ショートショート「腹痛」

物書きモトタキ @motoyaKITO

【腹痛】

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通勤電車に揺られている。なのに腹痛。次に電車が止まったときに、飛び出して駆け込んで、いっそのこと楽になってしまいたい。 だがしかし、それはできない。この車両から降りた時点で、会社には遅刻確定。部長のネチネチとした説教から始まる朝だなんて、最悪の極みだ。 それは避けたい。

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しかし、もう、4日目だ。4日目も、こいつは俺の腹の中にいる。いけない。育ち過ぎているように感じる。 病院に行くべきだろうか。それも大層だと感じる。しかし、しかしだ。育ち過ぎたこれを生み出すことで死んだひともいるとニュースで見た。 会社の朝礼が終わったら飛び込むか。そうするか。

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う、うぐぐぐぐ。ゴロゴロとしている。腹の中で、アレが転がりまわっているかのようだ。なんて、ことだ。まずい。出てきそうだ。 人前で、そんなことをするわけには。あれ、あれれ。でも、これ、ダメだな。もう、ダメだ。ダメすぎる。 ここで、もう出すしかない。

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恥ずべきことだ。しかし、しかしだ。もう限界なのだ。ギュウギュウの乗客たちが、俺の腹を圧迫する。もう、堪え切れるものではない。 こそっと、こそっと出してしまおう。そうだ。そして、駅のあそこで処理していけば、うん。そう、……ぐ、ぐぐ、もう、だめだ。 うん、産もう。

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俺はそう決心したが早いか、持っているカバンで臀部をそっと隠した。ズボンの盛り上がりで誰かに悟られてはいけない。 こそこそと、それでいて粛々と、俺はそれを産み落とした。4日目のそれは、やや普段よりも大きかった。 そのままの状態で、俺は目的の駅まで心ここに在らずで揺られていった。

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電車が止まるなり、俺は駅の分娩室に飛び込んだ。本来ならここで産卵するはずだった。 俺はズボンに隠された、産みたての卵を取り出して、そっと分娩室の卵置き場においた。 この卵は、政府が預かり、孵化させ、育てる。俺もそうやって、この世に生を受けた。

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駅から出て、羽を広げる。後は会社までひとっ飛びするだけだ。そういえば、他の星では猿を祖先とする人類もいるという。 彼らは繁殖がやたらと難しい手順を踏まねばならぬために、今や絶滅の危機にあるそうだ。悲しいことだ。 我々のように、鳥を祖先とすれば、そうした危機はなかったろうに。

物書きモトタキ @motoyaKITO

【完】