同題ｆｆTB様出題　「笹」

七夕という風習を僕が知ったのはつい最近のこと。アポロンメディアの玄関に突然大きな笹が出現したからだった。なんでも夏の時期に、世界各国の風習を巡回した展示をしているそうなのだ。今回はたまたまテーマが日本。勿論虎徹さんは嬉々として僕にも短冊を渡して何か書けという。笹 #同題ffTB

2016-07-06 22:01:49

短冊には願いや目標を書くものなのだと言う。ありきたりだが皆の健康を書こうかなぁなどと考えていた僕は、ふと虎徹さんの手元が気になって、行儀が悪いけれど覗き込んだ。すると僕には読めないと思ったのだろう、彼は笑って見せてくれた。　笹 #同題ffTB

2016-07-06 22:04:22

漢字と平仮名の入り混じったシンプルな四つの文字。虎徹さんがどこか遠い目をしていたのが気になって僕は短冊を書く前に彼の言葉を調べてみた。「会いたい」と書かれていたみたいだ。彼は誰に会いたいのだろう。少なくとも今身近にいる僕でないことは確かで、少し複雑な気分。　笹 #同題ffTB

2016-07-06 22:08:13

きっと七夕というお祭りの趣旨にその答えはあるに違いない。僕は昼のランチの誘いを断ってまで、居残って祭りについて調べてみた。織姫と彦星。天の川に引き裂かれた恋人同士が由来だったんだ。会いたいと願う織姫が誰なのか。考えなくても分かる。友恵さんだ。　笹 #同題ffTB

2016-07-06 22:11:21

二人を遮る巨大な川を年にたったの一度だけ渡ってくる織姫。彼の中にしっかりと根付いている彼女の存在に僕は少し息が詰まりそうになり。天の川が酷く増水して溢れかえる様を想像してため息をついた。渡れる渡れないが問題なんじゃない。彼女を求める彼の心が僕にはまだ少し辛い。　笹 #同題ffTB

2016-07-06 22:17:13

彼の人生全てを飲み込めるわけなどないことは分かっているけれど。いや、そう、狭量なんだ、僕が。彼が喜ぶことを後押し出来ない僕の器がまだまだ全然小さいんだ。僕は苦笑して自分の短冊に願いを書くことにした。全ての人の願いがあまねく叶いますように。そうあなたの願いも。　笹 #同題ffTB

2016-07-06 22:20:57

でも織姫一つだけお願いしたいことがあるんだ。どうかまだ、彼を連れて行かないで。どうか僕に、この世界に返してほしい。僕には、この世界の人たちにはまだ、彼が必要なんだ。少し涙が滲んで情けなくてまた笑ってしまう。僕だけのあの人でなきゃ嫌だなんて子供みたいな駄々だ。　笹 #同題ffTB

2016-07-06 22:23:48

コンコンと扉付近で音がして、僕は慌てて目元をぬぐって振り返った。虎徹さん？なぁ、なんか勘違いしたんじゃないかバニーって。いえ勘違いも何も。俺が会いたいって思ってんのはバニーの親御さんだよ。そういって彼は僕の短冊をひょいと摘み上げる。　笹 #同題ffTB

2016-07-06 22:25:53

こんなにいい奴に育ってんですよって、俺すっごい言いたくてさ。言いながら愛しくてならない表情で僕のこめかみをなで、ぬぐいきれなかった涙の跡にそっと触れる。友恵にはまだ会いにはいけねーよ。もしも会いたいと思ったらあいつなら天の川位自力で渡ってくるさ。　笹 #同題ffTB

2016-07-06 22:29:02

僕は微笑む彼の体に両手を回して抱きつく。こんな時ばっかりことさら優しい虎徹さん。いつか二人で手をつないで友恵さんに会いに行きましょうね。その時になら僕は彼の手を離せるかもしれない。あのな、バニーちゃん友恵ならな、俺もバニーも抱きしめてくれるよ。　笹 #同題ffTB

2016-07-06 22:31:14

あいつはそういう器の飛び切りでっかい奴だったからさ。会う前からそれじゃ僕は完敗ですよ。笹 #同題ffTB

2016-07-06 22:33:05