通の顔をしてる。

2016-03-17 21:29:09
アバヨ @s_cs74_

@s_cs74_ 「足元、」ってなんとかいうんだけど、「足元?大丈夫よ、乾いてる」ってみかみかが応える。あれって思ってもう一度瞬きをすると、床には乾いて汚れた緑色の絵具が広がってる。

2016-03-17 21:29:58
アバヨ @s_cs74_

@s_cs74_ 俺の気のせいか、って思うんだけど、でも確かにさっきみかみかの足元には血だまりが出来てて、でもいまの彼女の白いソックスも上履きも全然汚れていなくて、軽く混乱する奈良坂君。珍しく顔に出たもんだから、みかみかから甚く心配される。

2016-03-17 21:31:30
アバヨ @s_cs74_

@s_cs74_  「大丈夫、ほんとに」って心配を遮った奈良坂君に「そう?」って首を傾げながら「そういえば、悪質ないたずら面子は誰だったの?」ってみかみかが尋ねる。みかみかも、扉が閉まったのは誰かのいたずらだと思ってる。

2016-03-17 21:32:34
アバヨ @s_cs74_

@s_cs74_ 奈良坂君は「誰もいなかった」って言おうかとも思うんだけど、「元々苦手」って話してたことを思い出して、「佐伯達だった。追い返しといて」って適当なクラスメイトの名前を出して濁す。「あぁ、佐伯君たちやりそう」ってみかみかは苦笑いする。この辺が奈良坂のイケメンたる所以。

2016-03-17 21:35:04
アバヨ @s_cs74_

@s_cs74_ 「じゃあ電話も皆のいたずらね。クラス総出で私達のこと怖がらせたいのかしら」って腕組するみかみかに、「そうだな」って相槌打ちながらも、内心で(なんか変だ)って不安がもやもやしていく奈良坂君。

2016-03-17 21:36:55
アバヨ @s_cs74_

@s_cs74_ もし本当に奈良坂君がみかみかの言うように「クラス総出で自分たちを怖がらせようとしてる」って考えてるとしたら、相槌打つんじゃなくて、単に「面倒臭い…」ってぼやくと思うんだよな。

2016-03-17 21:38:14
アバヨ @s_cs74_

@s_cs74_ みかみかは電話の件でちょっと不安になってたんだけど、皆が仕組んでるんだって思ったらほっとして、「じゃあもう適当に見繕って戻ろうか」って声かける。奈良坂君はとりあえず頷いて、一緒に未開封の缶を探しはじめる。でも内心上の空。

2016-03-17 21:40:32
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