【曇り空を飲む】福間健二 #k2fact147
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2016-06-24 09:17:10いまがだめなら何時に電話すればいいですか。洗いおとせない深刻顔が並ぶ丘は黙っている。日没、部分的には、棄ててしまえばいいもの棄てずに、単純に動く状況に彩度を押しつけられている。そのバーを強引にまたぐ。おいしい野菜をつくる人を訪ねて話を聞く。(曇り空を飲む2)#k2fact147
2016-06-26 11:04:56負けると思った。地面への立ち方がちがう。でも、おなじ悪夢を見てきたのだ。ここに鍵はないと平気で嘘をつく事務員たちの愛撫する部位を悶えさせたまま、デスクからデスクへと歩き、つまらない冗談に相槌を打つうちにじゃま者になった自分が鍵を隠している。(曇り空を飲む3)#k2fact147
2016-06-27 10:32:37徐々に実体として、二〇一六年五月四日、六月七日、指令しあう日付からの、追いつめあう動物からの、通路と影が要求される。この朝、そのほかの朝。滴は衝突と悲鳴への反応なのだが、どうしてわかるのか。きみのことを思う人、その人の好きな花がここに咲く。(曇り空を飲む4)#k2fact147
2016-06-28 11:35:14アジサイ、いろんな種類がある。去年、スロヴェニアでそれを知った。記事に促された回想にもさまざまな色を溶かした萼の発達があり、名前をめぐる争いもおこって、さらにここでは傘も死ぬが、軸も死ぬ。軸なしで活動する。楽しくなる。考えろ。動詞だけで。(曇り空を飲む5)#k2fact147
2016-06-29 09:08:00いじってない状態の、小さな形式から発している振動音。輪郭と数がはっきりしてくる。大切な協力者。でも、鏡の中だ。おたがいに、つまらない質問はしない。線の修正は笑うことだけでなんとかしろ、だ。そうなのか。笑っていられるうちは大丈夫とかれらは言う。(曇り空を飲む6)#k2fact147
2016-06-30 11:15:54路地の、文字。「死後の、仕事」だろうか。なにか気体を出したがって蓋が跳ねあがる。あっさり、背の高い娘がペットボトルの水を持ってくる。飲むためじゃない。食べる果実を洗う。手袋をとると柔らかい手があらわれ、夕方になった。青い卵、見に行きますか。(曇り空を飲む7)#k2fact147
2016-07-01 09:19:30火曜日か水曜日に消えた手品師を土曜日には呼び戻している笑顔の店員さん。フクハラ新得店。彼女がいるだけで、静止しない世界が夢のような主張を受け入れる。神妙に。まっすぐな長い道を、ぼくの手品を見破るために歩く死者たち。よみがえりたいと言っていい。(曇り空を飲む8)#k2fact147
2016-07-02 09:12:44どっちに。話し相手の、方向音痴の「王様のいとこ」が行こうとするのと反対に。どっちのおにぎり。アリスが残すやつ。梅干しの方かな。アリス、大型になってお腹がすくだろうに。人のことを思って、迷路の奥。困っても笑っている。育てられなくても育つ草です。(曇り空を飲む9)#k2fact147
2016-07-03 12:08:53人生の大転換が待っていました。曇り空の下、いきなりの提案を取り消すために屋根に梯子をかけたのである。降りてきたのは内縁ミュージカルの一座。振付師に逃げられたという。チャンス、自由に踊ればいい。実技、自信はあるけど、理科室の夢を掃除してから。(曇り空を飲む10)#k2fact147
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